東南アジア進出のメリット・デメリットは?ASEAN各国の特徴をご紹介~シンガポール・ベトナム・インドネシア・タイの最新トレンド~

東南アジアは、経済成長が著しく、若年層人口の多さや中間層の拡大が進む注目の市場です。今後も全体的に人口が増えていくと予想されており、世界から成長マーケットと認識されています。シンガポールをはじめとする各国の特徴を理解し、適切な戦略を立てることで新たなビジネスチャンスを掴むことができます。
本記事では、東南アジア進出が注目を集める理由やそのメリット・デメリット、成功するための進出ポイントについて詳しく解説します。
東南アジア進出の現状と注目される理由

東南アジアは、経済成長と市場の拡大が著しい地域として、近年多くの日本企業が注目しています。ASEAN主要6か国では、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど実質GDP成長率が安定的に3%を超えている国が多く、特に人口増加に伴う生産・消費行動の活発化やデジタル技術の普及が市場経済の発展を後押ししています。また、日本からの地理的な近さや文化的な親近感も進出先として選ばれる理由の一つです。
一方で、各国ごとに異なる法制度や商慣習、文化、初期コストが存在するため、進出には慎重な計画が求められます。例えば、シンガポールではビザの申請が厳格だったり、インドネシアでは最低投資額が約9,200万円と定められていたりするため、事前の情報収集が必須です。
東南アジア進出のメリット

1.経済成長と市場拡大 |
東南アジアでは若年層人口が多く、購買力の高い中間層が急増しています。この層へアプローチをすることによって、単純に顧客人口の増加を狙えるばかりか、日本国内市場では得られない成長機会や新しいビジネスチャンスを得ることができます。
東南アジアでは現在、特に貿易や輸送、インフラ整備、IT系の発展が目覚ましく、生産効率を考慮した働き方も相まって国内の経済と産業を大きく発展させています。また、経済成長によって、特にタイなど、年間の可処分所得がS$15,000を超える富裕層も増えてきており、個人法人共に消費行動やあらゆる分野への投資が加速しています。このように、生産性と消費が活発であるため、各国のGDPは安定的に成長しています。
2.コストの削減 |
安価なコストに魅力を感じた企業が、東南アジア各地で生産拠点を設けるケースが以前から増えています。特にコストで大きな割合を占めるのが人件費でしょう。例えば、タイでは人件費が日本の約25%、ベトナムでは日本の約17%といわれており、製造業やサービス業でコスト競争力を高めることが可能です。また、資源も豊富なため、現地の資材を活用して輸入コストを削減することも考慮できます。
3.優遇措置/規制緩和 |
東南アジアの多くの国で法人税減税や助成金、経済特区などのインセンティブが用意されており、進出企業にとって魅力的な環境が整っています。そのほかにも具体例がいくつか挙げられますが、輸出代金を外貨のまま保持できること(マレーシア)、公益事業やメディア関係などの一部の分野を除いて外資100%での参入が可能なこと(シンガポール)、オンラインで各種許認可を一括申請できること(インドネシア)などが代表的です。
4.地理的優位性 |
ASEAN諸国間での物流ネットワークが発展しており、日本からも短時間でアクセス可能な点は大きな利点です。特に、シンガポールにはチャンギ空港とシンガポール港という世界でも指折りの貿易ハブがあり、日本との外交関係も活発です。
5.M&Aによる市場拡大 |
シンガポール、マレーシア、タイなどでは経済成長や人材獲得などのポテンシャルが高く、そのメリットからM&Aが盛んです。近年では規制緩和が進んだ上、日本と友好関係を築いている国も多いため、日系企業にとっても参入しやすくなっています。
東南アジア進出のデメリット
1.言語や文化の壁 |
日本から東南アジアに進出する際にまず壁となるのが言語や文化です。日本語や日本型ビジネスに馴染んだ方は特に、現地スタッフとのコミュニケーションや商慣習の違いに戸惑いを感じることがあるでしょう。シンガポールやフィリピン、マレーシアは東南アジアの中でも英語が通じる国ですが、一方、非英語圏では言語の壁があるのが現状です。
2.法制度やインフラの未整備 |
現地の法制度やインフラも、場合によっては大きな障壁となります。例えば、一部の国では税制手続きが複雑で透明性に欠ける、許認可の取得に時間がかかる、ビザの取得が厳格などの問題が発生する可能性があります。また、電力・交通・通信インフラがどの程度整備されているかも把握しておく必要があります。特に都市圏の交通渋滞や計画停電などは重大な社会問題になっており、新規ビジネスの大きな妨げになる可能性も否定できません。
3.政治的・経済的リスク |
東南アジアでは、国によって政情不安や為替変動など、不確定要素も多いため、そうした側面のリスク管理が重要です。過去にはミャンマーの軍事クーデターやフィリピンでの組織的なテロ行為、タイの大規模デモなども発生しているため、現地情報を注視しつつ、必要に応じた危機管理や治安対策を施すことを念頭に置きましょう。また、為替の変動によって、これまで黒字経営だったものが突如赤字に転落する場合もあるため、売出しや仕入れに関する取引などでは予め事前に為替レートを約束した上で売買契約を結びたいものです。
4.自然災害のリスク |
東南アジアでは自然災害のリスクが高いことも無視できません。例えば、インドネシアの地震・噴火、フィリピンやベトナムの暴風雨や干ばつなどには注意が必要です。他にも森林火災や感染症の蔓延も懸念されます。こうしたリスクは予測するのが難しいものの、あらかじめ自分の身や従業員の安全を確保するためのリスク対策を取っておくことをおすすめします。災害時の危険度については外務省のHPに記載されていますので参考にしてください。
注目の6か国!特徴と進出のポイント

