【2023年】シンガポールの物価解説~主要都市との比較&物価とビジネスの関係~

2022年に最も物価の高い都市トップ10の第1位にアメリカのニューヨークに並んで選出されたシンガポール。国土が小さく、家賃が高騰、そして食料自給率10%以下とほとんどを輸入に頼っていることが原因として挙げられます。そんなシンガポールの物価事情を日本との経済的関係も交えて詳しく見ていきましょう。
シンガポールの物価事情

2022年、シンガポールの物価事情を左右するGDP成長率(経済成長率)は前年比3.8%(2021年は7.6%)と緩やかな上昇率でした。コロナ禍の2020年はシンガポール建国以来最低のマイナス5.4%。
翌年2021年には、シンガポールが世界に先駆けて素早くサプライチェーンの混乱を立て直したことが製造業の成長に大きな影響を与え、過去10年で2番目の大幅な伸び率となり前年比7.6%をマークしました。
2022年度はコロナ禍の奈落を経て成長率はさらに伸びるかのように思えました。しかし国際的な紛争問題、緊張感の続く国家間の問題、EUや米国の景気後退など、見通しのつかない要素が重なり、勢いは鈍化した結果となりました。2023年も見通しとしては低成長の予想となっています。
また、物価を語る上でもう一つ重要な為替レート。シンガポールの為替レートはS$1=約99円(2023.2.1現在)。シンガポール通貨金融庁(MAS)は輸入のインフレ率の抑制を行い、国内のコスト圧力を抑制させ中期的な物価の安定を確保するため、2021年10月より5度にわたって金融引き締めを行っています。
食品の約90%以上を輸入に頼っているなど、輸入品の多いシンガポールにとって海外のインフレは物価に直接影響します。シンガポールのGDP成長率と輸入品のインフレ率の状況の見通しは、主要貿易相手国の経済活動に左右され不透明な状況ですが、しばらく経済成長は緩やかになる見通しです。
それではシンガポールの物価を項目別にみていきましょう。
賃金

2022年度のシンガポールのフルタイムで雇用されている人々の総月収の中央値は*S$5070(約50万円)と、2021年度のS$4,680(約46万円)から3.9%上昇しました。
かねてから国民の生活水準をあげることを国策としているシンガポール。国民のスキルアップ制度などを取り入れ、高収入の職業につけるサポートを行っています。そのような政府の雇用・失業対策も手伝い、過去10年間シンガポールの平均収入は上がり続けています。
※CPF=日本の厚生年金のようなものを含みます
家賃
シンガポール国内の住宅事情は常に需要と供給のバランスが崩れており、住宅価格は購入、賃貸共に高騰しています。
シンガポール国民のほとんどが住む、住宅開発庁(HDB=Housing Development Board)が運営している高層マンションの賃料は、HDB3ベッドルームでS$2,000〜S$2,750(約20万円〜27万円)/月となっています。
また、外国人やシンガポールの富裕層向けのエクゼクティブ コンドミニアムは3ベッドルームでS$2,600〜S$3,000(約26万円〜30万円)/月と高額になります。
※参考:シンガポール政府機関「Housing & Development Board(住宅開発庁)」による統計
ライフライン(水道光熱費)

