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第208回[シンガポール×安全保障]なぜ世界の国防トップがシンガポールに集うのか。シャングリラダイアログが示す都市国家の外交資産

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第208回[シンガポール×安全保障]なぜ世界の国防トップがシンガポールに集うのか。シャングリラダイアログが示す都市国家の外交資産

基調講演をするトー・ラム・ベトナム共産党書記長兼国家主席(写真:International Institute for Strategic Studiesの公式Filckr Accountより転載)

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

2026年5月29日から5月31日、シンガポールのシャングリラホテルは物々しい雰囲気に包まれた。世界各国の国防大臣や軍高官が集結する「第23回アジア安全保障会議」、通称シャングリラダイアログが開催された。

英国の国際戦略研究所(IISS)が主催するこの会議は、アジア太平洋地域における重要な安保プラットフォームとなっている。日本からも小泉進次郎防衛相らが参加し、スピーチの内容が注目された。そもそも、なぜこの国際会議は重要なのか。

近年の最大の焦点は米中二大国の動向であり、今年、昨年に引き続き米中防衛相会談は実現しなかったことが注目された。中国側が董軍国防相の派遣を見送ったためだが、5月14日から15日に北京で米中首脳会談が行われており、対話の決裂とはいえない。両国間には戦略的安定性を維持するための対話チャネルがすでに維持されていたとみることもできる。

閣僚級会談が実施されなかったという一部分だけを切り取るべきではなく、米中は現実的なパワーバランスの維持を重視したと言えよう。

本会議の本質はメディアに公開される演説だけではない。むしろ、サイドラインで頻繁に行われる各国間の非公式の会談や会話にこそ機能的な価値がある。

安保の領域では、公式な外交関係が硬直していても衝突を防ぐリスク管理が不可欠だ。直接顔を合わせて対話することによって、信頼関係が醸成されたり、最悪のエスカレーションを避けるきっかけとなったりもするのだ。

シャングリラダイアログ期間中には、情報機関関係者による非公開協議が行われることでも知られている。外交交渉が難航したり、機能不全に陥ったりすると、このインテリジェンス・コミュニティの直接対話は決定的な意味を持つ。

偶発的衝突を回避するための実務的なレッドラインの確認は、国家の生存戦略そのものだ。軍事外交の裏番組としてインテリジェンス機関同士の対話が重要であり、情報機関関係者による非公開協議の舞台ともなる重要な機会である。

2002年に始まったシャングリラダイアログは四半世紀近い歴史を刻んでいる。シンガポールにとって重要なアセットとして確立しており、都市国家の外交戦略をみることができる。

米国との安保パートナーシップを維持しつつ、中国とも深い経済関係を結ぶ「全方位外交」。特定陣営に全面的には与しない独自の立場を維持しているからこそ、利害が対立する国々も「シンガポールが提供する場なら席に着く」というインセンティブが働く側面がある。

安保と経済が不可分となった地経学の時代において、地域の安定はグローバルサプライチェーン、ひいては日々のビジネスの前提条件だ。シャングリラダイアログで交わされる対話を見極めることは、アジアと世界経済の潮流を読み解く上で、不可欠なアプローチなのである。

 

*2026年6月3日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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