【2024年】シンガポールの物価解説~主要都市との比較&物価とビジネスの関係~
2022年に引き続き、2023年も変わらず「最も物価の高い都市トップ10」の第1位に選出されたシンガポール。魅力的な旅先として世界中から多くの人びとが観光に訪れる国でもあります。そんなシンガポールの最新の物価事情を、日本との経済的関係も交えて詳しく見ていきましょう。
シンガポールの物価事情
2023年のシンガポールのGDP成長率は1.1%で、2022年の3.8%に比べると低成長でした(参考:トレーディング エコノミクス)。
とはいえ、2024年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率(経済成長率)は前年同期比2.7%増でした。内訳としては、金融・保険(前年同期比6.5%)、運輸・倉庫(6.8%)、卸売り(1.5%)が昨年度と変わらず全体のGDP成長に貢献をしています。
政府の2024年度の成長率の見通しは「1.0~3.0%」。アメリカや中国などの経済好調やヨーロッパの金利引き下げから好転の状況が予測できる一方で、国際的な紛争や世界的な金利引き締めが長期化することによる予測不能なリスクを見込んでの見通しです(参考:シンガポール貿易産業省(MTI))。
また、物価を語る上でもう一つ重要な為替レート。シンガポールの為替レートはS$1=約118円(2024.6.28現在)。シンガポール通貨金融庁(MAS)は輸入のインフレ率の抑制を行い、国内のコスト圧力を抑制させ中期的な物価の安定を確保するため、2021年10月より5度にわたって金融引き締めを行っています。
食品の約90%以上を輸入に頼っているなど、輸入品が多く、経済的にも世界経済の影響を受けやすいシンガポールにとって海外のインフレは物価に直接影響を及ぼします。引き続き、政府は2024年もこの金融政策を維持すると発表しています。
なお、2023年の総合消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比4.8%増と、2022年の6.1%増と比べると軟化しています。
それではシンガポールの物価を項目別にみていきましょう。
賃金
2023年度のシンガポール在住者でフルタイムで雇用されている人々の総月収の中央値は*S$5197(約61万円)と、2022年度のS$5,070(約50万円)からわずかに上昇しました。
かねてから国民の生活水準をあげることを国策としているシンガポール。国民のスキルアップ制度などを取り入れ、高収入の職業につけるサポートを行っています。そのような政府の雇用・失業対策も手伝い、過去10年間シンガポールの平均収入は上がり続けています。
*CPF=日本の厚生年金のようなものを含みます
家賃
シンガポール国内の住宅事情は常に需要と供給のバランスが崩れており、住宅価格は購入、賃貸共に高騰している状況が続いています。シンガポール通過金融庁(MAS)によると、新規の住宅供給が2023年には進み、「住宅賃料の上昇が沈静化する」見通しを発表。トレーディング エコノミクスによると、実際には2023年12月の住宅価格は前年同月比の6.84%の上昇を見せていますが、2022年第4四半期の29.8%上昇と比較すると、ピーク越えとの見方ができます。
シンガポール国民のほとんどが住む、住宅開発庁(HDB=Housing Development Board)が運営している高層マンションの賃料は、HDB3ベッドルームでS$2,200〜S$3,200(約26万円〜38万円)/月となっています。また、外国人やシンガポールの富裕層向けのエクゼクティブ コンドミニアムは3ベッドルームでS$3,400〜S$4,000(約40万円〜47万円)/月と高額になります。
*参考:シンガポール政府機関「Housing & Development Board(住宅開発庁)」による2024年第1四半期の統計
ライフライン(水道光熱費)
シンガポールの政府系企業「SPグループ(SP Group)」傘下のSPサービス(SP SERVICES)では水道光熱費関連アカウントを一括管理しています。SPサービスが発表した、2023年6月〜2024年5月の月平均水道光熱費は以下。
●ガス代を含むライフライン費用
*価格はS$、小数点(¢)以下切り捨て
2023年6月 | 2023年7月 | 2023年8月 | 2023年9月 | 2023年10月 | 2023年11月 | 2023年12月 | 2024年1月 | 2024年2月 | 2024年3月 | 2024年4月 | 2024年5月 | |
HDB3ベッドルーム | 119 | 114 | 116 | 116 | 118 | 118 | 112 | 112 | 115 | 120 | 132 | 128 |
