HOME最新記事【最新】シンガポールのM&A事情 ~市場動向・M&Aの手法・成功のポイントを紹介~

【最新】シンガポールのM&A事情 ~市場動向・M&Aの手法・成功のポイントを紹介~

アジアのビジネスハブとしてM&A市場でも注目されているシンガポール。その理由とは?シンガポールの経済状況やM&Aの状況を探ると同時に、絶対に気をつけるべき注意点をご説明します。M&Aの成功を握る鍵とは何か、共に見ていきましょう。


M&Aに関するご相談・お問い合わせは、こちらから


シンガポール経済の状況

シンガポールは、2024年のGDP成長率が2.0%から3.0%と予測されており、安定した経済成長を示しています。第2四半期、前年比ベースでは、特に卸売業、金融・保険業、情報通信業が経済の柱となっており、政府の積極的な政策が経済成長を支えています。

【関連記事】
【2024年】世界の一人当たりGDPランキング(IMF)~シンガポールは 第5位/アジア諸国ではTOP~
世界の経済ランキングシンガポールの順位は?世界各国のGDPを徹底比較

シンガポールのM&Aの特徴

シンガポールのM&A市場は、外国企業がシンガポール企業を買収する「Out-In」案件が多いことが特徴です。同時に、シンガポールを拠点とする企業がASEAN地域やアジア諸国の企業を買収するケースも増えています。また、金融、消費者向け製品・サービス、メディア・エンターテインメント、ハイテク産業など幅広い業界でのM&Aが活発に行われていることも特徴の一つとして挙げられます。

もう一つ、特筆すべき特徴はシンガポール政府はM&A活動を促進するための支援策を実施していることです。M&A控除(=Mergers and Acquisitions Loan )を通じて、借り手または借り手グループ1社につき最大S$5,000万の融資を提供し、国内外のM&A活動をサポートしています。

シンガポールのM&Aの市場規模

2024年前半の、シンガポールが関わるM&A取引の総額はUS$336億(約4.7兆円)に達し、前年同期と比べて28.9%増加しました。また、シンガポール国内企業同士のM&A取引額はUS$34億(約4,800億円)で、前年より12.0%増加。さらに、海外企業がシンガポール企業を買収する取引額はUS$59億(約8,000億円)で、前年から70.8%も大きく増加しました。

一方で唯一前年度より減少したのがシンガポール企業が海外企業を買収する取引額で前年比−27.8%のUS$109億(約15,000億円)となりました。

2024年後半も引き続き活発な取引が続いており、2024年全体でも市場規模は更に拡大することが期待されています。

日本から主要ASEAN諸国へのM&Aの数は以下のとおりであり、シンガポールがトップとなっております。

出典:RECOF

なお、M&Aに限らない日本からシンガポールへの直接投資の推移は以下の通りです。

出典:財務省

シンガポールのM&Aをするメリット

シンガポールでM&Aを行うメリットには、以下のような点があります。

外資規制

シンガポールは外資規制が少なく、外国企業にとって参入しやすい環境が整っています。外国資本による事業所有に関しても、制限のある事業は国家の安全保障にかかわる公益事業、メディア関係、金融等の一定の分野のみです。また、外資規制を包括的に管轄する官庁はなく、ライセンスを管轄する官庁は業種によって異なります。

2024年1月には重要投資審査法案(Significant Investments Review Bill)が可決され、国内外の特定企業への投資を規制する新たな審査制度が導入されました。しかしながら、これは国家安全保障を理由に投資を選別するものであり、本法が多くの事業体に影響を与えることは想定されていません。

法人税率

法人税率は17%と低く、税制面での優遇措置が多くの企業にとって魅力的です。詳細は関連記事をご参照ください。

【関連記事】
シンガポールの法人税は17%と低い?法人税率や申告方法を徹底解説

安定した政治と経済

シンガポールは政治的にも経済的にも安定しており、ビジネスを展開する上でのリスクが低いことが特徴です。関連記事にて詳細をご参照ください。

【関連記事】
【シンガポールの政治基礎データ】政治体制や議会制度などを徹底解説
【~連載~シンガポール経済レポート】第二回 シンガポール経済の強み・弱みを分析
日本企業のシンガポール進出!進出のメリットやデメリットは?今後の注目業界まで徹底解説!

シンガポールにおけるM&Aの代表的な手法

株式取得

相手企業の株式を取得し、その経営権を取得します。株式の売り手となる企業は株式を売却することにより金銭を受け取ることができます。

資産・事業譲渡

会社を部分的、または包括的に第三者に譲渡、売却します。譲渡の対象となる「事業」とは、会社が保有する事業資産です。(例:商品、工場設備、不動産・動産、事業組織、財産や債務、人材、ノウハウ、ブランド、特許権、取引先との関係など)

合併

複数の組織や会社が法的に1つになることです。その目的は、多くの場合、シナジー効果の達成、市場範囲の拡大、効率性の向上、または競争の排除にあります。合併には、合併する企業間の関係に基づいていくつかのタイプがあり、シンガポールでは、日本のM&Aと異なる分類が用いられます。

簡易合併(short form amalgamation)
親会社が完全子会社を買収するケースか、同じ親会社をもつ完全子会社同士が合併するケースでのみ用いることができます。少数株主の利益を保護する必要が低いことから、下記の通常合併で必要となるような公告等の手続きは必要ありません。

通常合併(long form amalgamation)
業種や少数株主の有無に限らず、どのような合併でも用いることができます。少数株主の利益保護のため、シンガポールのメジャーな日刊新聞1つ以上に公告を載せること、両社の株主総会での取締役による宣誓、株主総会前に全債権者に対して合併の提案書を送付するなど、簡易合併にはない手続きが要求されます。

