【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第191回[日本外交×高市政権]注目すべき、国際会議のサイドラインで行われる二国間会談の重要性

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
前回は、高市早苗総理のデビュー外交としてASEANとAPECへの出席についてマルチ外交の側面から取り上げた。今回は、これらの会合と並行して行われた二国間会談(バイ会談)に焦点を当てたい。
大きな国際会議があるとその会議そのものに、当然だが注目が集まる。主要国や地域の首脳や閣僚が一堂に会して重要な課題について議論するため、声明文や記者会見がメディアでも大きく取り上げられる。
ただ、会議の合間を縫って行われる二国間会談もきわめて重要だ。場合によっては、会議本体と同等かそれ以上の重要性がある会談もある。多忙を極める首脳にとっては、こうした国際会議は一気に会談をしてしまうのに都合がよい。
もちろん、二国間の関係を深めるという意味では個別訪問は効果的だ。日程が長い分、首脳同士で過ごす時間も長く、信頼関係の情勢につながるし、様々な二国間の課題解決や協力のための話し合いを総合的にこなすことができる。
一方で、通常の訪問の場合には、とんぼ返りで終わりというわけにはいかず、国賓級やそれに次ぐような待遇となるため、調整にも準備にも時間がかかる。そのため、国際会議で二国間会談を行うことの重要性がある。
今回のASEANとAPAC、高市総理は複数の二国間会談をこなしたが、なかでも中国、韓国、豪州との会談は重要性が高いといえるだろう。中国との間では「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという基本方針が再確認された。
他方で、台湾、レアアース、日本の水産物輸入規制などセンシティブな話題も話し合われた。歩み寄りは難しい面はあるものの、首脳同士で直接会話すること自体が重要であるし、そもそも対面してコンタクトする機会さえ失われれば関係は悪化することになる。会うこと自体に意味がある。
韓国も日本にとっては複雑な課題がありつつも、今回は、日韓の前向きな協力と課題の共有ができたと言えるだろう。特に、米国トランプ政権が様々な予算見直しや東アジアの安全保障へのかかわりを見直す動きがあるなか、在韓米軍を通じた米国のプレゼンス維持は日本にとっても重大な関心事である。また、いわゆる同志国としてASEAN主要国やカナダ等との会談を一挙にこなすことができた。
そして、ASEANが終了して、APECが始まるまでの間には、米国トランプ大統領が来日して高市総理と会談のほか、様々な日程をこなした。米国大統領の訪日は、日本外交にとって最重要日程だ。
前回のコラムでは高市総理は就任直後にASEANとAPECの日程があったことは幸運だったと指摘した。マルチ外交としてだけでなく、本来なら時間のかかる複数国、かつ、重要国との二国間会談を一挙にこなすことができたという点も「幸運」の背景だった。

*2025年11月18日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。
共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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