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-第4回-シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(1)
(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第4回-シンガポール新法紹介/小売店舗用賃貸借契約法(1)
(Lease Agreements for Retail Premises Bill)

みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。今回は皆さんの生活に影響を与える可能性のあるシンガポールの新しい法律、「小売店舗用賃貸借契約法(Lease Agreement for Retail Premises Bill))」をご紹介したいと思います。

皆さんがシンガポールに住み始めて、初めて目にする契約書の一つが、賃貸借契約書(Lease Agreement)であると思います。そして、その契約書の長さと日本とは大きく異なるその内容に驚かれたのではないでしょうか。

まず、賃貸借に関する法律の考え方が、日本とシンガポールではそもそも異なっています。日本では「借地借家法」という法律があり、この法律によりテナントの権利が手厚く保護されています。

例えば、テナントがオーナーに正当な事由なく契約の更新を拒絶された場合、借地借家法28条に基づき、オーナーの不当な更新拒絶は認められないとされています。日本においては、(定期借地・借家ではない限り)更新することはテナントの権利であり、よりテナントを保護した法律の仕組みになっています。

また、(定期借地・借家ではない限り)基本的にテナントから事前に通知をすれば途中解約も認められており、契約期間の途中でも解約が可能となっています。

他方、シンガポールでは、オーナーとテナントの権利関係を定める借地借家法のようなテナントを保護する規定はなく、コモン・ローの法域であることから賃貸借契約書の文言が重視されます。そして、契約書に記載があれば、オーナーに相当有利であってもその契約に従わざるを得ません。一般的に、契約締結時にはオーナーが交渉上有利な立場にあることが多く、結果として、オーナーに相当有利な内容で契約せざるを得ないことも多いのが現状です。

皆さんも、シンガポールにおいて賃貸借契約を更新したいと思っても、オーナーの都合で更新が拒絶されたり、賃料の増額を受け容れざるを得ない状況、途中解約が認められず途中解約をしたところ残期間分の賃料を請求されそうになったなどの状況を経験された方もいらっしゃるかもしれません。

このようなオーナーに有利過ぎる状況を解消すべく、Fair Tenancy Industry Committee (FTIC)という機関が、「小売店舗の賃貸借契約に関する行動規範」(Code of Conduct of Leasing of Retail Premises in Singapore)を作成していました。この規範は、小売店の賃貸借契約の交渉時におけるオーナーとテナントの公平性を確保することや、両者が長期的かつ有益な関係を継続させることを目的としています。

なお、この規範は、あくまでも小売店の賃貸借契約のみを対象としており、通常の居住用の賃貸借は対象にしていません。また、これ自体は法律ではなく、契約をする当事者間の不均衡なパワーバランスを解消するための指針に過ぎないため、法的義務は発生していませんでした。

この点、2023年7月4日、Lease Agreements for Retail Premises Bill(小売店舗用賃貸借契約法、以下、「本法案」)がシンガポール国会に提出されました。本法案は上記の行動規範の遵守を義務付ける法律となっており、2024年の2月から施行される予定であると発表されています。予定通りに進むと、2024年2月からシンガポールにおける飲食店やジムなどを含む小売店舗で、賃貸借契約が1年以上であれば本規範に従わなければならないこととなります。

そのため、以前は従うかどうか当事者に委ねられていた行動規範も、2024年2月から義務としてオーナーとテナントは従わなければならなくなります。今まで法律では保護されていなかったテナントの権利が、本法案の成立によって守られることになります。

今回は、日本とシンガポールの賃貸借契約の相違点と、シンガポールにおいて新たに成立した小売店舗に関する賃貸借契約法の成立についてご紹介しました。次回は本法が具体的にどのようなケースで適用されるのかご説明いたします。

筆者:栗田哲郎(シンガポール法(Foreign Practitioner Examinations)・日本法・アメリカNY州法弁護士)

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One Asia Lawyers Group

One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。 この記事に関するお問い合わせは、ホームページまたは info@oneasia.legal までお願いします。

One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点)
・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー)
・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン)
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・日本国内(東京、大阪、福岡、京都)
・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン))
・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所))

・メンバー数(2023年8月時点)
全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名)


栗田哲郎 Tetsuo Kurita

One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia
代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法)

tetsuo.kurita@oneasia.legal
+65 8183 5114

2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。

その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。

2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。


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