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-第8回- 2024年のシンガポール労働法の改正点について(2)
職場公正法(Workplace Fairness Legislation)の導入

【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第8回- 2024年のシンガポール労働法の改正点について(2)
職場公正法(Workplace Fairness Legislation)の導入

みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今号では、前号に続き、2024年シンガポールにおける労働法の改正点についてご紹介します。

2024年のシンガポール労働法制の改正点としては主に、(1)2024年1月1日に既に施行されている児童発達共済法(Child Development Co-Savings Act)による休暇についての改正と(2)2024年後半に施行が予定されている職場公正化法(Workplace Fairness Legislation)の2点です。前回から3回に分けて、上記(1)および(2)の改正点についてご説明しています。
*(1)については第7回をご覧ください。

(2)職場公正化法(Workplace Fairness Legislation)の内容:前半

シンガポールにおいて2024年後半に制定予定の職場公正法は、「公正な雇用慣行に関する三者ガイドライン」(Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices)と協調しながら、あらゆる形態の職場差別からの保護を規定します。

①雇用の全段階における職場差別の禁止

すべての雇用段階(採用、研修、選考、昇進、業績評価、雇用終了段階)において、保護される特性に基づく差別を禁止します。ただし、福利厚生の提供は本法律の対象外となります。これは、より多くの休暇や医療給付を必要とする従業員に対して、追加の休暇や医療給付を提供するなど、先進的な慣行を継続的に実施する柔軟性を雇用主に与えるためです。 同様の理由から、フレキシブルな勤務形態の提供も本法律の対象とはなりません。

対象外となる福利厚生の提供(例)
雇用主が従業員の福利厚生として法定外の出産休暇と育児休暇を追加で提供。独身の男性従業員が、これは母親ではない従業員や子供のいない従業員に対する差別であると主張。福利厚生は本法律から除外されているため、本法律に基づく差別には該当しません。

②直接差別

職場公正法は、以下の特性に基づき不利な雇用に関する決定を行う、直接差別を禁止します。

(a) 国籍
シンガポールの労働力を公平に考慮し、外国人がシンガポールの労働力を補完する貴重な役割を果たすようにするため、国籍による職場差別は禁止されます。

国籍による差別(例)
シンガポール人の求職者がある企業の上級職に応募し、必要な技術的専門知識や長年の関連業務経験などの求人条件を完全に満たしています。しかし、面接の記録によると、採用担当者はシンガポール人の求職者を公平に考慮せず、外国人が採用担当者と同じ国籍であるという理由だけで外国人に仕事を依頼していました。これは差別に該当する可能性があります。

 

(b) 年齢

高齢化社会において、高齢労働者の雇用支援は極めて重要であることから、年齢による職場差別は禁止されます。

▪年齢による差別(例)
ある求職者が子供向けワークショップの運営者に応募しました。面接の際、雇用主は求職者の年齢を尋ねます。求職者が50歳であると答えると、雇用主は、もっと若くてエネルギッシュな人材が望ましいので、彼女はその職務には適さないと言います。これは差別に該当する可能性があります。

 

(c) 性別・配偶者の有無・妊娠の有無

これらの特性による職場差別の禁止は、女性の労働参加を増やし、結婚や子育ての希望を促進し、介護者を支援するために重要です。「妊娠」の定義について、委員会は、法定産休期間を含む妊娠中の女性と授乳中の女性を対象とするよう勧告しています。また、子どもを産みたいという希望を表明している女性にも保護が適用されます。

性別・配偶者の有無・妊娠による差別(例)
会社の人材開発スキームに応募している従業員が、スキームの面接で家庭を持つ予定があるかどうか尋ねられ、すぐにでも持ちたいと答えました。彼女はこの制度に登録されませんでしたが、彼女の雇用主は、面接委員会が彼女の家族計画のためにこの制度の高い要求に適さないと感じたからだと言います。これは差別に該当する可能性があります。

 

