シンガポールの税金を徹底解説 〜押さえておきたいシンガポールの税務戦略〜

【2024年最新版】シンガポールでの起業や会社を運営する際に押さえておきたい税務知識をお届けする連載企画。今回は、シンガポールの法人税や個人所得税、日本との違い、控除制度や税優遇措置などを徹底解説します。
シンガポールの税金と特徴
シンガポールの税金には法人税、源泉税、個人所得税、財・サービス税(GST)、印紙税、不動産税といったものがあります。個人所得税の最高税率は24%と、前年から増税されたものの世界の中でも低い税率で知られています。また、財・サービス税(Goods & Services Tax)は2023年〜2024年度にかけて2023年より8%、2024年より9%と段階的に引き上げられました。
シンガポールでは毎月の給与から引かれる源泉徴収所得税がなく、前年の所得額の申告後、税務当局IRASから発行される税額通知に記載された要納税額を納税するという形になり、納税者が税額まで算定して納税する日本とは異なります。これは法人税も個人所得税も同じです。
シンガポールの個人所得税
個人所得税・所得税率について
シンガポールにおける個人所得税は日本の所得税とほぼ同じ税金です。日本と同様に課税所得の金額が増えると税率が上がるという累進税率を採用しており、最初のS$2万までの課税所得は税率0%、課税所得が上がると税率も上がり、S$100万を超える金額について最高税率24%が適用されます。
また、シンガポールの個人所得税を考慮する上で重要なことが「シンガポールの税務上の居住者であるかどうか」です。シンガポールの場合、Employment Passなど、1年以上有効な就労ビザを保有している場合は、その期間中はシンガポール居住者とされると考えて基本的に問題ありません。
ただし、日本側の居住性と必ず一致するわけではないこと、EP保有期間が短期になった場合や、複数年に跨いで就労する場合で異なる扱いがあること、一定の場合には租税条約を考慮する必要があること、などは注意が必要です。
シンガポールで非居住者であるもののシンガポールで一定の所得がある場合には、シンガポールで課税されることがありますが、その場合は非居住者の所得税率(例:給与所得の場合、15%と居住者の累進実効税率のいずれか高い方)が適用されます。
税率は随時更新されますので、最新情報はこちらをご確認ください。シンガポールの累進税率は以下の表をご覧ください。
【2023年以降の所得(2024賦課年度以降)】
課税所得(S$) | 税率(%) | 納税額(S$) |
First 20,000 Next 10,000 | 0 2 | 0 200 |
First 30,000 Next 10,000 | – 3.50 | 200 350 |
First 40,000 Next 40,000 | – 7 | 550 2,800 |
First 80,000 Next 40,000 | – 11.5 | 3,350 4,600 |
First 120,000 Next 40,000 | – 15 | 7,950 6,000 |
First 160,000 Next 40,000 | – 18 | 13,950 7,200 |
First 200,000 Next 40,000 | – 19 | 21,150 7,600 |
First 240,000 Next 40,000 | – 19.5 | 28,750 7,800 |
First 280,000 Next 40,000 | – 20 | 36,550 8,000 |
First 320,000 Next 180,000 | – 22 | 44,550 39,600 |
First $500,000 Next $500,000 | – 23 | 84,150 115,000 |
First 1,000,000 In excess of 1,000,000 | – 24 | 199,150 |
個人所得税の申告と納税方法
給与所得から引かれる源泉徴収がないシンガポールでは、原則としてすべての個人が確定申告をする必要があります。ただし、年間所得がS$22,000以下の場合や、IRASから「No-Filing Service(申告不要通知)」を受け取り追加の申告金額が無い場合など一定の場合は申告する必要がありません。
2024年の申告受付期間は3月1日から始まり、4月18日が締切(オンライン申告の場合)です。昨年の1月1日〜12月31日までの所得をまとめて提出します。申告後に課税通知書を受け取り、課税通知書に書かれた金額を納税します。
また、雇用者の義務として、1年分の給与などを集計した書類を翌年3月1日までに各従業員に通知する必要があります。また、従業員が5人以上いる雇用主はこの通知をオンラインで行う必要があります。
シンガポールの控除制度
