COMPASS導入で採用はどう変わる?転職マーケットの変化・動向について詳しく解説

<この記事について>
2024年5月に開催した人気セミナー「COMPASS導入後のシンガポールで『今知っておくべき就労ビザ事情』と『採用に関する今後の見通し』」より、セミナーレポートを公開しました。
2023年9月に開始された新しいEP(就労ビザ)制度『COMPASS』は、外国人雇用の基準を引き上げ、企業にとってより厳しい条件となりました。今回のセミナー後半では、シンガポールの人材採用に精通したRGF Talent Solutions Singapore カントリーマネージャー、渡邊遥平氏が登壇し、現場での経験に基づいた実践的な視点から、シンガポールの人材採用市場の変化や、今後の日系企業が注目すべきポイントについて解説しました。
セミナーを見逃した方も、このレポートを活用して、最新情報にキャッチアップしましょう!
COMPASS導入後の転職マーケットの変化
COMPASSは申請に多くの指標があり、今までよりも厳格化しましたが、転職マーケットにおいてこの新しい制度はどのような影響を与えたのでしょうか。全体の動向と日本語が必要な求人の観点からみてみましょう。
COMPASS導入後のEP対象求人とPR対象求人の動向

EPの発行が必要な求人数は、制度施行前の2023年10月~12月期と比較すると、2024年1月~3月は約50%減少しました。つまり、EPの発行手続きの施行直後は企業側も不安感から求人に慎重になっていたことを意味します。
その一方で、シンガポールの永住権保持者を対象とした求人は16%増加しました。しかし、これらは完全に置き換わったわけではなく、駐在員へ割り振られる業務量の増加やシンガポールのローカル従業員への業務の割り振りがされるなどの手法が取られていたようです。
日本語を必要とする求人の数は横ばいで推移

日本語能力が必要な求人数は、COMPASS施行前の2023年の第1四半期と施行後の第1四半期は横ばいで推移しており、変化が見られないことがわかります。それはつまり、日本人を必要としている仕事を少ない人数で回すことや、シンガポール在住のローカル従業員へ仕事が割り振られた可能性が考えられます。
COMPASS導入後の注意点
COMPASS申請には、個人属性と企業属性の各指標で合計40点を獲得する必要があることはこれまでの記事でご紹介してきましたが、各種手続きの同時並行や確認が必要な項目が多くあります。いくつか押さえておきたい点についてご紹介します。
COMPASS申請時の学歴証明の必要性

COMPASSの申請の個人属性の学歴・専門資格の部分では、学歴証明の提出が併せて必要です。通常、学歴証明は10営業日(2週間程度)が必要ですが、速達と通常の2種類を選択することができます。求職者側からすると内定承諾から入社までの期間が長期化しました。これに対しては、雇用する企業側が『My Careers Future』への14日間の掲載(従業員数10名未満は免除)を同時並行で進行することによって効率よく手続きを進めることができます。
EPでの採用可否の「Corppass」での確認
雇用する企業の皆様も、自社がEPを発行することができるのかどうかについて確認する必要があります。COMPASS基準を確認するためには『Corppass』というウェブサイトへのログインをしてください。また、シンガポールのローカル従業員数については、過去3か月の平均が適用されますので、時間に余裕を持って対策をすることが重要です。
今後の転職マーケット動向
続いて、今後のシンガポールの転職マーケットがどうなるのか詳しくみてみましょう。
2025年1月以降の最低固定月給の変更 (金融業界を除く)
年齢 | 現行制度の金額 | 2025年1月以降 |
---|---|---|
23歳以下 | S$5,000 | S$5,600 |
30歳 | S$6.750 | S$7,223 |
35歳 | S$8,000 | S$8,382 |
40歳 | S$9.250 | S$9,541 |
45歳以上 | S$10,500 | S$10,700 |
EPの発行は厳格化していますが、2025年1月以降はEPの基準給与額が変更となり、より厳格化することになりました。企業の皆様にとっては、人件費は経営上重要な課題のひとつです。今後の採用動向としては、シンガポールのローカル従業員の採用、より専門性を持つ人材の採用、駐在員ではなく現地採用で人を集めるなど採用方法が多様化する可能性が考えられます。
フレキシブルな職場環境に関するガイドライン
シンガポールでは、2024年12月からフレキシブルな職場環境に関するガイドライン(Flexible Work Arrangements)が施行されています。このガイドラインでは、従業員を雇用するにあたり会社が検討すべき事項が記載されています。たとえば、在宅勤務制度の有無・頻度、勤務時間帯、オンラインコミュニケーションツール(たとえばTeamsやSlackなど)の導入があげられます。
現時点では、このガイドラインを遵守しないことによる罰則は規定されていませんが、今後も柔軟な勤務体制実現のための配慮事項は順次発表される予定です。求職者の多くは在宅勤務の有無を気にかけており、採用活動上の競争力アップのためには在宅勤務制度の導入は検討すべき事項でしょう。
福利厚生面の充実
シンガポールでは人件費の上昇が続く状況で、従来型の人事制度で良い人材を確保することが困難になってきています。たとえば、有給日数はシンガポールの法定日数は7日ですが、多くのシンガポールや外資系企業では14日間以上付与しています。そして、在宅勤務を導入および充実させています。また、給与などの待遇面や業績評価法が成果主義です。
このような状況で、日系企業のシンガポールでの採用競争力が下がっています。給与などの見直しはすぐに実現することは難しいですが、有給休暇などの福利厚生の見直しは比較的着手しやすいものですので、着手しやすい事項から見直しを検討してみましょう。
他の外資企業との競争激化への対策が重要
シンガポールの新EP制度のCOMPASSの施行により、EPの発行は今までより厳格化し、転職市場にも少なからず影響が出始めています。また、求職者側は、在宅勤務制度の有無や有給休暇などの福利厚生制度の度合いが応募の決め手になるなど、企業側の制度の見直しが必要となってきています。シンガポールにおいて、日系企業の競争力は低下傾向にあるため、他の外資企業との競争激化への対策が、新EP制度COMPASS施行後の日系企業が良い人材を確保するためには必要なことです。
登壇者プロフィール
RGF Talent Solutions Singapore カントリーマネージャー
渡邊 遥平

専門商社勤務を経て、2015年より株式会社リクルートキャリア(当時)に入社。数多くの事業部MVPを受賞。新規事業提案制度(Ring)のファイナリスト選出など、多岐に渡り活躍。3年間の東京勤務ののち、RGF Thailandへ異動し、チョンブリ拠点長として拠点運営に携わる。
現在、RGF Talent Solutions Singapore にてカントリーマネージャーとして従事。
■RGF Talent Solutions Singaporeについて
2010年に設立し、多国籍企業・日系企業・ローカル企業に選ばれる、不動の人材会社として成長中です。
シンガポールでは、こちらの2 つのブランドを展開中。
▪ RGF Professional Recruitment
▪ RGF HR Agent
いずれも企業様の採用に関するソリューションを提供しています。商社、不動産、ITなど多岐に渡る業界出身のコンサルタントが在籍し、多角的な角度から企業様のニーズに合った候補者のマッチングを行います。求職者様にはひとりひとりに寄り添いサポートいたします。
採用・求人に関する課題やお悩みをお持ちの方は、当社コンサルタントにお気軽にご相談ください。
※本記事の内容は、執筆時点の情報に基づいており、今後変更される可能性があります。最新情報については関係機関の発表をご確認ください。
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