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【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】第96回[北朝鮮×安全保障]金正恩総書記の娘が初めて登場、謎に包まれた子供たちと後継問題

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

つい先日、北朝鮮ウォッチャーが色めきだった。金正恩(キム・ジョンウン)総書記が11月18日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の視察をした際に、手をつないで登場した少女がいた。父親似の顔であり、金総書記の娘である可能性が高いとみられている。

北朝鮮では、最高指導者ファミリー事情は最高機密としての扱いであるし、接触できる人物は極めて限られている。そのため、金総書記の子供の存在もよく分かっていなかった。3人の子供がいるらしいということが定説とされているが、具体的なことは殆ど分かっていない。

誕生したときに公式発表は行われていない。そのため、金総書記の妻である李雪主が表舞台から姿を消したタイミングが出産時期に該当すると推定されて、2010年、2013年、2017年の生まれで3人の子がいると見られているが、ほぼ情報がない状況だ。これまで、ある程度、言われていることとしては、2010年、2013年、そして2017年生まれの3人がいるとされている。

冒頭の少女は、この3人のうち2013年生まれの子だと推定されている。また、米国バスケットボール選手のデニス・ロッドマンは、2013年に北朝鮮を訪問した際に、「ジュエという赤ちゃんを抱き上げた」と話している。そして、今回登場した女の子は、この「ジュエ」であるとみられると韓国国情院が発表している。

ここで、なぜ、金総書記が、まだ10歳を迎えたかどうかの少女である娘を表舞台に登場させたのか、という疑問がわく。後継者候補との見方があるが、3人の子供のうち、2010年生まれの子供が男性との説がある。家父長制が強い北朝鮮では男子継承が基本であり、長男を飛び越すのは考えがたい。

とすると、「ジュエ」は2013年では無く、2010年生まれで長女の可能性があり、かつ、全員が女子の可能性がある。あるいは、男子がいるが何らかの理由で後継候補者ではないとの可能性もあろう。また、筆者個人の印象としては、「ジュエ」は9歳にしてはやや成長しているように見え、2010年生まれと言われる方が納得いく。

このほか、金総書記の妹である与正(ヨジョン)が後継者候補として名前が挙がっていることを考えると、女性後継者の可能性が完全に排除される訳でもない。

北朝鮮の動向、しかも、後継問題は日本にとって重大だ。最近はミサイル発射が日常茶飯となっているが、日本にとっての最大の安全保障上の脅威であることに変わりは無い。台湾海峡の緊張化、ロシアによるウクライナ侵攻と東アジア情勢の地政学リスクが高まっているなかでは、北朝鮮情勢の重要性は増していると言えるだろう。

 

出所)各種報道より筆者作成、写真はWikimedia Commonsより転載。


*2022年11月22日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

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