【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】 -第17回- シンガポールの個人情報保護法(2)

みなさん、こんにちは。One Asia Lawyers Group (Focus Law Asia LLC)です。今回は、シンガポールの個人情報保護法に関する総論的なご説明をさせていただきます。
PDPAの10原則
一覧表を参照のため、第16回に引き続き今回も掲載の上、詳細を説明いたします。
原則(義務内容) | PDPA条文 | |
1 | 同意取得義務 | 13~17 |
2 | 使用目的制限義務 | 18 |
3 | 目的通知義務 | 20 |
4 | 開示および訂正義務 | 21、22 |
5 | 正確性確保義務 | 23 |
6 | 保護義務 | 24 |
7 | 保持制限義務 | 25 |
8 | 国外移転制限義務 | 26 |
9 | 説明責任義務 | 11、12 |
10 | 違反事例通知義務 | 26A~26E |
(1)同意取得義務
事業者が個人情報を収集、使用または開示する前には、原則当該個人から同意を取得しなければならない義務を定めたものになります。もっとも、2020年改正により、同意取得を不要とする旨の規定が追加された結果、実務的には同意取得が不要となる場合が増えています。
明示的な同意取得が不要となるのは、例えば、個人情報の収集、利用又は開示の目的が個人に通知され、合理的な期間を設けたにもかかわらず、当該個人がオプトアウトしなかった場合や、業務改善目的、個人情報の収集等により得られる組織の利益が当該個人が被る不利益よりも大きい場合等が挙げられます。
(2)使用目的制限義務
個人情報が特定の目的のためだけに収集、使用または開示されなくてはならないことを定めた義務になります。(ア)の同意取得義務とも関連しますが、一旦同意を取得した後に使用目的が変更された場合は、当該個人から新たな同意を取得する必要があります。
(3)目的通知義務
個人情報を収集、使用もしくは開示するとき、またはその前に、個人情報の収集、使用または開示しようとする目的は当該個人に通知されなければならない義務を意味します。(イ)に記載したのと同じく、同意取得後使用目的が変更された場合、その新たな目的を通知しなければなりません。
(4)開示および訂正義務
この二つの義務については、個人から要求があった場合、当該個人に関して保有する個人情報を当該個人に開示しなければならない開示義務と、事業者が保有または管理している個人情報の誤りや欠落を訂正しなければならない訂正義務を定めたものになります。開示義務は、個人情報主体の開示請求権に基づくものですが、同請求権は「アクセス権」と呼ばれることもあります。
(5)正確性確保義務
事業者が個人に影響を与える決定に使用する、または他の事業者等に開示される可能性が高い場合は、収集された個人情報が正確で完全なものであることを担保するべく合理的な措置を取らなければならない義務を定めたものになります。
(6)保護義務
事業者が保有する個人情報は、不正アクセスや漏洩等のリスクを回避するための合理的な措置をもって保護されなければならない義務を定めたものとなります。不正アクセスや情報漏洩の事故が発生したときには、この保護義務(合理的な水準が要求)を遵守していたのかが大きな問題となり、これを怠っていた場合はPDPAによる罰則が科される可能性があります。
そのため、個人情報を保護するためのセキュリティ対策をきちんと講じなければなりません。多くの企業は、セキュリティに関して外部のIT会社に委託している所も多いようですが、この委託により企業の責任が回避できるわけではなく、適切な委託先の選定や委託後も十分な運用の監督をしていたか等も判断基準に含まれるため、単にIT会社に委託しただけでは安心することができない点に留意すべきです。
(7)保持制限義務
事業上または法律上の目的から必要でなくなった場合に、当該個人情報を廃棄または匿名化しなければならない義務を定めたものです。
(8)国外移転制限義務
事業者は、PDPAの規定に従って移転される場合を除き、原則として個人情報をシンガポール国外の国または地域に移転させられないという義務を定めたものです。国外への個人情報移転については、別号で詳細を解説します。
(9)説明責任義務
PDPAに基づく義務を果たすために、必要な個人情報保護ポリシーや手続を導入しこれらの情報を公開すること、および責任者(Data Protection Officer)を選任し、その連絡先を公開しなければならない義務を定めたものとなります。公開方法としては、シンガポール個人情報保護委員会(PDPC)のウェブサイトへの登録や自社ウェブサイトへの掲載が挙げられます。
(10)違反事例通知義務
何らかの個人情報漏洩事故等の違反事例が発生した場合に、影響を受ける個人及びPDPCに通知しなければならない義務を定めたものとなります。
2020年改正により新設された義務であり、大きく分けて2つの場合、すなわち、(a)重大な害悪が生じた場合、もしくは(b)重大な規模の違反があった場合に、通知義務が課されることになりました。(a)の重大な害悪を受ける情報については、PDPA Regulations (2021)において、財務情報や未成年の識別情報、医療・健康関連情報等が列挙されています。(b)については、Advisory Guidelines上500名以上の個人に影響を与えるか否かが一つの基準となります。
罰則
PDPCは、事業者によるPDPA上の義務違反があると判断した場合には、是正命令(PDPA第48条I)や最大100万シンガポールドルの罰金、もしくは大規模事業者(年間売上高が1,000万シンガポールを超える)については年間売上高の10%まで科すことができます(PDPA第48条J)。
この売上高を基準とする罰金規定は、2020年改正により新設されたものですが、これにより法律上最大の100万シンガポールドルを超える高額な罰金が科されるようになったことは注意が必要です。実際に毎年PDPCから処罰事例も公表されており、具体的な事例を踏まえて特にどの点に重きを置いて対策するのか等をアップデートしておく必要があります。
まとめ
以上がシンガポール個人情報保護法(PDPA)の総論的な説明となります。個人情報保護のためには、細かい規定も含めてさまざまな義務が事業者に課されるため、シンガポールで新規に進出される際、または進出後の情報管理については、専門的な知識が必要です。
そのため、専門家とともに管理スキームを作る、もしくは法律、関連規則などのアップデートに合わせた見直しを行うことも肝要かと存じます。これらの件で必要なことがあれば、お気軽に弊所までお問合せください。
【執筆者】
One Asia Lawyers Group/Focus Law Asia LLC
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
日本法弁護士 王 宣麟(堂島法律事務所から出向中)
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One Asia Lawyers Group

One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。
One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点) ・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー) ・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン) ・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド) ・日本国内(東京、大阪、福岡、京都) ・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン)) ・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所)) ・メンバー数(2023年8月時点) 全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名) |
栗田哲郎 Tetsuo Kurita
One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia 代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法) tetsuo.kurita@oneasia.legal |
2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。
その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。
2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。
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