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第170回[マレーシア×経済]2025年も好調が続くマレーシア経済、電子・電気とIT部門が牽引する投資と輸出

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第170回[マレーシア×経済]2025年も好調が続くマレーシア経済、電子・電気とIT部門が牽引する投資と輸出

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

3月24日、マレーシア中央銀行(BNM)が毎年恒例のEconomic and Monetary Review 2024を発表した。前年の総括とその年の見通しが分析されている。マレーシア経済を理解する上では必須の資料だ。概要を見てみよう。

BNMは2025年のマレーシア経済について、前年比プラス4.5%〜5.5%の経済成長が見込まれるとした。コロナ禍の影響で-5.5%と大幅なマイナス成長となった2020年の後、2021年3.3%、2022年8.9%、2023年3.6%と推移し、2024年は5.1%と順調に回復してきたと評価できる 。2025年も好調な成長が続くと言えるだろう。   

こうしたマレーシア経済の成長を支える原動力についてBNMは、内需については家計部門は堅調とし、労働市場の改善と政府の所得関連政策措置が家計支出を支えると見ている。最低賃金の引き上げや公務員の給与引き上げなどが後押しする。

企業投資については、電子・電気(E&E)、情報通信技術(ICT)、データセンターなどへの投資が活発になる。2021年以降に承認された製造業プロジェクトの84.5%が実施段階に入っており、新規および進行中のプロジェクトの実現が投資活動を力強く牽引し、民間投資は前年比10.1%の成長が見込まれる。公共投資もインフラ開発により、6.4%の増加が予想される。サバ州のパン・ボルネオ高速道路フェーズ1B、ムティアラLRT線、空港拡張などの主要プロジェクトの継続が含まれる 。   

外需部門では一次産品はマイナス成長となるものの、製造業輸出は好調だ。E&Eは、世界的な技術の進化や技術革新、消費者向け電子機器やAI関連半導体の外部需要に牽引される。加えて観光業の成長もあり、経常収支はGDP比で1.5%から2.5%の黒字となり、良好な対外ポジションを継続すると見られる。

インフレ率は上昇傾向がくすぶっているが、前年比2.0%〜3.5%で「管理可能な水準」にとどまる。政府が発表したRON95補助金の合理化や売上・サービス税(SST)の拡大などの国内政策措置や税制調整によるインフレ影響は、一時的なもので、抑制されると見られている。   

BNMのラシード総裁は、世界経済に対して依然として不安が残るものの、マレーシアの多様な経済構造と幅広い政策手段が、逆風を乗り切るための強靭性と機敏性をもたらすと述べた。

2025年のマレーシア経済は全般的に好調と予想されるなか、米国の関税政策や地政学リスクといった世界情勢による影響を注視しつつ見ていく必要があるだろう。

マレーシアの主要経済指標(2024年実績と2025年予測)

*2025年3月26日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

ジョーシス株式会社
ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR) 所長兼主任研究員

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。東南アジアなど新興国政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理などが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりジョーシス株式会社にてジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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