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【~連載~シンガポール経済レポート】第一回 シンガポールの最新経済状況を探る

シンガポール経済の「今」をひも解く新連載【シンガポール経済レポート】、第一回目は「シンガポールの最新経済状況を探る」と題してお届けします。シンガポール経済のしくみを見ていきましょう。

シンガポールの最新経済状況

東洋と西洋が交差するマレー半島南端にあり、ジョホール海峡に面した都市国家であるシンガポール。東京23区をやや上回る国土面積ですが、アジア太平洋地域の戦略的な位置にあり、卓越したインフラを備えることから金融と貿易の中心地となっています。

2019年以降に世界経済の停滞を招いた新型コロナウイルス感染症の流行に加え、2021年にはウクライナ問題も起こり、シンガポール経済も大きな影響を受けました。そこで、まずはシンガポールの最新経済について見ていきましょう。


シンガポールの主な産業

シンガポールにおける主要な産業としては次のようなものが挙げられます。エレクトロニクスや化学関連、バイオメディカル、輸送機械や精密器械などの製造業、商業、ビジネスサービスや運輸・通信業、金融サービス業などです。

シンガポールは、産業の高度化と資本および知識集約型産業への移行を国策としており、この点を活かした産業がシンガポール経済をけん引しています。

2019年から始まった新型コロナウイルス感染症の流行は、世界経済に打撃を与え、シンガポールの主要産業の成長にも影響を与えました。

2022年11月、シンガポール貿易産業省(MTI)は同年の経済概況を発表。それによると、2022年は、ウクライナ問題によってもたらされたヨーロッパでのエネルギー危機や、コロナ感染から抜け出せない中国での不動産市場の低迷などにより、シンガポールの外需がさらに弱くなり、エレクトロニクスや化学製品分野の成長に重くのしかかりました。

一方で、水際対策の緩和により海外から観光客が戻り始め、航空に関連する交通サービス、観光業に紐づく宿泊業やアート、エンタテインメント、飲食サービスなどが復活を遂げつつあり、2023年も好調な推移を見せると期待されています。


シンガポールのGDP

シンガポールのGDP成長率は近年上昇を続け、日本をはるかに追い越し、世界にその名を馳せる国になりました。

しかし、世界を襲った新型コロナウイルス感染症の流行により、感染のピークを迎えた2020年には、シンガポールの実質GDP成長率はマイナス約4.1%と、1965年の建国以来最大の落ち込みを記録しました。その後、2021年のシンガポールの実質GDP成長率は7.6%となり、国内の経済活動の再開や外需に押され、プラスの成長に転じました。

産業別の内訳を見ると、製造業が13.2%に加速、半導体や同製造装置の外需が堅調で、エレクトロニクスや精密エンジニアリング部門での成長が見られました。

またコロナ禍で受注が止まっていた公共・民間の建設工事が再開し、建設部門の成長も加速、20.1%となりました。小売部門では、2021年春に国内で実施された「サーキットブレーカー」の影響を受けましたが、順調に回復し10.2%となりました。

2023年1月にシンガポール貿易産業省(MTI)が発表した2022年の実質GDP成長率は3.8%で、2023年の予測は0.5~2.5%台となっており、ウクライナ問題や米中関係、中国のコロナ対策など、主要国で懸念される景気後退の影響を、シンガポールも少なからず受けることになりそうです。

ちなみに、内閣府によると2021年の日本の実質GDP成長率は2.5%、国の豊かさの目安となる一人当たりの名目GDPはUS$39,803(日本円で約513.4万円)となり、経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中20位と前年より1位下がりました。

なお、シンガポールの2022年の市場価格による一人当たりのGDPはS$ 114,165(参考:StatisticsSingapore)です。最新の情報はこちらをご覧ください。

項目2019年2020年2021年
実質GDP成長率1.10(%)△4.14(%)7.61(%)
名目GDP総額(US$10億) 375.5345.3397.0
一人当たりの名目GDP(US$)65,83360,72872,795

引用:日本貿易振興会(JETRO)

 