(d) 介護の責任

「介護の責任」については、両親や義理の両親、配偶者、実子、継子など(ただし、これらに限定されない)、介護を必要とする家族の介護を行う個人が対象となります。介護者の性別や同居している人の介護の有無は問いません。

介護の責任による差別(例)
ある男性従業員は父親の主な介護者です。上司の同意のもと、この従業員は週に数日、父親の治療に付き添うために仕事を休んでいましたが、勤務要件を満たし、業績基準を維持し続けていました。その後、上司は従業員に対し、介護に専念できるよう会社は従業員を解雇することを決定したと告げました。これは差別に該当する可能性があります。

 

(e) 人種・宗教・言語

多民族・多宗教のシンガポールでは、「人種」「宗教」「言語」を理由とする職場差別から保護することが基本であり、人種・宗教・言語による職場差別は禁止されます。

人種による差別(例)
採用担当者が、ある職務について2人の候補者とパネル面接を行います。候補者Aは採用マネージャーと同じ人種で、候補者Bは異なる人種です。面接パネルは、候補者Bの方がその職務に適任であると評価し、面接記録に記録します。しかし、採用マネジャーは、同じ人種と働く方が仕事しやすいと考え、候補者Aに仕事を依頼します。これは差別に該当する可能性があります。

 

(f) 障害やメンタルヘルスの状態

「障害」を理由とする職場差別を防止することは、より多くの障害者が職場に参加し、働き続けられるようにするための国家的努力を支援するものです。

人種による差別(例)
採用担当者が、ある職務について2人の候補者とパネル面接を行います。候補者Aは採用マネージャーと同じ人種で、候補者Bは異なる人種です。面接パネルは、候補者Bの方がその職務に適任であると評価し、面接記録に記録します。しかし、採用マネジャーは、同じ人種と働く方が仕事しやすいと考え、候補者Aに仕事を依頼します。これは差別に該当する可能性があります。

「障害」の定義

自閉症、知的障害、身体障害、感覚障害、またはそれらの複合障害で、日常生活を送る能力に実質的な影響を及ぼすもの。

また、「精神的健康状態」に基づく職場差別から保護することは、シンガポール人の精神的健康と幸福を支援する国家的イニシアティブに沿い、精神的健康状態にある人の雇用と雇用可能性を強化するというシンガポールの目的に対し重要です。

メンタルヘルスの状態による差別(例)
ある新入社員の同僚が、仕事のパフォーマンスに影響はないものの、彼の気分が特に落ち込んでいるように見えることがあるのを目撃しました。新入社員の上司が彼に精神的な健康状態の有無を尋ねたところ、新入社員は、うつ病を患っているが、精神科の治療を受けていると答えました。その会話の1週間後、新入社員は予告解雇されました。この解雇は差別に当たる可能性があります。

 

③間接差別

職場公正法は、「差別」を明確に定義する必要性を明示たうえで、間接差別を規制の対象としていません。一見中立的な企業慣行が、特定の保護特性を持つ人を不利な立場に置く効果を持つことがありますが、もし間接差別が法律に含まれることになれば、雇用主に非常に広範な法的義務を課し、雇用主と従業員の双方に不確実性をもたらすためです。

もっとも、公正かつ進歩的な雇用慣行のための三者委員会は、間接差別を法規制の対象から除外するにあたり、各事例を評価し、適切な場合には取り上げ、当事者を合理的な解決へと導くことになります。

次回は(2)2024年後半に施行が予定されている職場公正化法(Workplace Fairness Legislation)の内容:後半についてご説明いたします。


筆者:栗田哲郎(シンガポール法(Foreign Practitioner Examinations)・日本法・アメリカNY州法弁護士)

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One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。 この記事に関するお問い合わせは、ホームページまたは info@oneasia.legal までお願いします。

One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点)
・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー)
・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン)
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・日本国内(東京、大阪、福岡、京都)
・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン))
・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所))

・メンバー数(2023年8月時点)
全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名)


栗田哲郎 Tetsuo Kurita

One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia
代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法)

tetsuo.kurita@oneasia.legal
+65 8183 5114

2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。

その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。

2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。


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