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-第136回-[インドネシア×政治]インドネシア大統領選で注目される若い有権者の投票行動、時代の転換点の象徴か

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第136回-[インドネシア×政治]インドネシア大統領選で注目される若い有権者の投票行動、時代の転換点の象徴か

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

インドネシア大統領選が2月14日に行われ、大統領候補のプラボウォ・スビヤント国防相と副大統領候補のギブラン・ラカブミン中部ジャワ州スラカルタ市長の組が58%前後の得票を獲得して、勝利する見込みだ。

歯切れの悪い書き方をせざるを得ないのだが、インドネシア大統領選は開票結果が確定するのに1カ月以上がかかり、今回は3月20日に正式発表が行われることになっている。この間、敗退した候補者陣営は不正選挙などを訴えていく動きを見せているが、プラボウォ大統領とギブラン副大統領が誕生する可能性が濃厚だ。そして、10月20日に大統領就任式が予定されている。

インドネシアにとって、10年間続いたジョコ・ウィドド政権が終了し、新たな政権を迎える重要な年となる。とりわけ、プラボウォ国防相は、2009年はメガワティ氏(元大統領、2001年~2004年)と組んで副大統領候補、2014年と2019年には大統領候補として長年、大統領選に臨んでおり、ついに、大統領の座を射止めることとなった。

プラボウォ氏については、スハルト大統領による独裁政権下での特殊工作を手がけていた。1998年の同政権崩壊後に誕生したハビビ政権下では、軍籍を剥奪された。他にも理由があるが、プラボウォ大統領誕生に対する警戒論は根強く、それが過去の大統領選挙のハードルの一つとなってきた。そして、今回の3回目のチャレンジで勝利したことには様々な示唆があると言えるだろう。

今回の選挙速報をみていると、興味深いのが年代別の投票行動である。例えばKompas紙による独自調査に基づいた報道によれば、プラボウォ=ギブラン組は41歳以下の各層から50%以上の票を得ており、特にZ世代(25歳以下)では65.9%と高い数字だった。これは、副大統領候補のギブラン氏が36歳と若い候補だったことが影響しているだろう。ギブラン氏は、ジョコ・ウィドド大統領の息子である。

また、若い世代はプラボウォ氏のスハルト政権時代の「仕事」については、あまりリアリティをもっていないことも影響しているかもしれない。むしろ、プラボウォ氏は、気さくだが力強いリーダー、といったイメージの方が強いだろう。

インドネシア大統領選については、他にも様々な切り口があるが、72歳でスハルト政権時代の象徴の1人とも言えるプラボウォ氏と、大衆的な人気を博して大統領に就任したジョコ氏が政敵だったプラボウォ候補のペアとして息子を送り込んだなど様々な思惑が働いたことや、かつ若い世代の象徴のようなギブラン氏の組が勝利したという点は、これまでのインドネシアとこれからのインドネシアという転換点を象徴するようなことと言えそうだ。

2024年インドネシア大統領選 世代別の投票行動(Kompas紙による出口調査)


*2024年2月27日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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