【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第218回[シンガポール×日本]Keppelはなぜ東京のデータセンターを買い増すのか。

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
シンガポールのKeppel DC REITとKeppelは9月1日、千葉県印西市にある2つのデータセンターの90%持分を取得すると発表した。100%ベースの取得価格は1900億円。両施設は4社の顧客で100%稼働している。取得完了後、日本は同REITの賃料収入の約23%を占める。
Keppelはシンガポールを本拠とし、インフラ、不動産、デジタル分野などの資産を投資・運用する大手企業だ。傘下のKeppel DC REITはシンガポール証券取引所上場のデータセンター特化型REITで、日本には2024年、234億円で「Tokyo Data Centre 1」を取得して初進出。2025年には印西市の「Tokyo Data Centre 3」を821億円で取得し、日本への投資を短期間で拡大してきた。
今回の二施設は契約賃料が市場水準を少なくとも30%下回り、年平均約2.8%の賃料上昇条項もある。売主と既存運営者の名称は公式には非公開だが、報道によると、今回の対象は米Equinixの「TY12x」「TY13x」にあたる。
Equinixは世界で282のデータセンターを展開し、企業、通信事業者、クラウドを結ぶデジタルインフラ大手だ。二施設は巨大クラウド事業者向けの「xScale」で、EquinixとGICが2020年に設けた合弁事業が保有してきた。GICはシンガポール政府が全額出資し、同国の外貨準備を世界で長期運用する投資会社である。合弁事業はGICが80%、Equinixが20%を持ち、Equinixが開発・運営を担った。報道では、取引後もEquinixが10%を残し、運営を続ける。
印西は強固な地盤による災害リスクの低さや都心へのアクセスの良さなどを背景に、国内有数のデータセンター集積地となった。一方、東京圏では新たな電力供給まで8~10年を要する場合があり、印西・白井でも2030年に向け新規供給の制約が懸念されている。
この取引では、AI需要の拡大に加え、稼働済み施設が持つ「時間」の価値にも注目したい。土地の確保後も、電力接続、設備整備、顧客獲得には時間を要する。すでに電力と顧客を確保して稼働する施設は、その時間を先取りした資産といえる。市場水準を下回る賃料と上昇余地も、買い手にとっての魅力になる。
資本の動きも興味深い。GICが開発段階から資金を出し、Equinixが開発・運営を担い、稼働後の施設の大部分をKeppel側が取得する。開発・立ち上げを支えた資本から、稼働資産を保有するREIT側へ、資本の担い手が移る構図とも読める。シンガポール政府も8月、新たなデータセンター容量200MWを4事業者に暫定配分した。
国内のデジタル拠点拡張が進む一方、シンガポール系資本による域外のデジタルインフラ保有も広がっている。今回の取引は、AI時代のデータセンター競争が、建設だけでなく、すでに稼働する希少資産を誰が保有するかという段階にも広がっていることを示している。
Keppelによる日本でのデータセンター投資案件

注取得価格はいずれも100%持分ベース。2024・2025年はKeppel DC REITが98.47%、Keppelが1.53%を保有。
2026年は取得完了後、Keppel DC REITが88.62%、Keppelが1.38%を保有し、既存運営者が10%を残す。
*2026年9月22日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。
共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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