【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第115回- [東南アジアx財閥]スタートアップ投資に注力する東南アジアの財閥。将来の勢力図に影響の可能性も
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
東南アジアのビジネスにおいて、いわゆる財閥の存在感は大きい。日本企業も財閥系企業と組んで進出事例は数多くある。すでに現地で生産、販売、人脈といったネットワークを持ち、十分な資本力があり、かつ、政府との対話のルートも持っているとなれば、有力なパートナーとして検討されるのも当然だろう。
そうした財閥も、今、変革期を迎えていると言える。その理由は、そもそものビジネスの未来像が変わりつつあるからだ。
僅か10年ちょっと前には、タクシー呼び出しアプリを使ったり、Eコマースのアプリを使ったりして日常生活を送るという場面は、まだ殆ど存在していなかった。もはや、シンガポールや主要な東南アジア諸国の生活インフラ化しているGrabとLazadaも創業が2012年である。インドネシアのTokopedia(現GOTO)の創業は、それより少し早い2009年だった。
いずれにせよ、おおよそ10年前の東南アジアと今の東南アジアでは、こうしたテック系新興企業が未来のビジネスを牽引している。外からきてぱっとみても分からない変化であるが、生活者になれば、すぐに分かる事でもある。
こうしたなか、スタートアップ投資やオープンイノベーションに注力する財閥も出てきており、その差も生じてきている。まだ成果をはかる段階ではないが、どの程度の試みをしているかという視点からみることはできる。それを推し量る手がかりは財閥系のベンチャーキャピタルの存在だろう。
近年、財閥の創業家の2代目、3代目といった若い世代がスタートアップ投資をするためのベンチャーキャピタルのトップや幹部についている事例が目立つ。
例えば、マレーシアの大富豪であるロバート・クオックの孫であるKuok Meng Xiong氏が創業者兼マネージングディレクターを務めるK3 Venturesがある。スタートアップデータベースのクランチベースによると、2017年にシンガポールで創業しており、これまでに78件の投資を実行している。うち6件はリード投資家となり、9件のエグジットを果たしている。
インドネシアのリッポー財閥系のVenturaは2015年に創業、33件の投資を実行し、そのうち3分の1近い12件でリード投資家、エグジットは4件に上る。
こうした動きは、将来の財閥の勢力図にも影響が出ていくかもしれない。そうした動きに合わせて、日本企業も財閥との組み方や戦略を描いていくことが重要になりそうだ。
*2023年6月14日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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