【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】第172回[中国×東南アジア]習近平主席の東南アジア歴訪:米中摩擦下の企業戦略を探る

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
2025年4月、中国の習近平国家主席がベトナム、マレーシア、カンボジアの東南アジア3か国を歴訪した。米国のトランプ政権は、中国に145%、ベトナムに46%、マレーシアに24%、カンボジアに49%の追加関税を課す意向を示している。
一方で中国は、これまでどおり東南アジアに対して「自由貿易とサプライチェーン安定化のパートナー」を自認し、「一帯一路」構想を通じたインフラ投資や技術協力の拡大を推進している。以下、習近平主席の東南アジア歴訪の概要を見つつ、日本企業への示唆を考える。
習近平主席はまずベトナムを4月14〜15日に訪問し、45件の協力協定を締結した。内容としてはAIやグリーンエコノミー分野の協力や鉄道インフラの整備が中心だ。中国からの製造業進出が今後どの程度加速するのかに注目が集まる。一方でベトナムは中国製鋼鉄に反ダンピング関税を課すなど、自主性を維持する姿勢も示している。
続いて4月15〜17日に訪れたマレーシアでは31件の協定を締結。貿易・観光・農業分野での協力が深まり、中国は同国最大の貿易相手国となった。2024年の両国間貿易額はUS$484.12億を記録した。
最後に訪問したカンボジア(4月17〜18日)では37件の協定に調印した。特に中国によるリエム海軍基地拡張への支援が注目される。同国にとって中国は最大の投資国であり、2024年の貿易額はUS$150億に達した。
東南アジア各国は今後、米中間で微妙な舵取りを迫られるだろう。また、それぞれの外交戦略上の思惑もあり、米中に対するスタンスは様々だ。米国の政策が動くたびに、それに対応する形で中国も戦略を変えていくだろう。
日本企業は東南アジアにおいても米中企業との関係構築や市場進出戦略を一層戦略的に進める必要がある。特に、リスク分散のためサプライチェーンの多元化を検討し、中国系企業との競争に対しては技術力や品質で差別化を図ることが重要だ。
また、中国企業を顧客や提携パートナーとして位置付ける視点も求められる。中国が推進するインフラプロジェクトなどでは、日本の技術や製品の需要が高まる可能性がある。デューデリジェンスは必要であろうし、分野によっては経済安全保障上の配慮も必要だろう。今後、東南アジアにおいて中国企業との競争と提携を適切に見極めることがますます重要になるだろう。
*2025年4月23日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
ジョーシス株式会社
ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR) 所長兼主任研究員
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。東南アジアなど新興国政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理などが主な関心事。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりジョーシス株式会社にてジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。
共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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