ここからは東南アジア各国の特徴と進出する際のポイントや注意点をご説明していきます。ASEAN主要6か国は経済成長が顕著で、生産拠点としてのみならず、消費市場としても魅力があります。
シンガポール
シンガポールは東南アジアにおける金融・物流ハブとして知られています。ビジネス環境やデジタルインフラの整備が強固であり、法制度も透明性が高く、支社やスタートアップを立ち上げやすい点が魅力です。但し、人件費や住居費が高いため、高付加価値事業に適しているという側面があります。EPやS Passの審査の厳格さにも留意しておく必要があるでしょう。
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ベトナム
ベトナムはデジタルリテラシーが高いIT人材が豊富で、製造業を中心に多くの日系企業が進出しています。2022年時点で日系企業数は約2,400社に達しており、実に多くの日系企業がベトナムを魅力的な国と捉えているのかがわかります。
ベトナムは技術力のある優秀な人材を獲得しやすいことに加え、人件費と資材調達費用が日本と比べて低いため、経営面で大幅なコストカットが期待できます。労働と購買意欲が高い若い世代が多く、市場規模も拡大中なため大変魅力的な新興国といえます。日系企業ではパナソニックやヤマハ、イオンなどの大手企業が進出しており、近年は多種多様な飲食店のニーズも増えているため、ビジネスチャンスの可能性は、ますます増えるでしょう。
一方で、南北で文化が異なること、工業化・近代化に伴う環境汚染が顕著なことなどが挙げられており、ベトナム進出時の壁となっています。
インドネシア
インドネシアは人口約2億7,000万人を超える巨大市場を有し、中間層も急速に増加しています。天然ガスや石炭といった天然資源が豊富で鉱業・製造業が盛んであるほか、エビなどの海産物の主要生産地でもあり、日系商社とのやり取りも多いです。生産と消費に積極的とされる若年層の比率が高く、2023年の名目GDPもUS$約1兆3,700億とASEAN最大を誇ります。
日系企業では、京セラや資生堂、伊藤忠などの企業が進出しています。注意点として、最低投資額など規制面でのハードルがあります。また、1人当たりのGDPはASEANのなかではそれほど高くないため、製品やサービスを販売・提供する際には適切な価格設定やマーケティングが求められそうです。大小さまざまな島があるため、物流面も十分に考慮する必要があるでしょう。
タイ
タイはASEAN諸国間をつなぐ物流拠点として重要視されています。特にタイと近隣国を結ぶ「クロスボーダー トラック輸送」が注目されています。これは日本やシンガポールも効率的な輸送手段として利用しているサービスです。人件費が日本の約25%ほどと言われ、物価も比較的安いため、とりわけ製造業などの労働集約型産業では人材コストを安価にできます。
税制優遇措置も用意されており、タイを拠点に働きたい場合にも一定条件の下で優遇措置が受けられます。日系企業も自動車メーカーや精密機器の製造部門がタイに数多く拠点を置いています。しかし一方で、都市部と農村部の格差や政情不安定さには注意が必要です。
フィリピン
フィリピンはマニラ首都圏を中心に労働人口が多く、英語でのアプローチが通用するため、人材の確保がしやすい国です。産業ではサービス業の割合が約6割と高く、英語能力の高い労働力を活かしたBPO(ビジネス プロセス アウトソーシング)産業が盛んです。経済特区や外資に対する優遇制度が充実している点も高ポイントです。ただし、インフラ整備に課題が残っており、特に港湾での貨物渋滞には注意する必要があります。
マレーシア
マレーシアは多民族国家として多様な文化背景を持つ市場ですが、日本の文化やビジネスと親和性が高いため、日系企業が進出しやすい国とされています。GDPが高くビジネス環境も比較的安定していることから、富裕層・中所得層向けの商品展開に適しています。
外資規制も緩やかで、製造業、流通・サービス業では、一部を除いて外資で100%の出資が認められています。これに加え、2025年1月にはシンガポールと合意して、両国が協力して外資を誘致する「ジョホール シンガポール経済特別区」を設立しました。今後もますますグローバルビジネスが台頭してくるとみられます。一方で、イスラム教式の商文化が根付いているため、文化的な配慮を検討する必要があります。
その他
人件費の安さや成長のポテンシャルを理由に、カンボジアやミャンマー、ラオスなど新興市場も注目されています。但し、法制度やインフラ、政情面などで課題があります。
成功するための最新トレンドと戦略

