HOME特集【食品製造業界】2022年度 シンガポール動向レポート!業界の特徴や日系企業進出理由を分析

【食品製造業界】2022年度 シンガポール動向レポート!業界の特徴や日系企業進出理由を分析

アジアの食品業界の中心になるべく、成長を続けるシンガポールの食品業界。その躍進を技術面や政策で後押しするシンガポール政府のサポートや、日系企業の参入状況などをお伝えします!

シンガポールの食品市場について

人々に根付いている外食文化

もともと外食文化が根付いているといわれるシンガポール。ホーカーセンターなどで食べる方が「安い」、「早い」などの理由があります。また、JETROによると夫婦共働き世帯が69.1%と多く、世帯月収が高いことも要因の一つです。未調理飲食品への支出(月平均S$389、2017/18年時点)よりも、ホーカーセンターやフードコート、レストランでの支出(月平均S$437、2017/18年時点)の方が多くなっています。コロナ禍において、一時期は外食支出の半分が自炊に切り替わった時期もありましたが、規制緩和とともに回復傾向にあるといえるでしょう。

食料品は輸入に依存傾向

ストリートフードや有名な高級レストラン、多国籍料理などで食の楽しみも多いシンガポールですが、その食品の90%以上を170以上の国や地域から輸入していることが、現在の課題となっています。ウクライナ紛争による食品のインフレや鶏肉の34%を輸入している隣国マレーシアが鶏肉の輸出を禁止したことなどから、国内生産の必要性が高まっています。

そのため、食の安全や安心を監督するために2019年に設立されたシンガポール食品庁(SFA)は、2030年までに国内生産量を10%未満から30%に増やす施策を打ち出しました。その対策の一環として最近話題になったものが培養肉です。シンガポール食品庁(SFA)が既定の安全基準を満たしたと判断し、シンガポールが世界で初めて一般市場での販売を実現しました。

シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore)とシンガポール通商産業省(Ministry of Trade and Industry)によると、4月の食品価格は前年同月比で4.1%上昇し、3月の3.3%から上昇傾向にあります。それにともない、レストランなどでの値上げが予想されます。世界銀行は、今年の食糧価格は約20%上昇し、2023年には緩和されるとの見方をしていますが、食品価格に及ぼす影響は気になるところです。

健康志向のシンガポールの人々

近代化の進むシンガポールでは、より多くの人々が食料品を購入する際に栄養や環境要因を考慮するようになっています。実際に購入する製品のブランドについてよりよく知りたい、また、シンガポールの環境保護のためなら、多少高い製品を購入しても良いと考える人々は約80%にもなります。

そのため、企業側は健康的で環境にやさしい製品を開発し、製品ラベルで原料の由来や栄養価を正確に伝えることや、より栄養価の高く持続可能な食品を開発することが求められています。低GI値や高タンパクのスナックなど、健康的な製品や生分解性包装の使用、倫理的な調達方法の採用など、さらなる持続可能なビジネスの構築も必要となっています。

このように食にこだわりがあることは、生活水準が高い証拠でもあります。一方で、国内生産量の増加を目標としている政府としては、国内製造の培養肉などをより自然に近いものを好むこだわりのあるシンガポール国民に受け入れてもらうためには、なにかしらの努力が必要だろうということを課題にあげています。

シンガポールの食品製造業界の特徴

食品製造業の生産高の半分以上は、輸出をしているシンガポール。2017年時点でS$43億(1.1%)のGDPに貢献し、労働者は48,000人とされています。

Food Services Industry Transformation Mapについて

2016年に開始された、食品製造業変革マップ(Food Services ITM)は、テクノロジーの導入を推進することで、2020年までに平均4.5%の生産性の向上と2,000人の新規雇用を創出すること、また2025年までにシンガポールの食品製造業界をアジアの主要なハブにすることを目指した施策です。

具体的な取り組みは下記の通りです。

・技術革新のエコシステム (複数の企業や団体が互いに共存しあうこと)の確立
・国内食品メーカーの国際競争力強化およびグローバル化
・自動化とロボティクスによる生産性向上
・雇用創出の促進と労働者の技能強化

結果としては、2020年4月から10月までのCOVID-19の期間でも、約6,700件の雇用機会が創出され、この計画は軌道に乗っているといえるでしょう。

Food Manufacturing Industry Digital Plan (IDP) の導入

出典:Enterprise SIngapore

シンガポール政府は、食品製造業の中小企業がビジネスの成長のためにデジタル化を促進することができるよう、さまざまなデジタルソリューションを提供しています。企業は、自社のデジタル化がどれほど促進できているかを確認し、その促進具合に応じた支援を受けることができます。

