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【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第98回-[マレーシア×政治]アンワール新内閣が発足、連立各党への配慮とリスクをはらんだ微妙なバランス

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

マレーシアのアンワール内閣の陣容が確定した。12月2日に大臣28名、9日には副大臣27名が発表され、国王による任命を経て、アンワール内閣が始動した。連立各政党への配慮がはっきりと現れるなか、首相の兼務ポストと副首相人事には批判も生じている。

まず、アンワール首相は自ら財務相を兼務することとした。財政を司るだけでなく、政府系企業(GLC)などビジネスにおいても重要な役割を果たし、非常にパワフルなポストである。過去に首相が財務相を兼任した事例は、直近ではアブドゥラ首相が2003年から2008年の任期を通じた兼務、マハティール政権期(1981年〜2003年)の1998年から99年と2001年から03年であった。

ただし、ほぼ、どの兼務期間も、国家財政やマクロ経済に精通した人物を起用した第2財務相を設置し、政治判断をする首相とのバランスをとろうとしていた。しかし、今回、第2財務相は起用されていない。そのため、首相に権限が集中しすぎるきらいがある。他方、アンワール首相が率いる政党連合の希望連合(PH)が単独過半数に満たない状況では、パワフルな財務相を確保しておきたかった政治的な思惑もあっただろう。

次に副首相人事である。マレーシア政治史上、初めて2名が起用された。その2名とは、ザヒド・ハミディ国民戦線(BN)議長兼統一マレー国民組織(UMNO)総裁とファディラ・ユソフ・サラワク政党連合(GPS)院内総務兼統一ブミプトラプサカ党(PBB)副総裁補である。ファディラ副首相については東マレーシアへの配慮だ。

一方で問題なのがザヒド副首相である。同副首相は、今年9月に汚職疑惑について高等裁判所で無罪判決となったが、現在、計47の訴訟を抱えている。ナジブ元首相に次ぐ汚職の象徴とも見られてきた人物のため、アンワール首相が長年唱えてきた「レフォルマシ(改革)」の趣旨にそぐわないという批判がある。

とはいえ、アンワール首相には選択肢が無かった。前回分析したように、下院議席222議席のうちPHの保有議席は81に過ぎず、政権獲得のためにはBNの議席が必要なため、トップのザヒド氏を相応の処遇をするしかなかった。

ザヒド副首相は地方・地域開発相も兼務している。同ポストは連邦土地開発庁(FELDA)をはじめ村落開発行政を担う組織が傘下にあって利権が多く、村落の票にも直結する。村落部の支持を強固にしようとする意図がある一方、BNの発言権の強化にもつながるため、連立のバランスに微妙な影を落としかねない。   


マレーシア:アンワール新内閣の首相・副首相の顔ぶれ

 


*2022年12月12日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。


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