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第194回[韓国×財閥ランキング 前編]HYBEが「BTS依存」から打ち破った「5兆ウォンの壁」。エンタメ専業で史上初の財閥入りから1年、地位を確立

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第194回[韓国×財閥ランキング 前編]HYBEが「BTS依存」から打ち破った「5兆ウォンの壁」。エンタメ専業で史上初の財閥入りから1年、地位を確立

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

本連載(第119回、2023年7月23日脱稿)で、韓国公正取引委員会が発表する企業グループの資産データ、いわゆる「財閥ランキング」を取り上げた際、筆者は 「HYBEは、新たなアーティストの活躍を背景に来年の財閥ランキングには掲載されるだろうか」とした。これは、翌年に実現した。

2024年から2025年にかけての最新データを紐解くと、韓国財閥の構造変化が見て取れる。上位はサムスンなどの伝統的な「重厚長大」産業が上位を占めているが、2024年に「エンターテインメント(ソフトパワー)」、2025年に「防衛産業(ハードパワー)」という新たなプレイヤーが浮上した。

これは、韓国経済のポートフォリオが多様化していることを示している。両業界とも以前から存在感はあったが、公的に「財閥」と認定されることで、経済・社会インパクトが主役級に格上げされたことを意味する。2023年からのアップデートを2回に分けて届けたい。 前編ではHYBEを取り上げる。

前提として財閥ランクインする企業の「2つの種類」について触れておく。

第一に「公示対象企業集団」は「準大企業グループ」に相当し、資産額5兆ウォン以上の企業が対象。大規模な内部取引の公表や株式所有状況の申告義務等が課され、透明性が求められる。総帥(オーナー)本人への私益詐取規制などが適用される。

第二に「相互出資制限企業集団」は「巨大財閥」だ。基準は2023年まで「資産10兆ウォン以上」だったが、経済成長に伴い対象企業が増えすぎるのを防ぐため、2024年からは「名目GDP比0.5%以上」に変更。「相互出資の禁止(循環出資の解消)」や「債務保証の禁止」など、資本の論理による無秩序な拡張を防ぐための厳しい制限が課される。

HYBEは2023年版では資産4.8兆ウォンで惜しくも基準に届かなかった。しかし2024年版では資産総額が5.25兆ウォン(約5,800億円)に到達。「公示対象企業集団」に指定され、2025年も維持した。特筆すべきは、HYBEが「エンターテインメント専業企業として史上初の単独指定」となったことだ。

SM、YG、JPYといったHYBE以前からの芸能事務所があるが、「財閥」ほどの規模にはなっていない。SMの4割ほどの株を保有する親会社IT大手カカオ(Kakao)グループは財閥企業にランクインしているが、HYBEは単体で認定された点が重要だ。

つまり、エンタメ事業一本でスタートし、独立した資本を保ったまま巨大化して「財閥」の認定を受けたのは、韓国経済史上HYBEが初めてなのである。創業者のパン・シヒョク議長は、法的にサムスンのイ・ジェヨン会長らと同じ「総帥」として指定された格好だ。

HYBEの最大の経営リスクは「BTS依存度」だった。メンバーは2022年10月から順次、兵役に入ったが、彼らの不在期間を、LE SSERAFIM、NewJeansらによるマルチレーベル体制でカバーし、買収先のPLEDIS所属のSEVENTEENのテコ入れや、収益源を多角化させた。 また、SMの株式を取得したり、海外向けファンダムプラットフォームWeverseもローンチし、グッズの越境ECも進めてきた。

K-POPはグローバルに強い存在感を示していたが、財閥ランキングに初めて専業企業HYBEが名を連ねたことで、名実ともに韓国の重要産業の一角となったと言えるだろう。次回はKディフェンスとも呼ばれる防衛産業について取りあげる。

 韓国の4大芸能事務所

出所)韓国公正取引委員会「2025年公示対象企業集団」、各社ホームページ、各種報道より筆者作成

※公正取引委員会が発表しているHYBEの資産規模と、SM、JPY、YGの時価総額は算出基準が異なる。比較のために便宜的に用いた

*2025年12月16日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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