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【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第99回-[マレーシア×政治]副大臣人事にみる、マレー系中心社会における華人系中心の多民族政党の存在

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

前回に続いて、マレーシアのアンワール新内閣の人事について分析したい。

副大臣人事にも様々な配慮がにじみ出ている。特に、与党の希望連合(PH)を構成する政党で、最大議席数となった民主行動党(DAP)には、27の副大臣ポスト中、連立政党を構成する政党のなかで最大数の6名を起用した。

大臣ポストは28ポストあり、DAPは4ポストのみに抑えられたことと対象的である。その理由には、DAPには比較的若手が多いことなども要素があると思われるが、マレーシア政治の民族的な事情が背景にあるのではないかと思われる。

DAPはこれまで華人系中心で、ときには華人ウルトラとまで言われた政党である。しかし、当初から一定数の支持があったインド系の存在感が近年は増し、更に直近ではマレー系からの支持もある程度得られるようになっている。

そして、今回の総選挙では、前回から2議席は減らしたものの、40議席を獲得し、与党を構成する政党の中では最大議席数を誇っている。

こうした事情から発生する政治的な課題は、マレー系を含むブミプトラが中心で運営されてきたマレーシア政治において、華人系とインド系の高いDAPを内閣においてどの程度まで中心的な存在にするか、ということである。

今、DAPがPHから離脱すれば、アンワール首相は政権を維持することができない。そのため、DAPについては大臣ポストでは4ポストと抑えめにしつつ、副大臣ポストでは最大の配分を行うという人事が行われた可能性がある。

マレーシアは、ブミプトラが人口のおよそ3分の2を占める。出生率の関係から、ブミプトラと華人系の割合は、差が大きくなっている事実もある。そうしたなかで、かつての「華人ウルトラ」とまで言われたDAPが多民族政党化している。アンワール首相が率いる人民正義党(PKR)も、マレー系中心から多民族政党化している。

この2つの出自の異なる多民族政党がバランスを調整しながら、マレーシア政治の中心となりつつある。

大臣・副大臣ポストの政党別区分

統一プリブミ党サバ支部についての注:同党本体は連合野党人民連盟(PR)に所属しているが、サバ支部は別の動きをし、GRSに直接所属している。総選挙では、GRSの6議席中4議席を獲得した。  
(副)大臣ポスト獲得率=(副)大臣ポスト配分数÷下院議席獲得数


*2022年12月26日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

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