HDB エクゼクティブ | 164 | 158 | 162 | 161 | 166 | 164 | 154 | 153 | 160 | 168 | 184 | 180 |
●ガス代を含まないライフライン費用
*価格はS$、小数点(¢)以下切り捨て
2023年6月 | 2023年7月 | 2023年8月 | 2023年9月 | 2023年10月 | 2023年11月 | 2023年12月 | 2024年1月 | 2024年2月 | 2024年3月 | 2024年4月 | 2024年5月 | |
HDB3ベッドルーム | 107 | 103 | 104 | 104 | 106 | 106 | 100 | 99 | 102 | 107 | 118 | 115 |
HDBエクゼクティブ | 147 | 141 | 144 | 144 | 148 | 146 | 137 | 135 | 142 | 149 | 163 | 161 |
交通費
シンガポールでは国土が狭く、交通渋滞などの緩和の目的で自家用購入費用が非常に高くつきます。その代わり、公共交通機関は2022年に2.9%の値上げがあったものの安く設定されています。交通費の安さは、シンガポールの居住者だけではなく、観光に訪れる旅行者にも大きなメリットとなっています。
●MRT(地下鉄)、バス 大人料金 3.2kmまではカード払S$1.09(約129円)、現金払S$1.90(約225円)、最大料金40.2km以上カード払S$2.37(約280円)、現金払S$3.00(約354円) ●タクシー Flag-down fare/ Standard Taxi: S$4.10〜S$4.80(約484円〜567円)、Premium Taxi:S$4.50〜S$5.0 (約531円〜590円)が基本料金となり、この基本料金に距離・時間制運賃、割増料金、予約料金などが加算されます。 |
食費
日系デパートISETANなどの高級デパートからローカルで安価なウェットマーケット(生鮮品市場)まで食材を購入する場所はさまざまです。今回はコスト面では中間程度のColdStrageやFairpriceといった、ローカルスーパーの価格を記載(2024.6.28現在)します。
●お米(岩手ひとめぼれ無洗米日本米):S$18.65(約2,200円)/2kg ●鶏肉(オーガニック、胸肉):S$5.90(約700円)/ 250g ●キャベツ(Gold Round Cabbage):S$3.23(約380円)/ 1玉 ●りんご(アメリカ産ガラ):S$6.95(約820円)/ 900g ●牛乳(Farmhouse Milk ブランド)S$3.73(約440円)/ 946ml |
外食費
世界に名だたるミシュラン獲得のお店から屋台のホーカーまで。外食する場所によって外食費も大きく変わってきます。ここでは一般的なカフェとホーカーでの食費例を記載します。一般的に物価が高いと言われるシンガポールですが、高いも安いも食事をとるところ次第というのは、在住者、旅行者の間では周知の事実です。
カフェメニュー(例) ●エッグベネディクト: S$24(約2,850円) ●ワッフル、パンケーキ:S$24〜S$29(約2,850〜3,440円) ●シーザーサラダ:S$23(約2,730円) ●ピザ、パスタ:S$21〜S$34(約2,480〜〜4,000円) ●ラテ、コーヒー:S$5.5〜S$7.5(約650〜890円) |
*参考:Nassim Hill Bakery Bistro Bar メニュー(2024.6.28現在)
さらに税金9%(2024.6現在)、サービス料が10%がかかる場合があります。
ホーカー(例) ●醤油チキンライス:S$6.8(約800円) ●醤油チキンヌードル:S$7.8(約920円) ●コンビネーションプレート:S$12(約1420円) (醤油チキン、チャーシュー、ローストポーク、ポークリブから2品選択の場合) ●水餃子:S$5(約590円) ●野菜炒め:S$6(約710円) |
*参考:Hawker Chan、2024.1のメニュー
他国との比較
シンガポールの物価を他国の主要都市と比較した表です。(%の数字はシンガポール対比率です)
*NUMBEO物価比較より
*2024 7.12現在
*価格はS$、小数点(¢)以下切り捨て
シンガポール | 東京 | ニューヨーク | ロンドン | パリ | 北京 | サンパウロ | アブダビ | |
都市部のアパートメント賃貸(3ベッドルーム)/月 | 7,035 | 3,592 +95% | 11,670 -39.7% | 3,307 +112% | 4,514 +55% | 3,087 +127% | 1,386 +407 % | 3,849 +82% |
