HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第153回[政治×アナリシス]ベトナムで新体制が発足。共産党一党支配の国の政治をみる手法

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第153回[政治×アナリシス]ベトナムで新体制が発足。共産党一党支配の国の政治をみる手法

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

8月3日、ベトナム共産党の新たな書記長にトー・ラム国家主席(序列2位)が就任した。前回の本連載で扱ったグエン・フー・チョン前書記長の死去に伴う人事だ。いち政党のトップ、という意味ではなく、国全体のトップに立つのがベトナム共産党の書記長という地位である。

共産党ないし社会主義政党による一党支配(含む実質的な一党支配)の体制を持つ国は、中国、北朝鮮、キューバなど世界に数カ国しかないが、地経学的には重要な影響を持つ国々がほとんどである。日本企業の目線では、共産党一党支配体制の国のうち、経済的な関係が深い中国とベトナムは重要性が特に高い。また、北朝鮮とビジネスをしている企業はごくわずかに限られますが、日本の安全保障上は極めて重要な存在だ。

こうした国々の情勢を理解することは、他の自由主義国や民主主義国に比べていくつかの難しさが伴う。例えば、今、注目されているアメリカ大統領選については、報道やシンクタンクの分析レポートなどでそれなりに把握ができる。

一方で、共産党一党支配の国では、日本や米国と異なり、開かれた選挙は行われないため、誰が有力者なのかを判断することが難しい。党のトップ何人かの序列は分かっても、更迭や昇進の背景を探ったり、次の世代を予測したりするためにはトップの次の序列も理解したいところだ。

かつて、旧ソ連の政治分析においては、「クレムリン学/クレムリンメソッド」と言われる手法があった。クレムリンはロシアにある大統領宮殿だが、かつてはソ連共産党の本部が置かれていた。このクレムリンで行われている政治を考察することが重要ではあるものの、旧共産党体制の下では、表に出てくる情報が少なかった。

そのため、党機関誌などに掲載される共産党人事や祝典での写真から、党の権力関係を考察して重要人物を推定する。人事をみていけば、昇進した人や更迭された人が分かり、行事の写真をみると今まで出てこなかった人物が写っていることがある。こうしたことから、それぞれの人物の地位や関係を探るという手法だ。

現代では、当時の旧ソ連に比べれば、報道やシンクタンクレポートなどからの情報が増え、ここまで限定された状況ではない。ただ、それでも共産党内の動きを読むには情報が限られている事も確かだ。伝統的な手法も使いながら読み解いていく必要がまだあるだろう。

トー・ラム新書記長
写真:Wikimedia Commons/ en.kremlin.ru

*2024年8月7日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
SNSリンクはこちら

バックナンバーはこちらから
【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】

チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