【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第219回 [インド×中国]3回連続で行われた「多国間会議」の脇で行われた首脳会談。過去最大の貿易が映す中印関係

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
9月12日、インドの首都ニューデリーで、モディ首相と中国の習近平国家主席が会談した。ただし、習氏の訪印は二国間訪問ではない。BRICS首脳会議への出席が目的で、モディ氏との会談もその機会に行われた。
この形式は、現在の中印関係を考えるうえで興味深い。2020年の国境衝突で冷え込んだ両国は関係修復を進めているが、2024年10月のカザン、2025年8月の天津、そして今回のニューデリーと、首脳対話は3回続けてBRICSや上海協力機構(SCO)といった多国間会議の場を利用してきた。
二国間の首脳訪問をまだ設定しないまま、こうした機会を使って対話を積み重ねている。
それでも両国には、話さなければならない理由がある。その一つが経済だ。今回の会談について、インド政府の発表は「構造的な貿易不均衡」を課題として挙げた。サプライチェーンや、実効的で予測可能な市場アクセスについても議論したとしている。
インド政府の統計によれば、2025年度(2025年4月~26年3月)の両国間のモノの貿易額は1,511億ドルと過去最高を記録した。インドから中国への輸出は194.7億ドル、中国からの輸入は1,316.3億ドル。インド側の貿易赤字は1,121.6億ドルに達し、2020年度の約440億ドルから約2.5倍に膨らんだ。
なぜインドはこれほど中国から輸入するのか。インド政府の資料には、電子部品、通信機器、コンピューター関連、産業機械などが主要輸入品として並ぶ。医薬品原料や自動車部品、携帯電話部品なども含め、中国からの輸入の多くはインド国内で生産するための資本財、中間財、原材料である。
ここに、製造業振興を進めるインドが抱える難しさが表れている。「Make in India」を掲げて国内生産を拡大する一方、その生産に必要な部材や設備の一部を中国から調達する構造が残る。2026年度4〜8月もインドの対中輸出は前年同期比38.7%増えた一方、輸入も27.0%増えた。
今回の会談をめぐる両国の説明にも違いが見える。中国側は二国間貿易が過去最高になったことを強調した。一方、インド側は「構造的な貿易不均衡」を取り上げている。
二国間の首脳訪問にはまだ移らず、多国間会議を使って対話を重ねる中印。その一方で経済関係は過去最大の規模に膨らんでいる。政治では慎重に距離を測りながら、経済では簡単に切り離せない。この二つが同時に進んでいるところに、現在の中印関係の特徴がある。
●インドの対中国貿易統計:2025年度(2025年4月~26年3月)

*2026年10月6日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。
共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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