SOA(スキーム・オブ・アレンジメント)

裁判所の承認を得て、企業再編を行う手法です。この方法は、シンガポールの司法管轄区で一般的に使用されており、複雑な再編を必要とする場合に用いられます。メリットとしては、プロセスを合理化し、敵対的買収防衛策を回避することができます。また、裁判所の関与により明確性と最終性が得られるため、多数の株主や債権者を相手にする場合にも有効です。

M&AにおけるSOAの主な特徴は、以下があります。

◎裁判所の承認:
SOAでは、最初から裁判所の関与が必要となります。SOAを通じて合併や再編を行おうとする企業は、裁判所に認可を申請しなければなりません。
 
◎株主・債権者の承認:
裁判所の承認を得る前に取り決めを行う場合、会社の株主・債権者の過半数の賛成(通常75%)がなければ、その取り決めを進めることができません。
 
◎全当事者に対する拘束力:
裁判所の承認が得られれば、たとえ反対票を投じた者がいたとしても、SOAは全ての株主または債権者を拘束することができます。
 
◎柔軟性:
現金、株式、その他の対価を組み合わせた複雑な取り決めの再構築が可能で、買収、合併、債務再編にも利用することができます。
 
◎ 株式を100%所有する必要なし:必要な過半数の承認さえ得られれば、株式の100%を確保できなくても経営権を取得することができる。

シンガポールにおけるM&Aの成功のポイント

シンガポールでのM&Aを成功させるためには、以下の具体的な事例とポイントが重要です。

市場調査の徹底

シンガポール市場の特性を理解し、ターゲット企業の詳細な調査を行うことが重要です。

例えば、ロート製薬と三井物産がシンガポールの漢方薬大手ユーヤンサンを買収した際には、現地の市場動向や消費者ニーズを詳細に調査しました。漢方薬のニーズはコロナ禍以降世界的にも高まっており、特に漢方薬は疾病予防の観点からも注目され、市場も拡大しているといわれています。東南アジア最大手漢方薬ブランドであるユーヤンサンのブランド力とロート製薬の技術力を組み合わせる戦略を採用しました。

文化的理解

シンガポールは多文化社会であるため、文化的な理解がM&Aの成功に寄与します。

HSBCがAXAシンガポールを買収した事例では、シンガポールの多様な文化背景を理解し、現地のビジネス慣習に適応することで、スムーズな統合を実現しました。

法務・税務の専門家活用

現地の法務・税務専門家を活用し、適切なアドバイスを受けることが重要です。特に、シンガポールでは競争法の遵守が求められ、競争・消費者委員会(CCCS)への通知が推奨されます。通知を怠ると、合併が競争法に違反する場合、罰則が課される可能性があります。

気をつけるべきこと

シンガポールでのM&Aにおいて注意すべき点には以下があります。

言語の規制

シンガポールでは英語が公用語の一つですが、多文化社会であるため、他の言語の理解も重要です。特に、現地の法律文書や契約書など、現地語での法的用語の理解が必要です。

労働関係

労働法規や労働市場の特性を理解することが必要です。シンガポールでは、外国人労働者の雇用には特別な許可が必要であり、これに関する規制を遵守することが求められます。

【関連記事】
シンガポールの労働法〜雇用契約・労働時間・賃金・休暇など徹底解説〜

機関関係

シンガポールの企業法や規制機関との関係を適切に管理することが重要です。特に、合併に関する競争法の遵守が求められ、シンガポール競争法当局(Competition and Consumer Commission of Singapore)への通知が推奨されます。

外資規制

 一部の業種では外資規制が存在するため、事前の確認が必要です。金融やメディアなどの分野では、外資の出資比率に制限がある場合があります。

土地

土地使用に関する規制や制約を理解することが重要です。シンガポールでは土地の所有権に関する法律が厳格であり、外国企業が土地を取得する際には特別な許可が必要です。

M&Aの成功を握るカギとは?

シンガポールでのM&Aを行うメリットは多く、安定した経済と政治、外資規制の少なさに加え、法人税率の低さなどが挙げられます。M&Aでのメリットを享受する一方で気をつけるべきは、念入りな市場調査とシンガポール特有の文化や法規制への理解です。そのためにはM&Aの経験豊富な法務・税務の専門家のサポートは欠かせないものとなります。

監修:栗田 哲郎氏

栗田 哲郎氏
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール(FPE)・日本・USA/NY州法弁護士
tetsuo.kurita@oneasia.legal

日本の大手法律事務所に勤務後、シンガポールの大手法律事務所にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所アジアフォーカスチームのヘッドを務め、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創立。シンガポールを中心にクロスボーダーのアジア法務全般(M&A、国際商事仲裁等の紛争解決等)のアドバイスを提供している。

2014年、日本法弁護士として初めてシンガポール司法試験に合格し、シンガポール法のアドバイスも提供している。 

One Asia Lawyers Groupのご紹介

◆ One Asia Lawyers  ◆
「One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。

なお、本ニュースレターは、一般的な情報を提供することを目的としたものであり、当グループ・メンバーファームの法的アドバイスを構成するものではなく、また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当グループ・メンバーファームの見解ではございません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず各メンバーファーム・弁護士にご相談ください。

One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点)
・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー)
・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン)
・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)
・日本国内(東京、大阪、福岡、京都)
・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン))
・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所)
・メンバー数(2023年8月時点)
全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名)

企業情報はこちら


M&Aに関するご相談・お問い合わせは、こちらから


●為替レートは、US$1=142円(9月30日現在)で計算
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。


シンガポールのビジネス情報や最新記事、セミナー情報をLINE・YouTubeでお届けしています!
ぜひお友だち追加・チャンネル登録をお願い致します。

チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