押さえておきたいシンガポールの税制【連載】第1回 シンガポールの税務戦略

シンガポールでの起業や会社を運営する際に押さえておきたい税務知識をお届けする連載企画。シンガポールの会計事務所CPA Concierge Pte Ltdで代表を務める萱場玄氏に監修して頂きました。
第1回目はシンガポールの法人税や個人所得税、日本との違いなどを徹底解説します。
シンガポールの税金と特徴
シンガポールの税金には、日本と同様に法人税、個人所得税、財・サービス税(GST)、印紙税、固定資産税といったものがあります。
また、シンガポールでは給与から毎月引かれる源泉徴収がなく、各個人が前年の所得額の申告をし、納税する税額の通知を受け、それを納税するという仕組みになります。これは法人税も個人所得税も同じです。
シンガポールの個人所得税
個人所得税・所得税率について
シンガポールにおける個人所得税は日本の所得税と同様の税金です。給与等の課税所得のうち、最初のS$2万までは税率が0%、S$32万を超える課税所得について最高税率22%が適用されます。なお、2023年度分を納税する2024年度からは最高税率(と同時に最高税率が適用される所得水準)が上がり、S$100万超の課税所得での最高税率は24%となります。
また、シンガポールの個人所得税を考慮する上で重要なことが「シンガポールの税務上の居住者であるかどうか」です。シンガポールの場合、Employment Passなど、1年以上有効な就労ビザを保有している場合は、その期間中はシンガポール居住者とされると考えて基本的に問題ありません。
ただし、日本側の居住性と必ず一致するわけではないこと、EP保有期間が短期になった場合や、複数年に跨いで就労する場合で異なる扱いがあること、一定の場合には租税条約を考慮する必要があること、などは注意が必要です。
シンガポールで非居住者であるもののシンガポールで一定の所得がある場合には、シンガポールで課税されることがありますが、その場合は非居住者の所得税率(例:給与所得の場合、15%と居住者の累進税率のいずれか高い方)が適用されます。
税率は随時更新されますので、最新情報はこちらをご確認ください。
また、個人所得税の税率は日本と同様、課税所得の金額により変動する累進税率を採用しています。以下の表をご覧ください。
【2016年の所得から2022年の所得まで】
課税所得($) | 所得税率(%) | 総納税額($) |
First 20,000 Next 10,000 | 0 2 | 0 200 |
First 30,000 Next 10,000 | – 3.50 | 200 350 |
First 40,000 Next 40,000 | – 7 | 550 2,800 |
First 80,000 Next 40,000 | – 11.5 | 3,350 4,600 |
First 120,000 Next 40,000 | – 15 | 7,950 6,000 |
First 160,000 Next 40,000 | – 18 | 13,950 7,200 |
First 200,000 Next 40,000 | – 19 | 21,150 7,600 |
First 240,000 Next 40,000 | – 19.5 | 28,750 7,800 |
First 280,000 Next 40,000 | – 20 | 36,550 8,000 |
First 320,000 In excess of 320,000 | – 22 | 44,550 |
参考:IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)
【2023年以降の所得】
課税所得($) | 税率(%) | 納税額($) |
20,000以下 | 0 | – 0 |
First 20,000 Next 10,000 | 0 2 | 0 200 |
First 30,000 Next 10,000 | – 3.50 | 200 350 |
First 40,000 Next 40,000 | – 7 | 550 2,800 |
First 80,000 Next 40,000 | – 11.5 | 3,350 4,600 |
First 120,000 Next 40,000 | – 15 | 7,950 6,000 |
First 160,000 Next 40,000 | – 18 | 13,950 7,200 |
First 200,000 Next 40,000 | – 19 | 21,150 7,600 |
First 240,000 Next 40,000 | – 19.5 | 28,750 7,800 |
First 280,000 Next 40,000 | – 20 | 36,550 8,000 |
First 320,000 Next 180,000 | – 22 | 44,550 39,600 |
First 500,000 Next 500,000 | – 23 | 84,150 115,000 |
First 1,000,000 In excess of 1,000,000 | – 24 | 199,150 |
