【連載】第6回 シンガポールの税務戦略〜キャピタルゲイン非課税を徹底解説~
連載「シンガポールの税務戦略」、第6回はシンガポールの税制でよく耳にする「キャピタルゲイン非課税制度」についてのご説明です。そもそも「キャピタルゲイン」に該当する定義とは?詳しく見て行きましょう。
シンガポールでのキャピタルゲインが非課税とは?
シンガポールは不動産、株式、金融商品の売却益が課税対象にはならない、いわゆる「キャピタルゲイン非課税国」として知られています。しかしそれはあくまで、シンガポール税務当局(IRAS)が定める「キャピタルゲイン」定義に該当する場合のみです。すべての取引における売却利益が非課税となるわけではありません。
税務上、取引自体が「Capital Nature(キャピタルネイチャー)資本取引」と定義されればキャピタルゲイン(非課税)となり、「Revenue Nature(レベニューネイチャー)損益取引」と定義されると課税対象となります。ではこの双方の判断基準はどのように行われるのでしょうか?詳しく見て行きましょう。
シンガポールのキャピタルゲインの判断基準は?
Capital NatureとRevenue Natureの定義
Capital NatureとRevenue Natureの定義は「樹木と果実」を例にすると非常に理解しやすくなります。
Capital Nature(資本取引/課税対象外) 樹木そのものを売却した利益 | Revenue Nature(損益取引/課税対象) 樹木から得た果実そのものや果実を売却した利益 |
例)配当金を得ていた株式の売却 家賃収入を得ていた不動産の売却 | 例)保有株式からの配当金(※) 賃貸目的で不動産投資をして得た家賃収入 |
基本的にすべての取引について、取引が発生する度にRevenue Nature(損益取引/課税対象)なのか、Capital Nature(資本取引/課税対象外)なのかを判断する必要があります。しかし、同じ会社の同じような取引であっても判断が分かれ、非常に判定は難しいという実情があります。そこで、シンガポール税務当局(IRAS)は8つの判定要素を公表しています。次項ではその8項目を見ていきましょう。
IRASが定めるキャピタルゲインの判定要素は8つ
Capital Nature(資本取引/課税対象外)なのか、Revenue Nature(損益取引/課税対象)なのか、を判断する判定要素は下記8項目を総合的に見て判断することになります。
①対象資産 どのような資産を売却したのか: 流動性、換金性の低い資産(例:不動産、未上場株式)であればあるほど、Capital Nature(資本取引/課税対象外)とされやすい傾向にあります。 ②資産の保有期間 資産の保有期間が長期であるほどCapital Nature(資本取引/課税対象外)とされやすくなっています。期間についての定義はなく、他の7つの要素を総合的に見ての判断となります。 ③取引の頻度 取引が反復、継続、頻繁に行われていない、組織再編などに起因する1回のみの売却の場合、Capital Nature(資本取引/課税対象外)になる可能性が高まります。 ④売却活動の有無 活発なマーケティング活動などをしており、その売却取引自体が主要ビジネスと見なされてもやむを得ない状況の場合は、Revenue Nature(損益取引/課税対象)と判断されやすくなります。 ⑤売却時の状況 その資産の売却理由が組織再編なのか、資金繰り悪化のためなのか、監督官庁による強制執行による売却なのか、といった緊急性や売却意図、企業の置かれている状況なども判定要素となります。 ⑥資産購入時の動機や意図 製造業の会社が機械を購入し、その機械で製造した製品を販売する場合、製品は「樹木の果実」の例えでの「果実」の部分となり、その売却損益はRevenue Nature(損益取引/課税対象)となります。一方で機械自体を売却するのであれば、機械は「樹木」の部分となりその売却損益はCapital Nature(資本取引/課税対象外)と考えられます。ただし、その機械の購入時に将来の値上がりによる転売を意図して購入した場合、将来の売却損益はRevenue Nature(損益取引/課税対象)とされやすいといえます。 ⑦資金源 どういった資金源で購入したのか、も判定要素となります。短期的な銀行借入などによって資金調達を行った一連の取引にかかる売却損益であれば、購入時に短期的な取引を見込んでいるとされて、Revenue Nature(損益取引/課税対象)と見なされやすくなります。逆に、長期の銀行借り入れを資金源として購入し、長期保有を経て売却するような一連の取引は、Capital Nature(資本取引/課税対象外)とされやすいといえます。 ⑧その他 会計処理上(BS)の区分が長期、短期、棚卸、固定資産など、会計処理がNatureの判断と一致しているか、契約関係や取締役決議の内容など、その他の要素も含めて総合的に判断します。 |
例外の株式譲渡に注意
キャピタルゲインの判定のガイドラインとして上記IRASの8項目をご紹介しましたが、実際の判定は、煩雑であり非常に分かりづらいものです。とはいえ、実際の取引がCapital Nature(資本取引/課税対象外)なのか、Revenue Nature(損益取引/課税対象)なのか判断できないと税務処理の見通しが立たないため、2012年6月より下記条件に一致する株式の譲渡についてはCapital Nature(資本取引/課税対象外)とする例外措置が認められました。
<株式譲渡の例外> 投資先企業の普通株式の20%以上を、株式売却日の24カ月以上前から継続して保有していること。 |
シンガポールのキャピタルゲイン非課税制度の注意点
シンガポールと聞くと税制面の優遇として頭に浮かぶのが「キャピタルゲイン非課税制度」です。事実、キャピタルゲインと判定されれば非課税となります。しかしその判定は非常に複雑で曖昧な部分が多いことが実情です。このようにすべての売却益が非課税とは限らないため、取引を行う際にはご自身でもシンガポール税務当局の情報に目を向けると共に、必ず専門家のアドバイスを仰ぐことをおすすめします。
監修:CPAコンシェルジュ様のご紹介
CPA Concierge Pte Ltdは、2014年から日系企業のシンガポール進出、日本人起業家や富裕層のシンガポール移住、法人設立、ビザ申請、会計税務をサポートしています。これまで400件を超えるご相談に対応してきました。
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萱場 玄氏
会計事務所CPAコンシェルジュ(CPA CONCIERGE PTE LTD)創業者。
公認会計士(日本)、税理士(日本)、プロフェッショナルカンパニーセクレタリー(シンガポール)、Xero公認アドバイザー、経営心理士。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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