シンガポールでは、勤労所得控除として55歳未満がS$1,000、55歳から59歳の方はS$6,000、60 歳以上の方はS$8,000の所得控除を受けられます。加えて、身体障害者や精神疾患のある方は、55歳未満がS$4,000、55歳から59歳がS$10,000、60 歳以上がS$12,000の所得控除を受けられます。
他にも主婦(夫)控除や扶養控除、配偶者控除などもシンガポールにはあります。表をご覧ください。
控除名 | 主な条件 | 控除額 |
配偶者控除 | 配偶者の年間所得がS$4,000(※)を超えないなど | S$2,000 配偶者に障害があれば$5,500 |
子ども扶養控除 | 子どもが16歳未満もしくは大学などの教育機関に通っていて年収$4,000(※)を超えないなど | 子ども一人につきS$4,000 子どもに障害があれば一人あたり$7,500 |
両親扶養控除 | 両親と同居、もしくは別居の場合は両親に毎月最低S$4,000(※)の収入がない両親(外国籍なら滞在歴8カ月以上)が55歳以上などの全ての条件を満たす場合 | 両親と同居している場合にS$9,000(障害があれば両親一人あたりS$14,000) 同居しない場合は親一人につき$5,500控除(障害があれば両親一人あたりS$10,000) |
生命保険控除 | 配偶者の分の掛け金も控除対象として良いシンガポールに支店のある生命保険会社の生命保険である など | 保険の掛け金か保険金の7%のどちらか低い方 |
※2024年の所得(2025賦課年度)からS$8,000に改正
その他にも外国人メイド雇用税(FDWL)の控除といった控除があります。詳細はIRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)をご覧ください。
日本との違い
日本とシンガポールでは所得税の計算方法は概ね同じで、給与等の所得からから家族構成などに応じた所得控除額を引き、税率をかけて所得税額を算出し、税額控除があればそれらを引いて納税金額が決まります。
両国で所得税の計算方法は似ていますが、日本の所得税率は15%~55%(住民税を含む)と高額所得者の場合は所得の半分以上が所得税として納税しなければならない一方で、シンガポールの所得税率は2023年以降で2%~24%と極めて低いものになっています。
また、課税される所得の範囲についても大きな違いがあります。日本では全世界所得課税と呼ばれ、日本に住んでいる個人は全世界どこで稼いだ所得であっても日本で課税される一方、シンガポールは原則としてシンガポール国内で稼いだ所得のみが課税対象となります(法人税は異なるので注意が必要です)。
シンガポールの法人税
法人税・法人税率について
個人所得税と同じく、シンガポールの現地法人や日本法人のシンガポール支店も確定申告という形で毎年、法人の所得を申告し、IRASからの課税通知を受けて納税するというシステムになります。
また、シンガポールの法人税の課税対象はシンガポールに源泉がある所得と、シンガポール国内で受け取った国外源泉所得に限定されます。そして、法人税率は17%です。
法人税の申告と納税方法
休眠会社を除いたすべての法人は事業年度が終了した日の翌年11月末までを期日に、IRASに確定申告書を提出します。確定申告書にはForm C、Form C-S、Form C-S Liteといった複数の種類があります。
一般的な確定申告書であるForm Cは財務諸表、税額計算書といった根拠資料を添付して申告を行いますが、年間売上高がS$500万以下などの条件を満たす中小企業はForm C-S、年間売上高が$20万以下などの条件を満たす中小企業はForm C-S Liteという簡略化バージョンの提出で済ますことができます。
なお、毎年11月末の確定申告期限とは別に、決算日から3カ月以内に法人税の仮申告を行う必要がありますが、一定の場合には仮申告は免除されています。
シンガポールの税優遇措置
エンタープライズ・イノベーション・スキーム
エンタープライズ・イノベーション・スキームにより以下の適格活動に対して税制措置・税制強化が行われます。最大400%の税控除が可能な場合もあり、企業によっては最大70%の節税につながるとも言われています。
・シンガポール国内で実施される適格研究開発
・知的財産(IP)の登録
・知的財産権(IPR)の取得およびライセンシング
・適格研修
・ポリテクニック、技術教育機関またはその他の適格パートナーと共同で実施
される適格イノベーション・プロジェクト
適用期間は2024年賦課年度〜2028年賦課年度。また、対象企業はS$10万を上限として、20%の現金化率で非課税の現金支払い(上限S$2万)を選択することができます。
企業開発助成金(EDG)
事業のアップグレードや変革など、ビジネスを発展させるためのプロジェクト費用(コンサルタント料、ソフトウェア、設備、社内人件費)を提供する助成金です。対象の中小企業の条件に当てはまる経費の最大50%までを支援。また、SDGSに関連するプロジェクトについては、最大70%の支援を受けることが可能です。
二国間租税条約