参考:IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)
個人所得税の申告と納税方法
給与所得から引かれる源泉徴収がないシンガポールでは、原則としてすべての個人が確定申告をする必要があります。
ただし、年間所得がS$22,000以下の場合や、シンガポール税務署IRASから「No-Filing Service(申告不要通知)」を受け取った場合など一定の場合は申告する必要がありません(納税義務はあり)。
2023年の申告受付期間は3月1日から始まり、4月18日が締切(オンライン申告の場合)です。昨年の1月1日〜12月31日までの給与所得をまとめて提出します。申告後に課税通知書を受け取り、課税通知書に書かれた金額を納税します。
また、雇用者の義務として、1年分の給与などを集計した書類(IR8A)を翌年3月1日までに各従業員に通知する必要があります。また、従業員が5人以上いる雇用主はこの通知をオンラインで行う必要があります。
日本との違い
日本とシンガポールでは所得税の計算方法は概ね同じです。給与等の所得から家族構成などに応じた所得控除額を引き、税率をかけて所得税額を算出、税額控除があればそれらを引いて納税金額が決まります。
両国で所得税の計算方法は似ていますが、日本の所得税率は15%~55%(住民税を含む)と、高額所得者の場合は所得の半分以上を所得税として納税しなければならない一方で、シンガポールの所得税率は2023年以降で2%~24%と極めて低いものになっています。
また、課税される所得の範囲についても大きな違いがあります。日本では全世界所得課税と呼ばれ、日本に住んでいる個人は全世界どこで稼いだ所得であっても日本で課税される一方、シンガポールは原則としてシンガポール国内で稼いだ所得のみが課税対象となります。
シンガポールの法人税
法人税・法人税率について
個人所得税と同じく、シンガポールの現地法人や日本法人のシンガポール支店も確定申告という形で毎年、法人税を申告納税するというシステムになります。
また、シンガポールの法人税の課税対象は原則として、シンガポール国内で得た所得と、シンガポール国外で得た所得のうちシンガポール国内に送金等をした所得に限定されます。なお、法人税率は基本的に17%です。
法人税の申告と納税方法
すべての法人は、原則として事業年度が終了した日の翌年11月末を期日として、IRASに確定申告書を提出します。確定申告書にはForm C、Form C-S、Form C-S Liteといった複数の種類があります。
一般的な確定申告書であるForm Cは財務諸表、税額計算書といった根拠資料を添付して申告を行いますが、年間売上高が$500万以下などの条件を満たす中小企業はForm C-S、年間売上高が$20万以下などの条件を満たす中小企業はForm C-S Liteと呼ばれる簡易様式での申告が認められています。
なお、毎年11月末の確定申告期限とは別に、決算日から3カ月以内に法人税の仮申告を行う必要がありますが、一定の場合には仮申告は免除されています。
日本との違い
シンガポールの法人税の規定上、居住法人と非居住法人という区分があります。居住法人はシンガポール国内で管理と経営がされている法人になります。
居住法人はシンガポールにおける新会社への免税措置・外国税額控除といったさまざまな税制優遇を受けられる特典があります。
シンガポールで受け取った国外源泉所得についてはシンガポールで法人税課税されますが、配当など一定の国外源泉所得については、国外源泉所得が国外で課税の対象になり、その国の最高法人税率が15%以上の場合など一定の条件のもと、法人税の免税対象になります。
また、シンガポールでは損金算入の金額に限度額の定めがなく、交際費や接待費などについても事業に必要とするものであれば経費計上することができます。ただし、建築物などの減価償却費など、損金算入に認められないものもあります。
なお、個人所得税と同様に、法人税についてもシンガポールは日本と比べて非常に低いものとなっています。日本の法人税の実行税率が30%前後であるのに対し、シンガポールの法人税の表面税率は17%(部分免税を考慮すると実効税率はさらに低いことが多い)です。
シンガポールの控除制度
シンガポールでは、55歳未満のすべての個人が$1,000の基礎控除を受けられ、55歳から59歳の方は$6,000の基礎控除、60 歳以上が$8,000の基礎控除を受けられます。
加えて、身体障害者や精神疾患のある方は、55歳未満が$4,000、55歳から59歳がS$10,000、60 歳以上が$12,000の基礎控除を受けられます。
他にも主婦(夫)控除や扶養控除、配偶者控除などもシンガポールにはあります。表をご覧ください。
控除名 | 主な条件 | 控除額 |
配偶者控除 | ・配偶者の年間所得が$4,000を超えない など | ・$2,000 ・配偶者に障害があれば$5,500 |
子ども扶養控除 | ・子どもが16歳未満もしくは大学などの教育機関に通っていて年収$4,000を超えない など | ・子ども一人につき$4,000 ・子どもに障害があれば 一人あたり$7,500 |
