【2025年】シンガポール進出完全ガイド〜メリット・デメリット・市場動向まとめ〜

高い工業力と革新力を持つシンガポールは、大企業から成長著しいスタートアップまで、多くの企業から地域統括会社を設立する国として選ばれ続けています。そんなシンガポールが、世界の企業からパートナーとして選ばれる理由とは?「東南アジア市場のハブ」としてのポテンシャルに迫ります。
シンガポールに進出する日本企業

東南アジア市場のハブとしての地位を確立してきたシンガポール。物流や貿易の拠点として利便性が良く、日本を含む世界各国の企業がシンガポールへ進出しています。
そんなシンガポールは、現在もますます発展し続けており、あらゆる業種や業態が進出に向けて注目しています。日本企業の拠点配置の動きは2016年をピークに落ち着いてきていますが、シンガポールの統括拠点としての位置付けは変わらず高い状況を維持しています。
さまざまな業種が進出

2021年時点で、約795社の日系企業(日本商工会議所登録企業数)がシンガポールに進出しており、2022年12月時点で実際の日系企業数は1,084社に達しています。
事実、多くの企業がアジアで展開している事業を強化するための統括拠点を、シンガポールに配置するという傾向があります。シンガポールでは最近、他国にあった統括拠点をシンガポールに移すケースや、製造業以外の幅広い業種がシンガポールにアジア統括会社を新設するケースが増えています。


近年では日本の小売業や飲食業の進出が加速傾向にあり、大手日系デパートやドラッグストア、アパレル業界などの店舗拡大や新規進出が増えています。モールの中に店舗を構えることが多い飲食業界では、大手ファストフード店や居酒屋チェーン店、ラーメン店などの進出が増加中です。
さらに、業界別では以下のような進出例が挙げられます:
🔷食品業界
法整備や物流、健康志向などの観点から日系企業が進出しやすい土壌が整っています。シンガポール企業との連携やM&Aによるサービス展開がトレンドになっています。
🔷物流業界
独自の物流ネットワークを持つ企業、コンテナ輸送事業とロジスティクス事業を中心とする企業、工場との連携で輸送を行う企業、その他引っ越し業者など、多数が進出しています。
🔷旅行業界
シンガポールの日本人観光客のサポートやツアーの開催、シンガポールからの急な出張、赴任や帰任の渡航サービスを提供する企業が複数社あります。
🔷IT業界
業務システム開発やIT環境構築、クラウドサービスの提供、総務関連のアウトソーシングなど、多方面の分野を手掛けるIT企業が進出しています。コストやセキュリティ、グローバル展開を重視したサービスを展開しています。
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シンガポール進出に役立つサポート企業

日本企業がシンガポールに進出する形態は、さまざまな種類があります。例えば、日本の大企業がシンガポールのシェアオフィスに移転することや、M&A(合併と買収)などです。
また最近の傾向としては、銀行や証券、保険などの金融分野にIT技術を組み合わせたFinTech(ファイナンス テクノロジー)や、資金調達を目的とした独自の仮想通貨を投資家に発行するICO(イニシャル コイン オファリング)といった新しいビジネスも注目されているようです。

東南アジア諸国の中でも、特にシンガポールはビジネスシーンの変化のスピードが早く、進出には現地のビジネス市場の迅速なリサーチが必要不可欠です。市場調査や現地視察、テストマーケティングなどはもちろん、現地での事業の可能性を見極める専門的な知識も必要です。
シンガポールでは、事業を拡大する日本企業をサポートする広告会社や調査会社、人材会社などの企業数が増えていますが、近年はこれに伴って、コンサルタントや会計会社、法律事務所、不動産売買/仲介業者など、日本企業の進出を支えつつ、具体的な実務ガイドを提供してくれるビジネスサービス関連会社も増えてきています。シンガポール進出に必要なリサーチや準備を専門家に外注することでプロのサポートが受けられるため、より効果的です。
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シンガポール進出のメリット5選