シンガポールの政府系企業「SPグループ(SP Group)」傘下のSPサービス(SP SERVICES)では水道光熱費関連アカウントを一括管理しています。SPサービスが発表した、2022年の月平均水道光熱費費は以下です。
世界的な紛争や世界的なガス供給不足による燃料確保のため、2022年4月から6月までは電気料金があがっていたこともあり、政府はシンガポール国民に対して生活費をまかなうためのバウチャーを低・中所得者に配布するなどして物価上昇の対策を行っていました。
●ガス代を含むライフライン費用
*価格はS$、小数点(¢)以下切り捨て
2023年 1月 | 2022年 12月 | 2022年 11月 | 2022年 10月 | 2022年 9月 | 2022年 8月 | 2022年 7月 | 2022年 6月 | 2022年 5月 | 2022年 4月 | 2022年 3月 | 2022年 2月 | |
HDB3 ベッドルーム | 107 | 108 | 111 | 111 | 115 | 116 | 111 | 114 | 113 | 109 | 101 | 106 |
HDB エクゼクティブ | 144 | 145 | 152 | 149 | 158 | 158 | 150 | 157 | 154 | 148 | 140 | 147 |
●ガス代を含まないライフライン費用
*価格はS$、小数点(¢)以下切り捨て
2023年 1月 | 2022年 12月 | 2022年 11月 | 2022年 10月 | 2022年 9月 | 2022年 8月 | 2022年 7月 | 2022年 6月 | 2022年 5月 | 2022年 4月 | 2022年 3月 | 2022年 2月 | |
HDB3 ベッドルーム | 94 | 95 | 98 | 98 | 102 | 103 | 98 | 101 | 100 | 96 | 89 | 94 |
HDB エクゼクティブ | 127 | 127 | 133 | 131 | 138 | 139 | 132 | 138 | 135 | 130 | 122 | 129 |
交通費
シンガポールでは国土が狭く、交通渋滞などの緩和の目的で自家用購入費用が非常に高くつきます。その代わり、公共交通機関は安く設定されています。
●MRT(地下鉄)、バス:3.2kmまではS$0.99(約100円)、最大料金40.2km以上S$226(約22,370円)
●タクシー:Standard Taxi: S$3.2〜S$3.9、Premium Taxi:S$3.9〜S$5.0 が基本料金となり、この基本料金に距離・時間制運賃、割増料金、予約料金などが加算されます。
※参考:シンガポール運輸局「Public Transport Council」
食費

日系デパートISETANなどの高級デパートからローカルで安価なウェットマーケット(生鮮品市場)まで食材を購入する場所はさまざまです。
今回はコスト面では中間程度のColdStrageやFairpriceといった、ローカルスーパーの価格を記載(2023.2.1現在)します。鶏肉はマレーシアの鶏肉輸出規制が始まったことにより鶏肉の価格上昇などが起きています。
●お米(岩手ひとめぼれ無洗米日本米):S$18.5(約1,800円)/2kg
●鶏肉(オーガニック、胸肉):S$5.90(約580円)/ 230g
●キャベツ:S$3.23(約320円)/ 1玉
●りんご(アメリカ産ガラ):S$5.95(約590円)/ 800g
●牛乳(オーストラリア産Fairpriceブランド)S$2.05(約200円)/ 1L
外食費
世界に名だたるミシュラン獲得のお店から屋台のホーカーまで。外食する場所によって外食費も大きく変わってきます。ここでは一般的なカフェ、ホーカーでの食費例を記載します。
カフェメニュー(例)
●エッグベネディクト: S$23(約2,300円)
●ワッフル、パンケーキ:S$22(約2,200円)
●シーザーサラダ:S$20(約2,000円)
●ピザ、パスタ:S$25(約2,500円)前後
●ラテ、コーヒー:S$6(約600円)前後
※参考:Nassim Hill Bakery Bistro Bar、記事時(2023.2.1)のメニュー
さらに税金8%(2023.1現在)、サービス料が10%がかかる場合があります。
ホーカー(例)
●醤油チキンライス:S$6.8
●醤油チキンヌードル:S$7.8●コンビネーションプレート:S$12
(醤油チキン、チャーシュー、ローストポーク、ポークリブから2品選択の場合)
●水餃子:S$5
●野菜炒め:S$6
※参考:Hawker Chan、2023.1のメニュー
他国との比較
シンガポールの物価を他国の主要都市と比較した表です。(%の数字はシンガポール対比率です)
※20232.1現在
※価格はS$、小数点(¢)以下切り捨て
シンガポール | 東京 | ニューヨーク | ロンドン | パリ | 北京 | サンパウロ | アブダビ | |
都市部のアパートメント賃貸 (3ベッドルーム) | 8,327 | 3,390 -59% | 9,328 +12% | 5,734 -31% | 4,145 -50% | 3,713 -55% | 1,410 -83 % | 4,910 -81% |
都市部の アパートメント購入(Sqm毎) | 26,825 | 11,918 -55% | 18,768 -30% | 19,503 -27% | 17,806 -33% | 23,948 -10 % | 3,482 -87% | 3,687 -55% |
プライベートプリスクール(幼稚園) 全日制一人分/月額 | 1,481 | 650 -56% | 2,976. +101% | 2,477 +67 % | 1,041 -29% | 1,278 -13 % | 593 -59% | 848 -42% |
映画料金 | 14 | 18 +25% | 23 +63.2 % | 19 +34% | 18 +25% | 13 -6% | 11 -59% | 16 +11% |
ガソリン | 3 | 1 -44% | 1 -44% | 2 -5% | 2 -6% | 1 -45% | 1 -48 % | 1 -55% |
シンガポールと日本の経済的関係