両親扶養控除 | ・両親と同居、もしくは別居の場合は両親に毎月最低$2,000の補助 ・両親(外国籍なら滞在歴8カ月以上)が55歳以上 など | ・両親と同居している場合に$9,000(障害があれば両親一人あたり$14,000) ・同居しない場合は親一人につき$5,500控除(障害があれば両親一人あたり$10,000) |
生命保険控除 | ・既婚者で配偶者の分の掛け金も支払っているのであればその分の受取額も対象として良い ・シンガポールに支店のある生命保険会社の生命保険である など | ・保険の掛け金か保険金の7%のどちらか低い方 |
参考:IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)
その他にも外国人メイド雇用税(FDWL)の控除といった控除があります。詳細はIRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)をご覧ください。
シンガポールの税優遇措置
二国間租税条約
JETRO(日本貿易振興機構)によると2022年9月において、シンガポールは日本を含んだ93カ国・地域と租税条約を結んでいます。それによってシンガポールの居住法人は、租税条約によって同条約を締結している国からのロイヤルティーや利子などの所得の源泉税に対して、軽減税率や免税といった特典を得られます。
Global Trader Programme
国際貿易に携わる企業でシンガポールをオフショア貿易活動の拠点にし、経営・管理・市場開拓・物流管理といった機能を有する会社であれば、Global Trader Programmeの申請資格を持つことができます。
認定されると、特定商品のオフショア貿易による所得に対して法人税17%ではなく5%または10%の軽減税率が適用されます。
IP Development Incentive
開発した知的財産権の使用と商業化の促進を目的とした優遇制度です。2023年12月31日までに経済開発庁EDBに申請し、承認を受けた企業は知的財産権の商業利用において税制優遇措置を受けることができます。
具体的には、知的財産権の商業利用で受け取るロイヤリティーなどの所得に対して、5%または10%の税率軽減措置を受けられます。5年間の優遇制度の軽減税率10%や軽減税率5%の措置を受けるためにさまざまな条件を満たす必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
Pioneer Certificate Incentive
特定製品の製造奨励と特定サービスの発展を目的とした制度で、シンガポールの経済発展計画に適合したサービスを提供すると認められた企業などがパイオニア・ステータスの認定を受けます。政府の判断で認定されるため、決まった基準はないようです。そして、パイオニア・ステータスの認定を受けた企業は、法人税の免税もしくは軽減税率が適用されます。
その他にも様々な税優遇措置がありますが、業界や申請内容に応じた監督官庁への申請の必要があります。
税務はシンガポール進出成功のカギ
連載の第1回目では、シンガポールの税金の概要を解説しました。連載の第2回はシンガポールに進出する際に検討すべき日本の税務の出国税についてお届けする予定です。次回もぜひご期待ください。
監修:CPA Concierge Pte Ltd

CPA Concierge Pte Ltdは、2014年から日系企業のシンガポール進出、日本人起業家や富裕層のシンガポール移住、法人設立、ビザ申請、会計税務をサポートしています。これまで400件を超えるご相談に対応してきました。
同社は、2019年 Association of Trade and Commerce Singaporeが選ぶ新進企業トップ500のブロンズ部門に選出されるなど、シンガポール国内においてもその業績が高い評価を受けています。
シンガポールの永住権関連、お子様の学校関連、個人の銀行口座関連、人材採用時の注意点、MOM対策、他の士業事務所との連携、他の業者の紹介や調査、といった、士業事務所では通常は受けてくれない(しかしどこに相談してよいか分からない)お悩みも可能な限り何でもお受けしています。
基本的にすべてのクライアントに日本人スタッフ(日本語ネイティブ並みの非日本人含む)を配置しており、シンガポールでのビジネスが初めての企業でも安心して日本語でご相談いただける体制となっています。
萱場 玄氏

会計事務所CPAコンシェルジュ(CPA CONCIERGE PTE LTD)創業者。
公認会計士(日本)、税理士(日本)、プロフェッショナルカンパニーセクレタリー(シンガポール)、Xero公認アドバイザー、経営心理士。
<企業情報>
CPA Concierge Pte Ltd 住所:2 Kallang Avenue, #07-25 S339407 最寄駅:EW11 Lavender駅、DT23 Bendemeer駅 営業時間:月~金 8:00~17:00 Webサイト |
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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