都市部のアパートメント購入(Sqm毎) | 27,676 | 12,364 +123% | 24,012 +15% | 4,527 +511% | 17,035 +62% | 19,488 +42 % | 3,304 +737% | 6,925 +299% |
プライベートプリスクール(幼稚園)全日制一人分/月額 | 1,461 | 685 +113.1 % | 4,270 -65.8% | 712 +105 % | 1,086 +34% | 947 +54 % | 660 +121% | 919 +59% |
映画料金/席 | 15 | 16 -7.7 % | 26 -44 % | 14 +1% | 18 -21% | 11 +34% | 11 +33% | 18 −18% |
ガソリン/L | 2 | 1 +90% | 1 +109% | 1 +87% | 2 +2% | 1 +85% | 1 +102% | 1 +163% |
シンガポールと日本の経済的関係
シンガポールは日本とは親密な関係にあります。1995年には租税協定が結ばれ、2002年11月には日本初となる経済連携協力「日本・シンガポール新時代経済連携協定」(いわゆる自由貿易協定)が発効しました。これは貿易・投資のみならず、金融、情報通信、人材育成といった分野を含む包括的な二国間の経済連携を図ることを意図した内容になっています。
シンガポールの物価が日本に与える影響
貿易
日本はシンガポールにとってアメリカ、EU、中国、ASEANに次ぐ主要な貿易相手国となっています。日本からシンガポールへの主な輸出品は、半導体等電子部品 、船舶類 、石油製品 など。そしてシンガポールから日本への主な輸入品は、半導体等製造装置 、光学機器 、有機化合物などが挙げられます。
シンガポールの物価が高騰することにより原材料の価格もあがり、同時にシンガポールから日本への輸入品の価格も上昇します。そのため、シンガポールからの輸入品を利用する日本企業の生産コストが上がり消費者価格も高騰し、日本経済に影響を与える状況となっています。
投資
一方で、日本の直接投資先はASEANの中ではシンガポールがトップ。シンガポールには多くの日系企業が進出しています。現在日本法人の進出は1,084社(2022年12月時点)に及び、シンガポールに在留する邦人数は32,743名(2022年10月時点)です。主に東南アジアのハブ拠点として事業展開を目的として多様な業種がメリットを享受しています。
シンガポールにとっても日系企業の誘致は、技術の共同研究を行うなどのメリットがあります。ただし、日系企業がシンガポールに投資する際のここ数年の問題点として、シンガポールでの人件費の高騰、ビザや就労許可取得の困難、煩雑さ、土地や事務所スペースの不足、地価や賃料の上昇、従業員の離職率の高さが挙げられています。
また、シンガポールはアジアで最大の対日投資国でもあります。コロナ禍以降の観光回復を狙ったホテルやリゾート施設の買収、物流施設への投資などを行っています。
シンガポールの外資導入への姿勢
シンガポール政府は知識集約型経済構造の確立を目指し、先端技術部門、高付加価値産業部門、研究開発部門、ビジネスハブ機能の強化を政策として計画的に行っています。国際的な競争力を高めるためにも海外企業の導入には積極的で、法人税を低くするなど投資優遇措置を行っています。また、研究開発、企業の国際化、中小企業の生産性向上・能力開発、起業を促進するための助成金制度や投資制度など、進出企業へのサポートも積極的です。
しかし一方で外国人がシンガポールで働くために必要なEP(Employment Pass)取得においては、2023年9月からは従来よりも厳格化された「COMPASS」制度が導入された結果、人件費が高騰するなど人材面での外国人の確保は難化傾向にあります。
どうなる?今後のシンガポール物価
シンガポールの物価上昇の動向は、2024年後半には鈍化する見通しですが世界情勢の変化により見通しが難しいのが現状です。しかし、シンガポール政府は国内で発生しているインフレを重く受け止め、インフレ率の低下対策を慎重に行っています。物価の高騰は国民の生活に影響することはもちろん、シンガポールを投資先とする企業の経済活動、ようやく復活しつつある観光産業や旅行者にも大きな影響を及ぼします。これまでも数多くの難題を乗り越えてきたシンガポール政府の手腕に期待し、動向を見守りましょう。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
●金額は2024年6月28日現在の為替相場(S$1=118円)
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