シンガポールの発展と共に日本との関係は親密になり、1995年には租税協定が結ばれ、2002年11月に日本初となる経済連携協力「日本・シンガポール新時代経済連携協定」(いわゆる自由貿易協定)が発効しました。
これは貿易・投資のみならず、金融、情報通信、人材育成といった分野を含む包括的な二国間の経済連携を図ることを意図した内容になっています。
シンガポールの物価が日本に与える影響
貿易
日本はシンガポールにとって第8位(2020年)の貿易相手国となっています。日本からシンガポールへの主な輸出品は、半導体等電子部品 、船舶類 、石油製品 など。
そしてシンガポールから日本への主な輸入品は、半導体等製造装置 、光学機器 、有機化合物などが挙げられます。シンガポールの物価が高騰することにより原材料の価格もあがり、同時にシンガポールから日本への輸入品の価格も上昇します。
そのため、シンガポールからの輸入品を利用する日本企業の生産コストが上がり消費者価格も高騰し、日本経済に影響を与えます。
投資
一方で、日本の直接投資先はASEANの中ではシンガポールがトップ。シンガポールには多くの日系企業が進出しています。現在日本法人の進出は805社(2021年4月)に及び、シンガポールに在留する邦人数は36,797名(2019年10月現在)です。
主に東南アジアのハブ拠点として事業展開を目的として多様な業種がメリットを享受しています。一方でシンガポールにとっても日系企業の誘致は技術の共同研究を行うなどのメリットがあります。
日系企業がシンガポールに投資する際の問題点としてはシンガポールでの人件費の高騰、ビザや就労許可取得の困難、煩雑さ、土地や事務所スペースの不足、地価や賃料の上昇、従業員の離職率の高さが挙げられています。
シンガポールの外資導入への姿勢

シンガポール政府は知識集約型経済構造の確立を目指し、先端技術部門、高付加価値産業部門、研究開発部門、ビジネスハブ機能の強化を政策として計画的に行っています。国際的な競争力を高めるためにも海外企業の導入には積極的で、法人税を低くするなど投資優遇措置を行っています。
また、研究開発、企業の国際化、中小企業の生産性向上・能力開発、起業を促進するための助成金制度や投資制度など、進出企業へのサポートも積極的です。
ただし、外国人がシンガポールで働くために必要なEP(Employment Pass)取得においては、高学歴や高スキルが条件とされ、2023年9月からは最低給与額がS$500引き上げられると同時に「COMPASS」という適性検査にパスしなければ取得ができなくなります。
どうなる?今後のシンガポール物価

シンガポールの今後の物価の動向はコロナ禍や世界情勢の変化により見通しが難しいのが現状です。しかし、シンガポール政府は物価の高騰によりインフレが発生し、人々の生活に打撃を与えるようになるとその都度国民が暮らしやすいよう策を打ち出しています。
国際的にも競争力の高い国として評価が高いのはそのように国民の暮らしを一番に考える国のあり方にあるのかもしれません。国民の豊かさに寄り添った経済成長を遂げるシンガポールの物価対策はこれからも世界から注目を浴びるでしょう。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
●金額は2023年2月1日現在の為替相場(S$1=99円)、(US$=130円)で換算表示
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