IDPはデジタル化未導入の企業に対して、デジタル化導入の準備のサポートある程度国内でデジタル化が浸透している企業に対しては、グローバルな競争力を強化するためにAIによる生産ラインを稼働できるようにするサポートなど、幅広いサポートを行っています。これらのサポートにより企業は、国際競争力や生産性の向上を期待することができます。

日系企業が多数進出

事業拡大の手段としてM&Aや提携を行うシンガポールの地場食品企業にとって、日本企業の資金力や技術力、「日本ブランド」の信頼性・品質の高さは大きなメリットです。

2010年のキッコーマンによる地場企業の買収を筆頭に、日系企業による地場企業の買収や提携が、現地のスーパーやGMS、レストラン、ホテルに対する食品の流通を加速させています。

なぜ日系企業はシンガポールに進出するのか

グローバル展開

日系企業がシンガポールに進出することは、日本国内の市場だけでなく、今後中間所得層の人口が増加するであろうと見込まれるアジアマーケットをターゲットにすることで、増収を期待することができます。その中で、アジアの中心地であるシンガポール企業への投資や提携は、大きな魅力があります。

シンガポール政府は、シンガポール企業のグローバル化へのサポートを積極的に行っています。業界関係者を通じた政府の強力な支援により、シンガポールの食品を世界に宣伝や紹介するブランドである、Tasty Singaporeへの参加などを積極的によびかけています。日系企業とシンガポール企業がともに協力することはメリットにつながります。

日系企業がシンガポールに進出しやすい理由は以下の通りです。

・ビジネス環境や消費者の所得水準が日本と似ていることからマーケットエントリーがしやすい。
・シンガポールにはすでに、ASEAN諸国に販路を持つ企業が多い。
・法制度や優遇税制が整備されている。
・陸・海・空の物流網が整備されており、食品業界に欠かすことのできない卸売・小売業、
 輸送・保管業が発達している。
・英語でコミュニケーションができるグローバル人材を採用できる。
・多民族国家であることから、さまざまなバックグラウンドを持つ消費者の嗜好を分析できる。
・国策により産業の技術改革を行っているため、新しい取り組みに対して国の支援を受けやすい。
・日本品質の安全かつ安心な商品やサービスを求める高所得者層がいる。

Food Innovateによる優れた開発技術

出典:Enterprise Singapore

シンガポールの食品製造業を成長させるために、複数省庁により牽引されているFood Innovate。シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)やシンガポール経済開発庁(EDB)、シンガポール食品庁(SFA)などが協力して、食品を迅速に製造・商業化し、より大きな市場に販売できるようにすることを目指しています。

具体的には、多国籍企業や食品科学の専門家、業界団体、その他の地元中小企業との共同開発や協力の機会を提供し、新しい知識を習得することをサポートしています。また、新しい食品のアイデアをテストし、短期間で製品を商業化するための共有施設を利用することもできます。フードテックやアグリテックなどの新興分野への進出を考えている方も、有益なサポートを受けることができます。

このような政府の積極的なサポート体制が整っているシンガポール企業との提携やR&Dは、日系企業にも非常に有益です。日系企業との提携事例としては、キッコーマンがシンガポール経済開発庁から共同研究の提案を受け、2005年にシンガポール国立大学の科学部化学科に研究開発拠点を開設し、テストマーケティングを行った例があります。

シンガポールの安全認証制度改定について

出典:Enterprise Singapore

政府はシンガポールの人々の食品の質へのこだわりや健康志向を受けて、消費者に安全な食品を提供すべく、2023年から食品施設を安全保証SAFE=(Safety Assurance for Food Establishments)という指標でランク付けを行っています。

ランクは、食品安全リスクの高低によってA、B、Cの3段階に分けられます。安全リスクが高い食品を取り扱うレストランや食品加工、ケータリングなどの施設をカテゴリーA、パン屋や食料品店、冷蔵店などをカテゴリーB、最小限の食品取扱関与で食品安全リスクが最も低いとされるフードコートや食堂、スーパーマーケットなどは、カテゴリーCです。

それぞれ安全保証の優れた実績を示すことにより、長期のライセンスが授与されます。推定23,000の食品店がこの対象となる予定です。SAFEの実施により、シンガポールの優れた食品安全基準を維持することが可能となります。

エキサイティングなシンガポールの食品業界

近年、所得の上昇などにより、シンガポールの人々の食へのこだわりと嗜好は多様になっています。そのような意識の高い人々のニーズに応えている、最近のシンガポールの食品業界。革新的な技術力とグローバル化への政府のサポートもあり、今最もエキサイティングな産業の一つといえるでしょう。

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●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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