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第157回[中国自動車メーカー×東南アジア]中国の吉利汽車、ベトナム合弁を通じて現地生産へ 〜その独特の海外戦略〜

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第157回[中国自動車メーカー×東南アジア]中国の吉利汽車、ベトナム合弁を通じて現地生産へ 〜その独特の海外戦略〜

マレーシアでProton X70として売り出された車のベースとなった中国生産のGeely Boyue(写真:Wikimedia Commons/Kevauto)

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

中国の大手自動車メーカーの吉利汽車(以下、「吉利」)がベトナム企業タスコと組んで合弁会社を設立し、現地生産を開始することが9月24日に発表された。このニュースは、単体で読むべきではなく、吉利の東南アジア戦略、あるいは中国国外の戦略として読むべきだろう。東南アジアにおける中国の自動車メーカーでは、BYDが話題に上ることが多いが、吉利もユニークな動きを展開している。

近年の吉利の東南アジア戦略のなかでは、過去に本コラムでも取りあげたが、マレーシアの国産自動車会社プロトンの株式49.9%取得だ。2017年の出来事であるが、その後、プロトンは業績を回復させている。2018年は7万台を割っていたが、2023年には15万4611台と倍以上に伸びた。未だ、第二国民車メーカーのプロドゥアには水をあけられているものの、一時期は崖っぷちと思われていたプロトンだが、再び存在感を取り戻しつつあり、輸出も徐々に増加している。

自動車産業といえば、タイとインドネシアのイメージが大きいだろう。特にタイは日本の自動車産業が進出して以来、重要な製造拠点として成長してきた。そして、インドネシアは市場規模としての魅力があり、その結果、地場のサプライチェーンも徐々に形成されつつある。そうしたなか、マレーシアは国民車という特殊な存在があり、また、市場規模も中程度ということで、やや注目度が低かった。

そうした隙間から地場を固めようという意図が吉利の動きからはみられる。ベトナムは所得の上昇もあり、また、製造業の裾野の広がりもあることから、魅力的な市場かつ生産拠点候補だ。吉利はタイにも進出しており、2024年には電気自動車ブランドZEEKERのSUV(スポーツタイプ多目的車)やMPV(多目的車)の販売を手がけはじめ、傘下の電動ピックアップトラックメーカー雷達新能源汽車の初となる海外子会社を設立している。

もちろん、中国景気のスローダウンによる国内在庫を海外で販売したいという意図もあるであろう。ただ、なかなか身の振り方がきまらなかったプロトンの受け皿となり、タイ、ベトナムと販売や製造をローカルパートナーとともに強化していくという戦略は興味深い。

むろん、東南アジアは日本の自動車産業にとって生産でも販売でも重要な地域だ。BYDの動きが注目されるなか、吉利の独特な動きも十分に観察していくべきだろう。

*2024年10月1日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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