東南アジア進出を成功させるには以下のトレンドを意識することが鍵となります:
◆デジタル化への対応
現在の東南アジアはデジタル化が非常に進んでいるため、新しい技術への対応は不可欠です。近年ではスマートネーション構想によってデジタルエコシステムが確立されている国も多く、AIやIoTなどを活用する機会が急増しています。取引をスムーズにするために、Eコマースやフィンテック、デジタルバンキングなどの金融分野にもある程度精通しておく必要があるでしょう。各国の都市部が高度化しているため、それに対応できる優秀なリーダーや高度な専門知識を持つ人材も必要になってきます。
◆サステナブルな取り組み
環境配慮型ビジネスへの需要は増加傾向にあります。ASEANではSDGsの概念も浸透してきており、教育やインフラ、貧困の撲滅、飲料水の確保といった課題で高スコアを出しています。地域全体で持続可能性を追求する意識が高く、それに伴ってデジタル化が進んでいるので、進出の際にはそうした経緯に明るいことが望ましいでしょう。
◆ローカルパートナーとの連携
現地企業との協力体制を築くことでリスク軽減と市場理解を深めることが可能です。東南アジアに進出するには、ビザや法律、不動産、雇用、言語など解決すべき課題がたくさんあります。しかし、専門のコンサルタントやビジネスパートナーと一緒に事を進めることで、円滑な法人設立や継続的なビジネスの成長が期待できます。国によっては日本語でワンストップ対応をしてくれるコンサル企業があるので、気軽に相談できるのも強みです。
◆生産拠点と消費市場の違いを明確に
生産拠点として進出する場合は、現地の法律に沿って人材や労務、会計などを念入りに準備する必要があります。一方、新たな消費市場として進出する場合は、事実に則った統計を取り、適格なマーケティングを実施する必要があります。どちらを目的とするかによって、調査対象やリサーチすべき要件定義が異なるので注意しましょう。
東南アジア進出は有望な成長戦略
東南アジアへの進出には、多くのメリットとともにリスクも伴います。しかし、市場拡大やコスト削減、新規事業開発など、日本国内では得られない成長機会を提供する地域でもあります。各国ごとの特徴を理解し、適切なビジネス戦略を立てることで成功への道筋を描くことが可能です。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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