【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第160回[中国×東南アジア]相次ぐ東南アジア指導者の中国訪問。インドネシア新大統領、ミャンマー軍政の動きは要注目。
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
東南アジアの指導者が立て続けに訪中をする動きを見せている。マレーシアのアンワル首相は11月4日から国交樹立50周年を記念して訪中、李強首相との会談を行った。こちらはある意味で通常運転と言える外交日程だった。
注目すべきはインドネシアとミャンマーだ。インドネシアのプラボウォ・スビアント新大統領が11月8日から10日まで訪中し、習近平国家主席と会談することが発表された。
プラボウォ政権が10月に誕生してから、最初の外国訪問だ。なお、同大統領は今年2月の大統領選で勝利した後、3月末から4月初旬にも中国を訪問して習主席に面会している。中国重視の姿勢がはっきりと現れていると言えるだろう。ただ、訪中後には米国や英国にも訪問するとも報じられており、中国とのバランスはとりたいという意識も読み取れる。
そしてミャンマーのミン・アウン・フライン総司令官がクーデター後、初の中国訪問を行うことが発表された。11月6日から7日、雲南省で行われる大メコン圏開発プログラム首脳会議等に参加する模様だ。
この会議には中国からは李強首相が参加することが発表されているため、ミン・アウン・フライン総司令官との会談が行われる可能性がある。また、報道によれば同総司令官は重慶や深圳にも訪問するとされており、更には習国家主席と会談をする可能性もあるという。
この訪問はミャンマー軍政にとって非常に重要だが、中国が安易にミャンマー寄りの姿勢をとるかは微妙である。中国はミャンマーで資源開発などの権益があるが、クーデター後にはネピドーに特使を派遣して、軍政に対して釘を刺すシーンもあった。中国があからさまに軍政寄りの姿勢を示すことでほかのASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国からの反発を受ける可能性がある。
特に、大国のインドネシアのほか、半導体サプライチェーンで関係の深いベトナム、マレーシア、タイ、フィリピンといった国々との溝も作りたくないだろう。そうしたなかで、ミャンマーとほかの国々を天秤にかけた場合、中国のトータルのメリットはどちらにある、と判断するのだろうか。仮に、ミン・アウン・フライン総司令官と習主席の会談が実現した場合、両国の現政府の傾向を考慮すると、おそらく、詳細な会談内容は明らかにされないだろう。
深読みをするコツは、今回の訪中のみに焦点を当てるのではなく、中長期的な観点と政治経済社会といった複合的な視点から解釈する必要がある。
いずれにせよ、中国が国内景気の見通しが不透明ななか、中国にとっては東南アジアという市場をバランス良く経済圏に取り込んでいくことが重要になる。一方的なアプローチや、シャープパワーをちらつかせるような動きは、トーンダウンしていくだろう。
*2024年11月5日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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