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-第9回- 2024年のシンガポール労働法の改正点について(3‐1)
職場公正法(Workplace Fairness Legislation)の導入

【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第9回- 2024年のシンガポール労働法の改正点について(3‐1)
職場公正法(Workplace Fairness Legislation)の導入

みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今号では、前号に続き、2024年シンガポールにおける労働法の改正点についてご紹介します。

2024年のシンガポール労働法制の改正点としては主に、(1)2024年1月1日に既に施行されている児童発達共済法(Child Development Co-Savings Act)による休暇についての改正と(2)2024年後半に施行が予定されている職場公正化法(Workplace Fairness Legislation)の2点です。第7回から今回までの3回に分けて、上記(1)および(2)の改正点についてご説明しています。
*(1)については第7回を、(2)の内容:前半については第8回をご覧ください。

(2)職場公正化法(Workplace Fairness Legislation)の内容:後半

シンガポールにおいて2024年後半に制定予定の職場公正法は、「公正な雇用慣行に関する三者ガイドライン」(Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices)と協調しながら、あらゆる形態の職場差別からの保護を規定するものとなっており、三者委員会はこれに関連して以下の勧告を行います。

①職場差別の禁止に関する具体的な勧告

(a) 求人広告
雇用主が求人広告において、「日本人/マレー人優遇」、「若者の労働環境」など、保護される特性(国籍・年齢・性別などの特性)に基づく優遇を示す言葉や表現を使用することを禁止するよう勧告します。

(b) 既存の公正な配慮の枠組み
免除されない限り、雇用パス等の申請書を提出する雇用主は、まずMyCareersFuture(*シンガポール政府運営の求人サイト)で一定期間求人広告を出し、応募してきた候補者全員を公平に検討する必要があります。

(c) 雇用主による報復行為の禁止
不当解雇、不当な再雇用拒否、不正な給与控除、契約上の利益の剥奪、ハラスメント、その他、通報した個人を犠牲にするために行われた行為(すなわち、通報した個人を不当な扱いの対象にすること) といった報復行為を禁止するよう勧告しています。職場の差別やハラスメントを報告した個人に報復する雇用主は強制措置を受けなければなりません。

②法律の適用が免除される雇用主

(a) 保護された特性が、真正かつ合理的な職業上の要件となる場合
保護された特性が真正かつ合理的な職務要件である場合、雇用主が雇用決定において保護された特性を考慮することを認めることを推奨します。

❖保護特性が真正かつ合理的な職務要件と認められる例
・語学教師は教える言語に堪能であるべきであり、雇用主は言語能力を求人要件として広告に記載することができます。ただし、雇用主は、職務要件ではない保護特性(例:インド人教師)ではなく、職務要件(例:タミール語を話す)を記載しなければなりません。
・ある企業が、音声制作マネージャーを募集しています。候補者は、聴覚検査を含む入社前の健康診断に合格しなければなりません。しかし、候補者は聴力検査に合格しなかったため、会社は内定を進めませんでした。聴力検査に合格することは、正真正銘の職業上の要件であるため、これは法律違反ではありません。

(b) 従業員数25人未満の小規模企業
適用除外とされた企業は、現在と同様に、公正な雇用慣行に関する三者ガイドラインおよび不当解雇に関する既存の法的保護の対象となります。職場で差別を受けたことのある人は、公正かつ進歩的な雇用慣行のための三者同盟(TAFEP)に相談し、助言を求めることができます。 公正な雇用慣行に関する三者ガイドラインに違反した場合、公正かつ進歩的な雇用慣行のための三者同盟は、強制措置のために労働省に報告します。

(c) 宗教団体
社会における共通の空間を維持しながら宗教団体のニーズに対処するために、宗教団体、すなわち礼拝所(教会、モスク、寺院など)および宗教的な目的/機能のみを有する宗教団体(宗教および宗教的な事柄について組織、管理、または研修を提供する団体など)は、宗教および適切な宗教的要件に基づいて採用および雇用の決定を行う裁量が認められます。

❖宗教団体による裁量が認められる例
・あるモスクが管理アシスタントを募集しており、応募者はイスラム教徒であるべきだと述べています。宗教団体は宗教や適切な宗教的要件に基づいて雇用を決定することが許されているため、これは法律違反ではありません。

(d) 障害者・高齢者に対する雇用支援の提供をする場合
雇用主が障害者の雇用を希望することは支援されるべきと考えられます。

❖障害者に対する雇用支援の提供が認められる例
・ある企業がウェブサイトデザイナーの候補者を2人面接したとします。どちらの候補者もテストと面接で高得点を取りました。一方の候補者は障がいがあり、車椅子の使用が必要ですが、もう一方は障害がなく、経験年数も少し長いとします。雇用主が障害者を雇用する場合、 法律違反にはなりません。

次回は(2)職場公正化法(Workplace Fairness Legislation)の内容:後半の続きからご説明いたします。


筆者:栗田哲郎(シンガポール法(Foreign Practitioner Examinations)・日本法・アメリカNY州法弁護士)

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One Asia Lawyers Group

One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。 この記事に関するお問い合わせは、ホームページまたは info@oneasia.legal までお願いします。

One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点)
・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー)
・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン)
・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)
・日本国内(東京、大阪、福岡、京都)
・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン))
・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所))

・メンバー数(2023年8月時点)
全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名)


栗田哲郎 Tetsuo Kurita

One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia
代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法)

tetsuo.kurita@oneasia.legal
+65 8183 5114

2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。

その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。

2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。


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