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【連載】第4回 シンガポールの税務戦略

移転価格税制〜シンガポール進出で気をつけるべき3つの日本の税務③ ~
【連載】第4回 シンガポールの税務戦略

シンガポール進出の際、気をつけるべき3つの日本の税務。前回の「タックスヘイブン対策税制」に引き続き、今回は「移転価格税制」についてご説明します。

【連載記事】
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シンガポール進出で気をつけるべき3つの日本の税務

法人税が17%と軽課税国として知られているシンガポール。その低税率を利用してシンガポールに進出を検討する企業は少なくありません。

しかしながら、条件によっては日本の税制度である「出国税(国外転出時課税制度)」、「タックスヘイブン対策税制」、「移転価格税制」などが課税される場合があり、シンガポール進出時にはこれらに該当しないかを十分に検討する必要があります。連載第4回は「移転価格税制」について詳しくみていきましょう。

日本の移転価格税制の概要

シンガポールなど海外にグループ会社を持つ企業が、国を跨ぐグループ会社間の取引を適正な価格で行っているかを確認するための制度です。グループ間で行われる国際取引の取引価格を、独立した第三者と取引した場合と同じ価格にしているかが調査され、異なる価格だった場合にはその差額について課税されることとなります。

シンガポールにも移転価格税制は存在しますが、高税率国の日本と低税率国のシンガポールでは、日本からシンガポールへ所得の移転を行うことにより日本の法人税を節税する動機が働くことが多いことから、特に日本側で問題となることが多く、シンガポールよりも日本側の移転価格税制に気を留めておく必要があります。

適正な移転価格の算定方法

移転価格税制ではグループ会社間の取引はすべて第三者価格(独立企業間価格)で取引をすることが定められています。独立企業間価格とはどのように算出されるべきなのでしょうか?以下の6つの算定方法から最も適切な方法を選定して適用すべきとされています。

・独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method =CUP法)
比較対象となり得るほどに類似性を有する第三者との取引価格を直接的に比較することによって第三者企業間価格を算定する方法をいいます。企業の置かれている状況や取引環境はさまざまで、比較対象になり得るほどに類似性を有する取引を選定することが非常に困難ではあるものの、理論上、極めて有効な方法ではあるとされています。
・再販売価格基準法(Resale Price Method =RP法)
第三者との類似取引から得られる売上総利益はグループ会社との取引からも得るべきという考えのもと、第三者への販売価格から売上総利益見合いを引くことで独立企業間価格を算定する方法をいいます。
・原価基準法(Cost Plus Method =CP法)
RP法と同様に売上総利益率に着目しますが、第三者からの仕入れ価格や製造原価に売上総利益見合いを足すことで独立企業間価格を算定する方法をいいます。
・取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method)
RP法やCP法の売上総利益とは異なり、企業の営業利益水準に着目して独立企業間価格を算定する方法をいいます。その他の算定方法に比べて製品の特徴、機能、リスクの個別状況の影響を受けにくく、また、比較対象を選定しやすいとされ、近年では最も多く用いられる算定方法であるといえます。
・利益分割法(Profit Split Method)
取引相手との利益配分割合を用いてグループ会社間での独立企業間価格を算定する方法をいいます。
・ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)
グループ会社間取引で生じる将来の利益の合計金額を合理的な割引率で現在価値で割り引くことによって独立企業間価格を算定する方法をいいます。

移転価格文書作成の適用対象企業

<日本の場合>

移転価格税制は、適正な移転価格の算出などを文書作成により残しておくことを義務づけていますが、規模の小さい取引や会社に文書化を強制するのは大変なため、一定の場合には文書化の手続きが免除されています。

ただし、税務調査において適正な移転価格の算出方法などを求められることがあるため、文書化の免除対象になっていたとしてもグループ会社間の取引価格の適正性を証明できる書類は持っておくことが望ましいでしょう。

移転価格文書作成の適用対象企業の判定フローチャートは下記の通りです。

<シンガポールの場合>

下記のような一定の場合は移転価格文書の作成が免除されます。

・課税対象期間における棚卸資産(仕入れor販売)取引がS$1500万以下の場合
・金銭貸借取引がS$1500万以下の場合
・課税対象期間におけるその他の無形取引(サービス取引、ロイヤリティ取引、賃貸取引、保証取引などの各カテゴリー単位) がS$100万以下の場合
・シンガポール国内取引の場合
・ルーティンサービスに5%のマークアップ率を適用している場合
・APA(事前確認制度)を取得している場合

ただし、こちらも日本と同様IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore=シンガポール内国歳入庁)から計算根拠の問い合わせが来ることもあるため、グループ会社間取引の価格算定根拠をすぐに回答できるようにしておく必要があります。

日本の移転価格文書の内容

日本の移転価格文書における必要な記載事項

① 個々の関連者間取引に関する詳細な情報
取引に関わる契約書や契約の内容、取引額の設定方法、交渉内容、市場に関する分析や関連者の事業方針などを記載します。

② 特定の取引に関する財務情報、比較可能性分析、最適な移転価格算定手法の選定及び適用に関する情報
選定した移転価格算定方法、選定理由、比較対象取引などの差異調整を行った場合の理由などを記載します。

書類の作成は義務化されているため、移転価格分析の専門性が求められ、さらに税務コンプライアンス・法令遵守の観点からも専門家に依頼することが一般的です。

日本の移転価格文書の提出および保管

作成期限:確定申告書の提出期限と同じ
提出期限:調査において提示または提出を求められた日から一定の期日
保存期間・保存場所など:原則として、確定申告書の提出期限の翌日から7年間、国外関連取引を行った法人の国内事務所で保存

大企業、中小企業ともに万全の移転価格税制対策を

移転価格制度対策では、会社全体の売上高ではなくグループ間取引の規模が税務調査のポイントとなります。最近では大企業だけではなく、中小企業の調査件数も増えてきています。想定外の納税負担の増加は避けたいものです。専門家はこの移転価格税制のデータ分析や対策に長けています。ぜひこれを機に、自社の移転価格税制対策について見直しや点検をしておきましょう。

監修:CPAコンシェルジュ様のご紹介

CPA Concierge Pte Ltdは、2014年から日系企業のシンガポール進出、日本人起業家や富裕層のシンガポール移住、法人設立、ビザ申請、会計税務をサポートしています。これまで400件を超えるご相談に対応してきました。

シンガポールの永住権、お子様の学校、個人の銀行口座、人材採用時の注意点、MOM対策、他の士業事務所との連携、他の業者の紹介や調査、といった、士業事務所では通常は受けてくれない(しかしどこに相談してよいか分からない)お悩みも可能な限り何でもお受けしています。

基本的にすべてのクライアントに日本人スタッフ(日本語ネイティブ並みの非日本人含む)を配置しており、シンガポールでのビジネスが初めての企業でも安心して日本語でご相談いただける体制となっています。

<企業情報>

CPA Concierge Pte Ltd
住所:2 Kallang Avenue, #07-25 S339407
最寄駅:EW11 Lavender駅、DT23 Bendemeer駅
営業時間:月~金 8:00~17:00
Webサイト 
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萱場 玄氏

会計事務所CPAコンシェルジュ(CPA CONCIERGE PTE LTD)創業者。
公認会計士(日本)、税理士(日本)、プロフェッショナルカンパニーセクレタリー(シンガポール)、Xero公認アドバイザー、経営心理士。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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