JETRO(日本貿易振興機構)によると2023年9月において、シンガポールは日本を含んだ93カ国・地域と租税条約を結んでいます。それによってシンガポールの居住法人は、租税条約によって同条約を締結している国からのロイヤルティーや利子などの所得の源泉税に対して、軽減税率や免税といった特典を得られます。
Global Trader Programme
国際貿易に携わる企業でシンガポールをオフショア貿易活動の拠点にし、経営・管理・市場開拓・物流管理といった機能を有する会社であれば、Global Trader Programmeの申請資格を持つことができます。
認定されると、特定商品のオフショア貿易による利益に対する法人税に5%または10%の軽減税率が適用されます。
Pioneer Certificate Incentive
特定製品の製造奨励と特定サービスの発展を目的とした制度で、シンガポールの経済発展計画に適合したサービスを提供すると認められた企業などがパイオニア・ステータスの認定を受けます。政府の判断で認定されるため、決まった基準はないようです。
そして、パイオニア・ステータスの認定を受けた企業には、免税、5%もしくは10%といった軽減税率が適用されます。
日本との違い
シンガポールの法人税の規定上、居住法人と非居住法人という区分があります。居住法人はシンガポール国内で支配と管理がされている法人になります。
居住法人はシンガポールにおける新会社への免税措置・外国税額控除といったさまざまな税制優遇を受けられる特典があります。
シンガポールで受け取った国外源泉所得についてはシンガポールで法人税課税されますが、配当など一定の国外源泉所得については、国外源泉所得が国外で課税の対象になり、その国の最高法人税率が15%以上の場合など一定の条件のもと、法人税の免税対象になります。
また、シンガポールでは損金算入の金額に限度額の定めがなく、交際費や接待費などについても事業に必要とするものであれば、際限なく入れることができます。ただし、建築物などの減価償却費など、損金算入に認められないものもあります。
そして、個人所得税もですが、シンガポールの法人税は日本と比べても非常に低いものとなっています。日本の法人税の実効税率が30%前後であるのに対し、シンガポールの法人税の表面税率は17%(部分免税を考慮すると実効税率はさらに低いことが多い)です。
2025年よりグローバルミニマム課税導入
シンガポールでは多国籍企業との競争力強化を見直し、産業発展のため、2025年1月1日より国際最低税率課税(グローバルミニマム課税)を導入します。具体的には経済協力開発機構(OECD)が進める多国籍企業に対するグローバルミニマム課税の中の「所得合算ルール(IRR)」、「国内トップアップ税(DTT)」を実施予定。「所得合算ルール(IRR)」とは多国籍企業の子会社などの税負担が15%の最低税率となるまで課税する制度。また、「国内トップアップ税(DTT)」とは最低税率と実効税率との差額分に対して追加納税を行う制度のことです。
税務はシンガポール進出成功のカギ
2024年のシンガポールの税金の概要を解説しました。シンガポールの税務概要、税の控除制度や優遇措置などは、最新の情報を確認しておきましょう。
監修:CPA Concierge Pte Ltd

CPA Concierge Pte Ltdは、2014年から日系企業のシンガポール進出、日本人起業家や富裕層のシンガポール移住、法人設立、ビザ申請、会計税務をサポートしています。これまで400件を超えるご相談に対応してきました。
同社は、2019年 Association of Trade and Commerce Singaporeが選ぶ新進企業トップ500のブロンズ部門に選出されるなど、シンガポール国内においてもその業績が高い評価を受けています。
シンガポールの永住権関連、お子様の学校関連、個人の銀行口座関連、人材採用時の注意点、MOM対策、他の士業事務所との連携、他の業者の紹介や調査、といった、士業事務所では通常は受けてくれない(しかしどこに相談してよいか分からない)お悩みも可能な限り何でもお受けしています。
基本的にすべてのクライアントに日本人スタッフ(日本語ネイティブ並みの非日本人含む)を配置しており、シンガポールでのビジネスが初めての企業でも安心して日本語でご相談いただける体制となっています。
萱場 玄氏

会計事務所CPAコンシェルジュ(CPA CONCIERGE PTE LTD)創業者。
公認会計士(日本)、税理士(日本)、プロフェッショナルカンパニーセクレタリー(シンガポール)、Xero公認アドバイザー、経営心理士。
<企業情報>
CPA Concierge Pte Ltd 住所:2 Kallang Avenue, #07-25 S339407 最寄駅:EW11 Lavender駅、DT23 Bendemeer駅 営業時間:月~金 8:00~17:00 Webサイト |
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