シンガポールの貿易指標

シンガポールは、その地理的条件からも、長い歴史において貿易が盛んでした。さらに近年ではインフラ整備を強化し、貿易のハブ拠点としても欠かせない存在になっているほか、税制優遇なども行い、誘致した海外企業の貿易拠点としても重要な役割を果たしています。

下記は、2019年から2021年までの、シンガポールの貿易概況および対日輸出入額を示しています。

項目2019年2020年2021年
貿易収支(US$100万) 98,141 103,628118,216 
輸出額(US$100万) 390,684 287,884 457,269 
輸入額(US$100万) 359,204 261,352 407,581 
対日輸出額(US$100万)17,652 13,931 17,781 
対日輸入額(US$100万)19,430 14,386 23,378

引用:日本貿易振興機構(JETRO)

シンガポール統計局(Singapore Department of Statistics (DOS))によると、2021年の総輸出入額は、S$1兆1,600億円であり、前年比で約20%の増加となっています。そのうち、輸入額はS$約5,459億、輸出額はS$約6,141億です。

2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、総輸出入額がS$約969.1億まで減少しましたが、2021年は、コロナ禍以前の水準を超える実績となりました。また特色としては、輸出額が増加傾向にあり、輸入を上回っています。

シンガポール統計局による、2017年から2021年までの総輸出入額の推移については、こちらをご覧ください。

なお、2021年におけるシンガポールの貿易取引の総額における順位は下記のとおりです。特色としては、中国への輸出額が輸入額を超え、マレーシア、アメリカからの輸入額が、輸出額を超えています。

<主要貿易相手国との貿易取引額>

順位国名金額(単位:S$100万)
1中国164.3
2マレーシア        128.7
3アメリカ105.7

出典:シンガポール統計局



シンガポールの主な輸出入品にはどんなものがあるでしょうか。主要分野ごとの輸出品、輸入品の上位品目について見てみましょう。

まず、2021年におけるシンガポールの「非石油部門における主要品目」輸出品目のトップ3は下記のようになっています。

順位品目名輸出額(単位:S$100万)割合(%)
1機械および輸送機器323.861.6
2化学薬品および化学製品81.715.5
3雑工業品51.89.9

出典:シンガポール統計局



続いて「サービス分野」における輸出品目のトップ3は下記のようになっています。

順位品目名輸出額(単位:S$100万)割合(%)
1輸送91.529.6
2その他サービス61.119.8
3金融50.016.2

出典:シンガポール統計局



次に、2021年におけるシンガポールの「非石油部門における主要品目」輸入品目のトップ3は下記のようになっています。

順位品目名輸入額(単位:S$100万)割合(%)
1機械および輸送機器279.762.9
2化学薬品および化学製品45.410.2
3雑工業品44.610.0

出典:シンガポール統計局



続いて「サービス分野」輸入品目のトップ3は下記のようになっています。

順位品目名輸入額(単位:S$100万)割合(%)
1輸送99.233.0
2その他サービス51.817.2
3通信、コンピューター、情報35.611.9

出典:シンガポール統計局



ちなみに、シンガポールと日本との間には、どのような貿易取引が行われているでしょうか。日本はシンガポールにとって主要な貿易国のひとつですが、両国の輸出入ともに、電気機器や一般機械といった品目が上位を占めています。

また、日本の対シンガポール輸出は生産財や中間財が多く、貿易収支は恒常的に日本の輸出超過となっています。


シンガポールの失業率と消費者物価上昇率

シンガポールでは、2022年4月に新型コロナウイルス感染症の流行が沈静化したことで、感染対策の大幅な緩和を行い、イベントの入場者数の上限撤廃や、日常生活における人数制限もなくなりました。それに伴い、経済が活性化し、人材が流動化していることから、各業界で人材不足が生じています。

シンガポール人材開発省(MOM)の発表によると、コロナ禍の2020年には、失業率は3%まで上昇しましたが、2021年9月には2.6%まで低下し、直近の2022年9月には、2.1%にまで低下と、コロナ前の水準以下になりました。

