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第212回[ASEAN×AIインフラ]ジョホールからハノイへ、データセンター開発の経験は輸出されるか

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第212回[ASEAN×AIインフラ]ジョホールからハノイへ、データセンター開発の経験は輸出されるか

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

シンガポールとマレーシア南部を一つの経済圏として結ぶジョホール シンガポール経済特区(JS-SEZ)。2回にわたる本連載の第1回はジョホール側から、次回はシンガポール側から、この構想の意味を考える。構想は2024年1月の覚書で具体化され、2025年1月7日に正式協定が締結された。

7月1日、マレーシアのアクマル・ナスルラ経済相は、JS-SEZのマスタープランと投資ブループリントが完成し、閣議承認も得たと明らかにした。ただし、公表は年後半の両国首脳会談まで待つという。翌2日、ジョホール州のオン・ハフィズ州首相は即時公表を要求。3日にはアンワル首相が政治化をけん制した。この応酬は、7月11日の州議会選挙を目前にした時期とも重なった。

連邦政府にとってJS-SEZは、シンガポールとの協力を象徴する国家プロジェクトである。一方、州政府は、すでに生まれている投資の流れを、雇用や産業集積へ早く結び付けたい。目指す方向は大きく違わないが、連邦政府は外交上の演出を、州政府は投資家への早期提示を重視している。

2025年の域内認可投資額は769億8,000万リンギに達し、57%が実施段階に入った。熟練雇用2万人の目標も、当初の5年より早い3年程度で達成できるとの見通しだ。

もっとも、ジョホールの成長を単なるシンガポールからの波及とみるべきではない。州内には港湾と製造業の集積があり、近年はデータセンター投資も増えている。広域開発は2006年のイスカンダル・マレーシアにさかのぼる。JS-SEZの特徴は、都市や工業団地の整備にとどまらず、投資手続き、人材移動、物流など、国境を越えた企業活動そのものを円滑にしようとする点にある。

今後の評価を左右するのは、投資額よりも域内に何が残るかである。地元企業が国際企業の供給網に入れるか。高付加価値の仕事が根付くか。人材の技能と賃金が上がるか。データセンターも、通信やクラウドなど周辺産業の広がりまで見る必要がある。

同時に、住宅価格や生活費の上昇を抑え、成長の利益を住民に還元できるかも重要だ。RTSリンクで人材や知識の往来は増えるが、ジョホール企業にはシンガポールとの人材獲得競争が一段と厳しくなる可能性もある。

ジョホールには新たな成長軸となる条件がそろいつつある。ただし、投資を地元企業の成長や賃金上昇につなげ、インフラや生活コストへの負担にも対応するのは容易ではない。二国間の制度調整が進まなければ、国境は企業にとって壁として残る。JS-SEZは大きな機会であると同時に、ジョホールの政策遂行力が試される構想でもある。

次回はシンガポール側から、ジョホールの成長が企業立地や人材、都市国家としての成長モデルに何をもたらすのかを考える。

*2026年7月22日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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