【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第11回- シンガポールにおけるFlexible Work Arrangement (FWA)の導入について(前編)
みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group (Focus Law Asia LLC)です。今号ではシンガポールにおける柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangement (FWA))の導入についての前編をご紹介します。
FLAとは従業員が柔軟に勤務時間や勤務場所を選べるようにし、仕事とプライベートのバランスを取りやすくする取り組みとなっております。シンガポールにおけるFWAの推奨や2024年の労働法改正に伴った職場公正法(Workplace Fairness Legislation)の導入を通じて、国内の労働環境や制度に関する見直しがなされました。
その他の労働法改正の内容については第8回、第9回のニュースレターをご覧ください。
1.柔軟な勤務形態(Flexible Work Arrangement (FWA))について
FWAとは、雇用者と従業員が一般的な勤務形態とは異なる形態に変更することを柔軟に交渉、合意、そして実施するための取り決めです。この取り決めは、政府、雇用者、従業員の代表、そして人材開発省(Ministry of Manpower (MOM))、全国労働組合会議(NTUC )、全国雇用者連盟(SNEF)で構成されている政労使連合(Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices (TAFEP)が、公平かつ持続可能な雇用慣行を目的として積極的に推進しています。FWAを導入することによって、従業員が仕事と個人双方のコミットメントをよりバランスよく果たせるようになります。
近年においてFWAに対する注目度が上がった背景には新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックが挙げられます。コロナ禍の自粛期間中、テレワーク等の従来とは異なる労働形態が普及し、それに伴ってFWAの必要性も高まりました。ポストコロナの現在、企業にとって持続可能であり、従業員の柔軟性へのニーズに応えられるFWAが重要視されています。
2.柔軟な勤務形態に関する三者構成ガイドライン(Tripartite Guidelines on Flexible Work Arrangements (TG-FWAR) )について
従業員はどのようにFWAを申請し、利用すべきか、そして雇用者はどのようにFWA申請を取り扱うべきかの具体的な内容は「柔軟な勤務形態に関する三者構成ガイドライン」(Tripartite Guidelines on Flexible Work Arrangements (TG-FWAR) )に定められています。2024年4月16日に発表され、2024年12月1日に適用されるTG-FWARはシンガポールの全ての雇用者に対して、従業員からのFWAの正式な申請を公正に検討するための最低要件を義務付けています。
3.FWAの三つのカテゴリー
TG-FWARにおいて、FWAは以下の三つのカテゴリーに分類されています。
4.FWAに対するレコメンデーション
シンガポール政府は、FWAに関する10のレコメンデーションを受け入れました。この10のレコメンデーションはFWAに関する適切な規範と期待を確立することを目的とし、従業員がFWAを要請するプロセス、雇用者がこれらの要請を管理するプロセスの概要を記載しています。
(1)職場規範の確立:FWAの申請と検討に関する明確な職場規範を確立すること (2)利用時の明確化:FWAの申請・検討のプロセスの際にガイダンスを提供すること (3)FWAの検討:雇用者はFWAの申請があった場合、申請を真摯に検討しなければならないこと (4)正式な申請の要件:必要な情報が揃った正式なFWA申請の手続きを明確化すること (5)対象者の明確な定義:試用期間を終了した全従業員を対象とすること (6)求職者に対する説明:求職者からのFWA申請を考慮するよう雇用者に義務付けること (7)全ての雇用者を対象:中小企業を含む全ての会社を対象とすること (8)教育の実施:従業員に教育を行わなければならないこと (9)コミュニケーションの強化:FWAを通じて、会社と従業員の連携を密にすること (10)雇用者への支援:会社への支援を強化し、企業団体と連携して研修を拡大すること |
5.レコメンデーションを受けて会社側に必要な具体的アクション
上記の10のレコメンデーションを受けて、会社が行うべきことをまとめると以下の通りとなります。
(1)ポリシー・フォームの策定、就業規則・雇用契約の修正
FWAの申請手順、申請フォーム、検討基準、利用ガイドなどを文書化し、例えばFWAポリシーとして、全従業員に共有し、それに合わせて、就業規則・雇用契約書などを修正する必要があります。これらの作成には適切な専門家に相談することが推奨されます。
(2)説明会の実施
定期的に説明会を実施し、上記のポリシー・フォーム、就業規則・雇用契約の修正の内容、FWAの趣旨、利用方法などを説明する説明会を実施し、従業員からの質問などを解消することが推奨されます。
筆者:栗田哲郎(シンガポール法(Foreign Practitioner Examinations)・日本法・アメリカNY州法弁護士)
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One Asia Lawyers Group
One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。 この記事に関するお問い合わせは、ホームページまたは info@oneasia.legal までお願いします。
One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点) ・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー) ・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン) ・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド) ・日本国内(東京、大阪、福岡、京都) ・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン)) ・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所)) ・メンバー数(2023年8月時点) 全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名) |
栗田哲郎 Tetsuo Kurita
One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia 代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法) tetsuo.kurita@oneasia.legal +65 8183 5114 |
2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。
その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。
2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。
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