【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第119回- [韓国×財閥ランキング]韓国財閥の国内資産は上位3社でGDP比50%越え。BTS所属のHYBEは僅か基準に到達せず
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
韓国の公正取引委員会が毎年発表している企業グループの国内資産総額のデータが興味深い。財閥ランキングとも言える。今回のデータでトップ3のグループは、サムスンが1位で資産総額は486兆ウォン(約53兆円)、2位はSKで327兆ウォン(約36兆円)、3位は現代自動車の271兆ウォン(約30兆円)となった。
韓国経済における財閥の存在をGDP比でみてみよう。2022年の韓国の現地通貨建て名目GDPは2150兆ウォン(約238兆円)である。サムスンだけでGDP比で22.6%に達する。トップ3グループを合計した国内総資産額1084兆ウォンは、GDP比50.4%と半分を超えてしまう。
韓国ドラマの「財閥もの」では、巨大な財閥に立ち向かう起業家を描くこともあれば、財閥の華やかなマネーゲームや人間模様が描かれることがある。現実世界での存在感を考えると、ドラマに「財閥もの」が多いことも頷ける。
さて、今回のリストで筆者は、芸能事務所HYBEがランクインするかを注目していた。BTSの事務所と言う方が分かりやすいだろう。結論としては、HYBEの資産総額は4.8兆ウォン(約5322億円)にとどまり、リストの対象となる5兆ウォンに僅か届かなかった。とはいえ、掲載対象となった82社のすぐ次ぐらいの資産規模であることは確かだ。
HYBEは2005年、パン・ヒショクがJYP Entertainmentから独立し、BigHit Entertainmentとして設立した芸能事務所だ。長らく目立ったヒットアーティストを生み出せず、3大芸能事務所といわれるJYP、SM、YGのはるか後塵を拝していた。BTSも、2013年にデビューした頃からしばらくは、鳴かず飛ばずだった。
しかし、近年のBTSのヒットで急速に成長し、2021年には上場。現在、HYBEの時価総額は11兆2900億ウォン(約1兆2200億円、7月25日終値)に達し、1兆から5兆ウォン台の他の芸能事務所を大きく引き離している。最近では、2022年にデビューした女性グループNewJeansは、K-POP史で最速でビルボードHot100にランクインし、十分な存在感を示している。
HYBEは、新たなアーティストの活躍を背景に来年の財閥ランキングには掲載されるだろうか。芸能事務所がここまでの資産規模に達していることは、K-POPの強さを感じさせる側面でもある。
韓国企業グループの国内総資産額100兆ウォン以上の企業
出所)韓国公正取引委員会、2023年7月17日付日本経済新聞電子版
*2023年7月25日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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