米報道社U.S. News and World Reportが発表した「Open for business(Business friendly countries that are ready to investment)」によると、シンガポールは起業のしやすさランキングでは世界第10位、また、世界銀行が発表した「ビジネス環境(Business Ready)」報告書(50か国対象)におけるビジネスをしやすい国ランキングでも高ランクに位置しています。
特に主要カテゴリの業務効率(Operational Efficiency)と公共サービス(Public Services)においてはそれぞれ1位と2位を獲得しており、企業の運営効率が優れていること、インフラの整備や公共機関からの支援が充実していることなどがうかがえます。そんなシンガポールに日本企業が進出するメリットをご紹介します。
公用語が英語
企業が、海外進出をする際に重要視するポイントと言えば言語ではないでしょうか。シンガポールには英語・中国語・マレー語・タミル語の4つの公用語があります。基本的に英語で生活している人が多く、多民族間でのコミュニケーションに慣れているため、ネイティブではない英語にも寛容です。
英語でのコミュニケーションがスムーズにできるというメリットは、進出後の業務効率の観点から見ても有利です。英語1つわかれば広告や人材募集、行政手続きなどを幅広く行えます。
優遇制度が整っている
シンガポール政府は国のビジネス成長を強化するため、企業向け支援策を展開しています。研究開発や事業拡大、効率改善、従業員のスキルアップに至るまでを支援する助成金などを用意しています。大企業から設立5年未満のスタートアップ企業まで、個々の会社に合わせた企業支援を行っています。
税制面から見ても有利なシンガポール。シンガポールの法人税率は最高で17%で、世界の中でも低い税率です(一定の条件下でスタートアップ免税制度や部分所得免税制度の適用あり)。さらに、シンガポールと二重課税防止協定 (DTA)を締結している約100の国・地域では、特定国外所得に課せられる税金が免除または軽減されます。日本もこのDTAの協定国です。

シンガポールと日本は自由貿易協定 (FTA)を結んでおり、両国間の人や物、サービス、資本、情報のより自由な移動を促進し、経済活動の連携を強化しています。これにより商用目的の人々の移動の容易化や、研究者の交流やサービス貿易などを促進しています。また、送金の自由やシンガポールでの特許付与手続きを円滑化し、両国の中小企業間の協力も行っています。
他にも、一定の分野を除いて外国資本による全額出資が原則認められており、シンガポールで設立された企業の最低授権資本に関する法定要件もありません。このようなシンガポールのビジネス環境は、日本企業にとって非常にビジネスがしやすい環境と言えます。
東南アジア最大の起業拠点
シンガポールは、世界の中でも主要なスタートアップハブでもあります。グローバルなコネクションに優れているシンガポールを通して、レベルの高い人材の獲得や研究機関にアクセスできることで、ビジネスの成長が期待できます。
スタートアップ企業が政府機関や多国籍企業 (MNC)と共同で起業家の育成やベンチャー活動を行う機会もあり、起業を支えるための経済システムが東南アジアの中では最も充実しています。また東南アジア進出日系企業とスタートアップとの協業においても、シンガポールは最も多くの企業と連携しています。
充実した生活環境

シンガポールは住みやすい都市としても有名です。その理由としては、政治的安定性や低い犯罪率、質の高い住宅、優れた医療サービス、確立された交通機関などが挙げられます。世界で最も人口密度の高い国のひとつでもあるシンガポールは、都会の中にもバランスよく、豊かな緑や公園を整備しています。また医療制度は手頃な価格で利用しやすく、島全体に2,000を超える一般開業医の診療所があります。
道路はきれいに整備され、ほとんどの主要な観光名所には地下鉄の駅が隣接しており、運賃が安いことも特徴です。交通機関が発達しているためにアクセスが良く、東端から西端までの移動も1時間半ほどです。またシンガポールは世界各国のグルメを堪能できる、食通にとっても最適な国です。
各種手続きがシンプル
シンガポールでは個人でSingPass、法人でCorpPassを所有していれば、会社設立の手続きをシンプルにオンラインで完結できます。シンガポール経済開発庁(EDB)によると、会社設立申請は申請料納付後から通常約15分ほどで、承認にかかる所要日数は営業日内で約1日半という短さ。会社名や会計年度、登記住所、株主と役員の選定などは別途決める必要がありますが、その後の申請スピード自体は東南アジアでも最速となっています。
費用に関しては、名前の申請料と会社の登録料で計S$315、資本金はS$1から始められます。
シンガポール進出のデメリット4選

日本企業がシンガポールに進出する際にはさまざまなメリットがある一方で、いくつかのデメリットもあります。ここからは、シンガポール進出のデメリットについてご紹介します。
厳しい就労ビザの取得条件
日本人がシンガポールで就労する際に取得を検討するビザはいくつかありますが、一般的なものとして、Employment Pass(EP)とS-Passがあります。
EPは、駐在員や現地採用の日本人に多く発給されているビザで、専門職や管理職に就く人を対象としています。EPを取得する条件は学歴やスキル、月給などの各項目において厳格な基準があります。
🔷EP適格給与
2025年1月1日から新規申請でS$5,600 / 2025年内の更新でS$5,000
(共に23歳から45歳まで段階的に増額)
🔷COMPASS
2023年9月から導入されたポイント制評価システム
(合計40点以上の取得が必須)
S-Passは専門職や管理職ではない一般職や技術職、作業職に就く人を対象としています。S-Passにも一定以上の月給の設定基準があり、さらに企業はS-Pass保持者の人数に応じて外国人雇用税を毎月支払わなければなりません。未払いの場合は罰則が課されます。
🔷S-Pass適格給与
新規申請および更新でS$3,150(共に23歳から45歳まで段階的に増額)
※2025年9月1日からの新規申請および2026年9月1日からの更新で最低S$3,300の予定

