HOMEコラム【〜連載〜川端 隆史のアジア新機軸】 第95回[シンガポール×デザイン]シンガポールビジネスの将来を握るデザインという視点。Red Dot Design Museumを訪問して

【〜連載〜川端 隆史のアジア新機軸】 第95回[シンガポール×デザイン]シンガポールビジネスの将来を握るデザインという視点。Red Dot Design Museumを訪問して

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

マリーナベイを散策していて、個性的なデザインの建物を目にして気になっていた読者もいるかもしれない。Red Dot Design Museumである。筆者も気になっていたひとりであるが、やっと先日、訪問してみた。

1階は誰でもアクセス可能なカフェとミュージアムショップがある。ショップカウンターでは入場チケットが10ドルで販売されており、これを購入すると展示場に入ることが出来る。2階を中心にRed Dot Design Awardの受賞作品や、作品について解説したパネルが設置されており、ビデオ映像が流されている。

斬新なデザインというよりも、ミニマルでこれからの社会に必要な工夫を凝らした作品が中心だ。Red Dotの源流は1955年にドイツで始まったデザインコンテストにある。

シンガポールのRed Dot Design Museumは2005年にマックスウェルロード沿いにあった。そして、今の場所に移ったのは2017年である。元々、この建物は、マリーナ・ベイ・シティ・ギャラリーとして使われ、まだマリーナベイ地区の開発中に、将来の開発計画を示す展示場として使われていた。

シンガポールの新たな象徴であるマリーナベイサンズが完成したマリーナベイ地区に、新たにRed Dot Design Museumが移転してきたのはシンガポールが向かう一つの道を象徴しているかのように思える。

最近のシンガポールの経済やビジネスにおいて、デザインは1つの重要キーワードになっている。そうした動きは、Red Dot Design Museumのような産業デザインに対するアワードを展示するという姿勢でも見て取れるし、高等教育においても次世代人材を輩出しようとする動きでも見てとれる。

この点、デザイン工科大学(SUDT)は、2021年には新卒生の給与中央値が4500Sドルだった。この水準は、老舗のシンガポール国立大学(NUS)の3800Sドル、南洋工科大学(NTU)の3750Sドル、マネジメント大学(SMU)の4000Sドル、社会科学大学(SUSS)の3300Sドルを大きく上回り、話題となった。

SUDTは2009年に新設された比較的新しい国立大学だが、NUS、NTU、SMUといった御三家に加えてを抑えての評価となった。学部別にみれば、NUSのコンピューターサイエンス卒のような6000Sドルクラスもある。とはいえ、中央値でみて、歴史の浅いSUDTが給与面で高い評価を得ていることは、今、シンガポールのビジネスでデザインが重視されていることが反映されたとみられる。

Red Dot Design Museumの様子(撮影:川端隆史)


*2022年11月8日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

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