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-第27回-シンガポールのM&Aについて (続)

【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第27回-シンガポールのM&Aについて (続)

シンガポール法(FPC)・日本法・イングランド及びウェールズ法弁護士 増田浩之

みなさん、こんにちは。今回も、前回から引き続き、シンガポールのM&Aについて解説します。シンガポールにおいてM&A(株式譲渡を前提とする)を行うに際しての各ステップの概要と留意事項についてご説明します。

対象会社の選定・交渉、専門家の起用

M&Aにおける対象会社の選定の方法は、たとえば、元々取引先であった会社を買収する場合、事業開発部等の事業部が選定する場合、Financial Advisorなどの外部のアドバイザーからの紹介を受ける場合等、事案によって様々です。

対象会社との初期的な交渉や、ストラクチャーの検討、ハイレベルな規制事項(ライセンス規制等)の確認や、弁護士・会計士などの専門家の起用の検討もこのタイミングで行うことが一般的です。

基本合意書の作成・締結

次のステップは、対象会社・売主となる株主との間での基本合意書の締結となります。M&Aの目的を確認し、前提となる譲渡価値の確認、スケジュールの確認、独占交渉権の有無・期間、秘密保持義務等を規定します。多くのケースでは、独占交渉権や秘密保持義務等を除き、法的拘束力を持たせない形とすることが一般的です。

とはいえ、ここで議論した事項は、一定の前提となってその後の交渉が進むケースが多いため、法的拘束力がないとしても、その後の交渉の内容や方法に影響があり得る点は留意が必要となります。相手方との交渉次第ですが、1週間から数週間程度を要することが一般的です。

デューデリジェンスの実施

(1)基本合意書締結後、デューデリジェンス(DD)を実施するフェーズに移ります。DDとは、対象会社の企業価値・リスクの適正評価のために、買収者が最終契約前に対象会社に関して実施する問題点の調査・分析及び検討のことをいいます。多くのケースでは、法務、財務、税務に関するDDを行うのが一般的です。これに加え、ビジネスDD、また、業態によってはITに関するDD、環境DD等を行う場合もあります。

最近では、Virtual Data Roomといわれるクラウド上のデータルームに対象会社の資料をアップロードしてもらい、そのレビュー・確認を行いながら進めていくケースが通常です。必要な場合には現地での確認や代表者や関連部署責任者へのインタビューを実施して、対象会社の事業内容の把握や潜在的なリスクを確認します。

提供される資料や書類の量や質、また、対象会社による回答の的確さや協力次第で、DDの期間は変わり得ますが、筆者の感覚では、概ね2週間から2か月程度以内で完了するケースが多いです。

(2)シンガポールでは、ACRA登記をはじめとする公示制度の信頼性が高いこと、各許認可の制度を含む法制度の透明性が高いこと等から、事案にはよるものの、極めてハイリスクな事項が検出されるケースは比較的少ないように思われます。

とはいえ、あるイシューについてのリスクの評価は、買収の目的と密接に関連するため、実務的観点も踏まえて慎重に行うことが必要となります。

各契約書の作成・締結

株式譲渡を前提とするM&Aにおいては、株式譲渡のための株式譲渡契約書(Share Purchase Agreement:SPA)、既存株主が残る場合など買収後株主が複数となる場合の株主間契約書(Shareholders’ Agreement:SHA)、既存のマネジメントチームをリテインする場合のサービス契約書(Service Agreement/Employment Agreement)が代表的な契約書となります。

シンガポール法は、イギリス法を源流とするいわゆるコモンロー体系であり、定めのない事項があれば法律に委ねるというのではなく、契約書に可能な限り盛り込んで争いのないようにするという発想があります。そのため、各契約書は、日本のM&Aと比較しても倍以上の分量となることが通常です。取引の根幹部分、DDでの検出事項への対応を、契約書に反映させることが重要となります。

クロージング・取引実行

クロージングは取引実行のことであり、株主名義の変更(又はそれに必要な書類の交付)と譲渡代金の決済を行います。シンガポールでは、最終的にはACRAのBizfile上の株主の名義の変更を行うことから、そのために必要な書類の交付・確認と譲渡代金の決済を行うことになります。

これらの手続きにあたっての書類や情報の確認に加え、SPAで定めた前提条件の充足確認(取引先からの取引実行にあたっての承諾等案件によって様々です)を行うため、数週間から1か月程度は通常要するのが一般的です。

ACRA登記関連については秘書役を通じて行うこととなりますが、最近ではシンガポールで新たに株主や取締役として登録するに際してのKYCチェックは厳しくなっており、そのために必要なID等の書類を準備するにあたって余裕をもった期間設定も必要となります。

PMI(買収後の統合作業)

PMIとは、Post-Merger Integrationの略語であり、一般的にはM&Aのクロージングの相当期間内に実施される経営統合作業をいいます。

内容は、統合方針の検討、統合方針のリストアップから、組織・規定類、人事・労務、経営管理体制、財務・経理の見直し、中期経営計画の策定・実施、その後のフォローなど多岐にわたります。対象会社のこれまでの実務や慣習、雇用環境を尊重しつつ、日本本社から人を派遣・駐在させるなどして日本側のマネジメントシステム等を取り込んでいく作業となります。

日本とシンガポールの法律の違いや文化の違いもさることながら、人の感情なども絡む実務的に難しい作業となりますが、これこそがM&Aの本来の目的でもあり、M&Aの成功のために最も重要といってもいいステップです。


執筆者】
One Asia Lawyers Group/Focus Law Asia LLC
 シンガポール法(FPC)・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
 シンガポール法(FPC)・日本法・イングランド及びウェールズ法弁護士 増田浩之

<増田 浩之お問い合わせ先>
 E-mail:hiroyuki.masuda@focuslawasia.com


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One Asia Lawyers Group

One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。

One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点)
・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー)
・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン)
・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)
・日本国内(東京、大阪、福岡、京都)
・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン))
・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所))

・メンバー数(2023年8月時点)
全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名)

栗田哲郎 Tetsuo Kurita

One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia
代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法)

tetsuo.kurita@oneasia.legal

2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。

その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。

2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。


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