対ベトナム投資トップのシンガポール、VSIP拠点拡大と日本企業に広がる商機

東南アジアで存在感を増すベトナムとシンガポールの経済連携が、新たな局面を迎えています。
2026年上半期、シンガポールは対ベトナム新規投資で全体の4割超を占め、圧倒的首位を走っています。
なぜ今、両国は急速に接近しているのか?
本記事では、ベトナムビジネスに精通した専門メディア InfoBank が、今回の首脳会談の背景とVSIP(ベトナム・シンガポール工業団地)の最新動向、そして日本企業にもたらされる具体的な商機について詳しく解説します。
ベトナム・シンガポール首脳が会談、デジタル経済などで連携を強化
ベトナム共産党のトー・ラム書記長兼国家主席は2026年5月28〜31日、シンガポールを国賓訪問し、同国のターマン大統領やローレンス・ウォン首相と会談した。2025年3月に両国は「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げしており、その後の進展を確認する場となった。
会談では、デジタル経済など新興分野での協力を拡大することで一致した。両国の協力を象徴するベトナム・シンガポール工業団地(VSIP)には新たに5件の投資登録証明書が授与され、拠点数は全国26カ所に広がっている。
デジタル経済など新興分野の協力拡大で一致

トー・ラム書記長兼国家主席は5月29日、ウォン首相との会談で、「包括的戦略パートナーシップ」の行動計画に基づく指導者間での交流・協力をさらに深める方法を協議した。両首脳は、お互いにとって象徴的な経済プロジェクトである、VSIPの進捗に満足の意を示した。そのうえで両首脳は、新たな分野へ協力を広げる余地があるとの認識で一致した。
具体的には、農業貿易、科学技術・イノベーション、そしてデジタル経済などが挙げられている。地域のエネルギーに関するレジリエンス(危機時でもしなやかに維持・回復できる仕組み)が重要である点も確認し、
| ●クリーンエネルギー開発 ●ASEANパワーグリッド経由を含む電力網の結びつきを加速 ●人材交流や貿易投資の基盤となる航空路の結びつきを強化 |
へ向けた取り組みを支える方向だ。
会談にあわせて協力文書の交換式も開かれた。式典では以下に挙げるような、経済から政党間交流まで幅広い文書が交わされた。
| ●農業食品の貿易に関する作業部会を設置 ●ベカメックスIDCとシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)による先進的な製造研究センターを設立 ●ベトナム教育訓練省と南洋理工大学(NTU)との教育協力 ●ベトナム共産党とシンガポール人民行動党の政党間協力 |
訪問中、トー・ラム氏はアジア安全保障会議(第23回シャングリラ対話)で基調講演も行った。ベトナムの最高指導者が、地域安全保障に関する多国間会合で演説するのは初めてである。
VSIPは26拠点に拡大「2026年に30拠点」目標へ
首脳会談にともない、フエ市、ゲアン省、ニンビン省、ハイフォン市、ホーチミン市の5件のベトナム・シンガポール工業団地(VSIP)事業に投資登録証明書が交付された。VSIPの展開先は全国26プロジェクトとなる。
VSIP事業は、1996年に南部のビンズオン省で第1号が開設された。事業開始から30周年となる2026年に30拠点をめざす「30 by 30」構想に向けた大きな前進となる。

| 出典:Vietnam News “VSIP receives five investment registration certificates“、Vietnam Investment Review “VSIP joint venture gets green light for five new industrial parks“ |
新規に投資登録された5件を見ると、VSIPがめざす工業団地は「安い労働力を生かした組み立て工場の集積地」ではなく、「先端技術と環境対応を売りにする拠点」へと変わりつつあることが読み取れる。
ニンビン省のハナム・ハイテクパークはAI・半導体に特化したベトナム5番目のハイテクパークである。フエ市の工業団地はグリーン・スマート型、ハイフォン市のティエンラン2工業団地は低炭素排出を達成する産業に照準を合わせたエコロジーな工業団地として、それぞれ承認された。
VSIP事業はシンガポール系のセムコープと、ベトナムのベカメックスIDCによる合弁会社が手がけている。今回の訪問前の時点では、およそ20拠点・12,000ヘクタールに、30の国・地域から1,000社超を誘致し、投資総額は約234億米ドル(約3.8兆円)にのぼる。
対ベトナム投資で首位を走るシンガポール、日本企業にも商機

| 出典:VietnamPlus “FDI disbursement hits five-year high in H1“ |
※本文・図表の円建て金額は1米ドル=162.34円(Bloomberg ・2026年7月時点)で換算。
シンガポールは2026年上半期、ベトナム向け新規登録資本の42.1%にあたる73.1億米ドル(約1.2兆円)を投じ、国・地域別で首位に立った。累計の登録投資額でも1,000億米ドル(約16.2兆円)近くと韓国に次ぐ第2位につけており、足元の勢いをもとに投資の実績を積み上げている。
外交面でも両国は距離を縮めてきた。包括的戦略パートナーシップはベトナム外交で最も上位の枠組みである。シンガポールは2025年3月に12番目の相手国となり、ASEANではマレーシア、インドネシアに次ぐ3か国目である。今回のデジタル経済協力は、「2030年までにデジタル経済の規模をGDPの30%に高める」というベトナムの目標を、シンガポールの資本とノウハウで後押しする構図といえる。
両国の連携が深まると、日本企業にとっても商機につながると見込まれる。VSIPは日系製造業になじみ深い進出先だからだ。
2024年には、CREと阪急阪神不動産がセムコープと組み、VSIPハイフォンでおよそ23,000平米の物流施設開発に参画した。データセンター建設や、洋上風力発電による電力をベトナムからシンガポールへ送る構想など、デジタル・クリーンエネルギー分野では日本・シンガポール・ベトナムをまたぐ事業の広がりが期待できる。
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