【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第31回- シンガポールの柔軟な勤務形態(FWA)について
シンガポール法(FPC)・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
日本法弁護士 鴫原 洋平

みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。
今号では、2024年12月1日に施行されたフレキシブル・ワーク・アレンジメント(柔軟な勤務形態、「FWA」)に関する三者ガイドライン(Tripartite Guidelines on Flexible Work Arrangement Requests、「本ガイドライン」)についてご紹介します。
1. FWAの概要
本ガイドラインは、2024年4月16日にTripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices(「TAFEP」)およびMinistry of Manpower(「MOM」)により公表されました。FWAは、従業員が柔軟に勤務時間や勤務場所を選べるようにし、仕事とプライベートのバランスを取りやすくする取り組みとなっています。
本ガイドラインは、従業員がFWAを正式に申請する方法、ならびに雇用主がFWA申請をどのように取り扱うべきかについて定めるもので、FWA申請の提出および評価のプロセスを重視しており、雇用主にはFWAを従業員に提供する義務はありません。
Flexible Workは、Flexi-Place(場所)として、労働場所を柔軟に勤務する形態(テレワークや在宅勤務)、Flexi-Time(時間)として、総労働時間や業務量を変えずに、異なる時間帯で柔軟に勤務する形態(時差出勤やフレックス性等)、Flexi-Load(業務量)として、異なる業務量で、それに見合った報酬を受けて柔軟に勤務する形態(ジョブシェアリングやパートタイム勤務等)があるものとされております。
シンガポール駐在の外国人従業員も、本ガイドラインに基づく正式なFWA申請を行うことができます。
2. 具体的な手続
①正式なFWA申請の提出
前提として、雇用主は、従業員が正式なFWA申請を提出するためのプロセスを整備すべきとされており、従業員は、そのプロセスに従って申請をする必要があります。そのような整備がされていない場合は、申請日、申請するFWAの内容、理由、希望開始日及び終了日等の情報を含めた書面で申請をします。
②雇用主による適切な検討
雇用主は、FWA申請について建設的な方法で検討協議し、雇用主と従業員双方のニーズに最も合致する方法について合意に至るよう努めるべきとされています。
③2か月以内の書面による決定の通知
雇用主は、申請を受けてから2か月以内に書面で決定(拒否の場合はその理由)を通知すべきとされています。
④拒否された場合の代替案の提示
雇用主は当該従業員と代替案について協議することが推奨されています。制度があり、差別的理由や権利行使を理由とする解雇は別途違法となる可能性があります。
3. 拒否事由について
雇用主は、FWA申請を拒否する裁量権を有しますが、拒否は合理的な事業上の理由に基づくべきとされています。
合理的な拒否理由の例
・雇用主にとって大幅なコスト増加をもたらす場合、または、個人、チーム、または組織の生産性の大幅な減少をもたらす場合、あるいは顧客ニーズへの対応能力に悪影響を及ぼす場合
・職務の性質上、実現不可能または非実用的である場合、他の従業員の勤務形態を変更する余裕がない場合、またはFWA申請に対応するために新たな従業員を雇用する必要がある場合
不合理な拒否理由の例
• 経営陣がFWAを信じていないことや、上司が従業員を直接監視下に置くことを好むこと
• FWAを実施しないことが組織の伝統や慣習であることや、一人を認めると他の従業員も同様の要求をしてくる可能性があること等
4.ガイドライン違反のペナルティ/現在の運用状況
本ガイドラインは法律ではありませんが、実質的にはこれに準拠することが強く求められます。本ガイドラインを遵守しない雇用主に対しては、TAFEPが当該雇用主と協議し遵守を求めることとなります。
繰り返しまたは故意に遵守を拒否する雇用主に対しては、MOMが警告を発し、是正のためのワークショップへの参加を義務付ける場合があります。さらに、将来的な就労ビザ発行に悪影響が出る可能性もあります。
NTUC Women and FamilyおよびPAP Women’s Wing(シンガポールの与党内の組織)が共同で実施した「Singapore Workforce Flexibility Survey」(2025年11月18日~12月10日実施、回答者1,508名)の結果によれば、
現在の勤務先で正式にFWAを申請した者のうち、89%が全面承認または一部修正のうえ承認されています[1]。雇用主側としては、FWA申請があった場合には原則として承認を行う方向で運用されていることが伺えます。
しかし、同調査では、回答者の3人に1人(36%)が、FWAを申請する際の最大の懸念としてスティグマ(偏見や否定的に見られることへの恐れ)を挙げています。そのため、そもそも、FWAの正式な申請を行えていない従業員が多数存在することが推測されます。現在は、このスティグマの問題解消が一つの課題として考えられております。
5.実務上の対策
本ガイドラインに準拠するためには、雇用主はFWA申請の受付・検討・決定に関する社内規程を策定し、従業員に周知することが重要です。
次に、会社側として、雇用契約書におけるジョブスコープ(職務範囲・職責)の範囲を明確化することも推奨されます。ジョブスコープの内容により、具体的にどのような職務遂行が雇用契約上求められているのかが明確となるからです。
最後に、上記のようなスティグマの問題も言及されておりますので、会社としては、そのようなスティグマの問題が生じないように、管理職に対する研修等を実施することも推奨されます。
以上
【出典元】
【執筆者】
One Asia Lawyers Group/Focus Law Asia LLC
シンガポール法(FPC)・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
日本法弁護士 鴫原 洋平
<栗田 哲郎お問い合わせ先>
E-mail:tetsuo.kurita@focuslawasia.com
<鴫原 洋平お問い合わせ先>
E-mail:yohei.shigihara@focuslawasia.com
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One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。
| One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点) ・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー) ・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン) ・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド) ・日本国内(東京、大阪、福岡) ・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン)) ・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所)) ・メンバー数(2023年8月時点) 全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名) |
栗田哲郎 Tetsuo Kurita
| One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia 代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法) tetsuo.kurita@oneasia.legal |
2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。
その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。
2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。
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