一方で、世界的なインフレ傾向にある中、日本貿易振興機構(JETRO)によると、シンガポールの消費者物価上昇率は、コロナ禍ではマイナス0.18%だったものが、2021年には2.3%まで上昇。シンガポール通貨金融庁(MAS)が2022年12月に発表した、通年の消費者物価指数は、6.1%にまで達しています。

2019年を基準年としたCPIでは、2022年において上昇した物価は、交通関連が平均で16.4%、食費が平均で5.3%、住宅設備が平均で5.2%となっており、大幅な上昇が見られました。

MASは、2022年10月、国内の物価上昇が高まっているとして、金融緩和から金融引き締めへの転換を発表しました。2023年も引き続き国内ではインフレ対策が図られていくことでしょう。

項目2019年2020年2021年
失業率2.25(%)3.00(%)2.63(%)
消費者物価上昇率0.57(%)△0.18(%)2.30(%)

引用:日本貿易振興機構(JETRO)



シンガポール対内および対外海外直接投資の推移

現地法人の設立やシンガポール法人への資本参加、不動産取得などを通じて行う投資、それがシンガポールへの海外直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)ですが、シンガポールに対するFDIも年々増えています。

FDIの総額は、2019年は約S$1,924百万、2020年は約S$2,142百万、そして2021年には約S$2,442百万と右肩上がりになっており、投資先としてのシンガポールの評価が高まっていると言えます。世界の大企業から成長著しいスタートアップ企業まで、税制などを含め、ビジネスのしやすい環境が整うシンガポールへのFDIが増えていることは、シンガポール経済の指標のひとつとも言えそうです。

また、下記の2021年の実績を示す表を見ると、日本は第4位にランクインしており、アジア地域では最大の投資国となっています。また、シンガポールからの直接投資先としては、中国を筆頭に、オランダやインドが並びます。

順位海外からの直接投資額(FDI)
(2021年)
シンガポールの対外直接投資額(DIA)
(2021年)
第1位アメリカ S$549.8中国 S$189.2
第2位ケイマン諸島 S$291.8オランダ S$122.6
第3位イギリス領バージン諸島 S$184.4香港 S$80.1
第4位日本 S$160.5イギリス S$78.7
第5位イギリス S$129.1ケイマン諸島 S$72.4

単位(S$百万) 引用:シンガポール統計局



シンガポールの経済概括

東京23区をやや上回るほどの国土でありながら、貿易や世界経済の一大拠点になっているシンガポール。製造業を中心に、高付加価値の産業を集積し、国の経済を下支えしているほか、観光業にも注力しています。

新型コロナウイルス感染症の流行によって、世界経済が打撃を受けるのと同様、シンガポール経済にも影響が出ましたが、沈静化とともに、従来のシンガポール経済をけん引していた産業も復活の兆しが見えてきました。

一方で、世界情勢の不安定さから、コロナ前に見られた右肩上がりの経済成長が少し鈍化する予想も出始めており、今後の動向が気になるところです。

しかし、シンガポール国内では新しい産業の育成を目指す動きや、それに伴う人材の流入も見られ、ビジネスのしやすい環境づくりに注力するほか、アップデートの早さが経済成長につながっているとも言えるでしょう。

シンガポールは日本ともつながりの深い国ですが、GDP成長率や一人当たりの名目GDPを比較すると、両国には大きな差が生まれています。シンガポールの経済の成長に、日本からも学ぶことも多いのではないでしょうか。


変化し続けるシンガポール

今回は、【~連載~シンガポール経済レポート】「第一回 シンガポールの最新経済状況を探る」をお届けしました。新型コロナウイルス感染症の流行もようやく落ち着き始めたものの、ウクライナ問題など、世界経済の向かう先は不透明感が続きます。

シンガポール経済も影響を受け続けていますが、一方、国内で新たな産業育成を促進するなど、柔軟な政策には注目すべきものが多いと言えます。次回は「第二回 シンガポール経済の特徴」についてご紹介する予定です。次回もどうぞご期待ください。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
●金額は2023年1月30日現在の為替相場(US$1=129円)で換算表示

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