また、シンガポール政府は外国人労働者への過度な依存を抑制するため、段階的に就労ビザの発給基準を厳格化するとともに、外国人雇用税の引き上げを実施しています。
上記のほかにも、シンガポール政府は新たにOverseas Networks&Expertise Pass(海外ネットワークと専門知識パス)と呼ばれる特別就労ビザを発表しました。ビジネス、芸術や文化、スポーツ、科学と技術、学問と研究における優秀な人材を獲得しようという試みです。
小規模な市場
シンガポールの国土面積は年々埋め立て地などの増加で広くなってきていますが、東京23区より少し広い程度です。人口は約604万人(2024年)で、隣国のマレーシアの約6分の1。市場規模自体は決して大きくありません。また比較的歴史が浅い国でもあるため、文化や芸術方面においては発展途上であるという見解もあるようです。
一方でシンガポールは、1人あたりのGDPがUS$約84,734(2023年)。日本のUS$約33,898(2023年)と単純比較すると倍以上であり、経済的にもかなり発展していると言えます。市場規模が小さいにもかかわらず多くの日本企業が進出する理由として、シンガポールでの実績を土台にアジア各国へ進出していくことを目指しているからと言えるでしょう。
人件費の高さ
シンガポールの日系企業が抱える課題やリスクとして挙げられるのが、人件費の高騰です。2022年はシンガポールでもインフレが加速して大幅な賃金上昇が際立ちましたが、翌年の2023年6月時点で、フルタイムで働く国民(永住権者を含む)の総月給の中央値はS$5,197(約58万5千円)と、前年比2.5%の増加となりました。
2024年はS$5,500(約61万8千円)と前年比6%前後の増加となっています。2019年から2024年までの単年度ごとの変化率は平均3.8%となっており、緩やかに上がっていることから、2025年以降も上昇の傾向が続くと予想されます。(Ministry of Manpower Singapore 調べ)
また、製造業の中間管理職の賃金は東南アジアの他の国に比べて約2.5倍と、人件費が高いことが分かります。
物価の高さ

シンガポールで実際に生活するうえで重要なポイントのひとつが住宅費です。外国人は基本的にHDBと呼ばれる家族向けの集合住宅やコンドミニアムを借りて生活する人が多いようです。
立地や部屋の数にもよりますが、HDBの住宅費は1か月あたり約S$2,200〜4,400(約24万円〜49万円)※1、コンドミニアムの住宅費も都市部や郊外など地域にもよりますが、住宅費は、約S$2,500〜8,500(約28万円〜約96万円)※2。住宅費の高さから、シェアハウスを選択する人も多いようです。
また、家賃を除く全体の生活費も、日本と比べて約52%高い(2025年2月18日時点)とされています。
さらに、シンガポールには国産車がなく、車両登録料など車の値段の約5~6倍の税金や手数料がかかります。 他にもお酒に含まれるアルコールの量によって輸入酒が高額になるなど、物価が極端に高いものには注意が必要です。
※1:The Housing & Development Board (HDB)調べ
※2:Urban Redevelopment Authority調べ
直近の1平方フィート辺りの中央値が約S$2.5〜8.5(約280円〜957円)。3ベッドルーム/1,000フィートとし1,000倍の価格で算出
変化する政府の企業誘致

シンガポール政府はサービス関連の設備投資を拡大し、デジタル経済の実現を視野において外資企業の誘致を強化しています。製造業においても高度な製造活動の誘致を強化していくため、単純な部品製造拠点は減少していくとみられます。
今後は企業のイノベーション支援強化を重視し、現在力を入れている研究開発(R&D)関連企業や研究機関の増加をすすめており、付加価値の高い事業がシンガポール進出に有利になる可能性が高いと見られています。進出の際には情報をこまめにチェックし、ビジネスパートナーからの支援も検討してみてください。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
●為替レートは、2025年2月時点の数値(S$1=112.6円)で算出しております。
●最新情報は政府サイトなどを確認することをお勧めいたします。
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