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第188回[世銀経済予想×南アジア]国ごとに明暗分かれる地域経済、インドは下方修正されるも6%台を維持

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第188回[世銀経済予想×南アジア]国ごとに明暗分かれる地域経済、インドは下方修正されるも6%台を維持

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

世界銀行は10月7日、「南アジア開発アップデート」という報告書を発表した。世銀がいう南アジアとはインド、バングラデシュ、スリランカ、モルディブ、ネパール、ブータンを指す。

経済規模の大きいパキスタンについて世銀は今年7月、中東・北アフリカ(MENA)に区分するようになったため、本レポートには含まれていない点に注意が必要である。このレポートは、4月と10月に更新されている。

今回のレポートでは、2025年の南アジア全体の経済成長はプラス6.6%と予想し、2024年の6.4%から加速を見込んでいる。このレポートの4月版が発表される前に世銀は、2025年は6.1%と予想していたため、想定よりも好調だと言える。他方、2026年については、従来の予想値であった6.4から5.8%へと、マイナス0.6%ポイントの下方修正を施した。

国別に見ると明暗が分かれる。大きく落ち込んでいるのがモルディブとネパールである。モルディブは観光は強いものの、対外債務が大きく、経常収支と財政収支が赤字であり、積極的な財政支出に期待できない。ネパールは内政の混乱にともなう観光収入や海外からの投資の減少が響くとされている。

2026年の好調が予想されるのはブータンとバングラデシュである。ブータンは人口80万人と小さな国家である。足元の経済成長の原動力は発電であり、2025年から2026年は水力発電量の向上と発電所の建設が好調だと予想されている。

バングラデシュ経済は課題を抱えながらもまずまずの成長となりそうだ。昨年、首相の国外逃亡に象徴されるように政治的な混乱を受けて、経済が大幅に鈍化したが、2025年は5.7%、2026年は6.2%へと再び6%台への回復が予想されている。

最後に大国インドだ。小幅なマイナス修正が施され、2024年のプラス7.2%から2025年は6.5%、2026年と2027年は6.3%で横ばいと緩やかな減速が予想されている。トランプ関税の影響が指摘されている。

対米輸出品のうち4分の3に50%を超える関税が課せられる。ただ、筆者としてはそれでもなお、この程度の減速に止まっている点にインド経済の強さを感じる。世銀は堅調な国内消費、地方の賃金上昇、物品サービス税(GST)の改正による消費の後押しなどを指摘している。

南アジア全体としては下方修正が施されたことで、先行きを不安視する声もある。また、最近のスリランカやバングラデシュのように、政治的にも東南アジアに比べると突発的な事項が多いと言えるだろうし、マクロファンダメンタルズや行政の効率性なども改善の余地は大きい。ただ、大きな人口が集中する地域が年率6%の成長を遂げていることは揺るぎのない事実である。

世銀をはじめ、国際機関の経済や開発に関するレポートは、それぞれの国の基礎的理解をするために、格好の材料である。南アジア、特にインド経済への理解は、グローバルビジネスにおいて必須となりつつあると言えるだろう。様々な情報源があるが、まずは、このような国際機関や研究機関が発行している定点観測レポートをフォローすることから始めることをおすすめしたい。

*22025年10月15日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

ジョーシス株式会社
ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR) 所長兼主任研究員

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。東南アジアなど新興国政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理などが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりジョーシス株式会社にてジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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