【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第165回[東南アジア×BRICS]インドネシアがBRICSに正式加盟、今後注目される東南アジアとの関係
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
インドネシアがBRICSに正式加盟した。BRICSは、ゴールドマンサックスのエコノミストが2001年に今後の成長が見込まれる国として、ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国をあげたことが始まりであり、2006年の国連総会のサイドラインで4か国による初会合、2009年に初の首脳会合が行われ、2010年には南アフリカも加盟してBRICSとなった。
BRICS加盟国は徐々に拡大している。2024年には、エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、そして、今回、東南アジアからは初めてインドネシアが加盟して、10か国まで拡大した。インドネシアは、2023年8月のヨハネスブルグサミットで加盟候補として承認されていた。新規加盟の国々のなかでインドネシアは世界4位の人口大国であり、一定のインパクトがある。BRICS諸国で世界人口の4割、GDPの4分の1近くを占めることになる。
インドネシアのBRICS加盟の意義として市場拡大やグローバルサウスとしての一角として存在感を示すなど複数の意義が挙げられるが、最も重要なのは新開発銀行(NDB、通称BRICS銀行)からの融資という新たな資金ルートだろう。
現在、インドネシアはNDBの構成国ではないが、既に参加招待をされている。NDBはインフラ開発のための低利融資や金融危機対策のための外貨準備基金などのスキームがあるため、インドネシアにとっては、インフラ開発のための新たな資金ソースともなる。BRICSをめぐる報道は政治的な文脈にやや寄り過ぎている印象があるが、NDBが提供する経済的な動機にもっと注目すべきだろう。
また、インドネシアの他に、東南アジアからはマレーシアとタイも加盟申請をしている。ベトナムは正式な意図は表明していないが、BRICS側からパートナー国として会議に招待されている。これら3か国のBRICS加盟が実現すれば、ASEAN(東南アジア諸国連合)構成10か国のうち、インドネシアを加えて4か国がBRICS諸国ともなる。
フィリピンはまだBRICS側からパートナー国などの声がけがされていない。また、米国との関係が近いことも考えると、BRICS加盟するかは未知数だ。ただ、1億人規模の国のため、仮にBRICSに加盟する流れができれば、これも一つの大きな動きとなるだろう。
フィリピンが加盟しなかったとしても、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムがメンバー国となればASEANのなかでの主要国ということもあり、東南アジアにおける新たな政治経済の力学としてBRICSという軸も加味していく必要がありそうだ。
*2025年1月14日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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