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第195回[韓国×財閥企業ランキング 後編]K-POPの次は「K-ディフェンス」。地政学リスクを追い風に台頭する“ハードパワー”の新勢力

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第195回[韓国×財閥企業ランキング 後編]K-POPの次は「K-ディフェンス」。地政学リスクを追い風に台頭する“ハードパワー”の新勢力

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

前編では、HYBEが「5兆ウォンの壁」を打ち破り、エンタメ企業初の財閥入りを果たしたことを解説した。2025年の最新ランキングで注目しておきたいのは、防衛産業(K-Defense)の台頭である。韓国経済のポートフォリオは、華やかなカルチャーから、近年のふと名声の高い国際情勢を反映した安保産業へと裾野が広がっている。

2025年5月、韓国公正取引委員会(KFTC)の発表で注目を集めたのが、ミサイルや精密誘導武器を主力とするLIGグループの「公示対象企業集団」への新規指定である。LIGは、かつてのLGグループから分離した経緯がある。近年の業績は目覚ましい。

ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢の緊迫化を背景に、世界的に「高性能・低価格・短納期」を実現できる韓国製武器への需要が急増。同社の中距離地対空ミサイル「天弓II(チョンウン2)」などの大規模な輸出契約が資産評価を押し上げ、財閥の仲間入りを果たした。

2024年のHYBEが「文化による輸出」の到達点だとすれば、2025年のLIGは「安保による輸出」の象徴といえるだろう。

防衛産業の勢いは、ランキング上位層の順位にも影響を与えている。特に注目すべきは、2024年版(第119回)の報告時から順位を上げた7位のハンファ(Hanwha)グループだ。ハンファは近年、グループ内の防衛・宇宙事業を統合し、「ハンファエアロスペース」を核とした再編が実施された。

ポーランドへのK9自走砲や多連装ロケット「天武」の供給など、その輸出規模が急増し、今や「韓国版ロッキード・マーティン」を目指す国家的な巨大コングロマリットへと進化を遂げている。

前編でも触れたが、2024年からの「基準の名目GDP比(0.5%)連動制」への移行は、韓国政府の明確なメッセージでもある。これまでは資産10兆ウォンを超えると一律に「巨大財閥」としての厳しい足かせ(相互出資制限)が課されていた。

しかし、基準がGDP連動になったことで、企業は経済規模に合わせた投資が可能になった。この規制緩和が、防衛産業やIT産業(クーパン等)が次なるステージへ進むための呼び水となっている。

かつて韓国経済を支えた「サムスン、現代自動車、SK、LG」の4大財閥の支配力は依然として強力だ。ただ、2024年に5兆ウォンの壁を破ったHYBEや、2025年に指定されたLIG、そして上位で急上昇するハンファやクーパンの姿は、韓国経済のポートフォリオが多層化していることを示している。

「ソフトパワー」で世界の心をつかみ、「ハードパワー」で世界の安保ニーズを埋める。両極に見える二段構えの経済構造は韓国経済のレジリエンス(強靱性)を高めることにつながる。今後の日本企業にとっても、協力・競合の両面で注視すべき重要なファクターとなるだろう。

2025年度公示対象企業集団(大企業集団)ランキング

出所)韓国公正取引委員会「2025年度公示対象企業集団(大企業集団)の指定結果資料」(보도/해명 상세보기 – 게시물제목명,담당부서,첨부파일,내용 정보 제공2025년 공시대상기업집단 등 지정 결과 발표)より筆者作成

*2026年1月14日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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