HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第149回 [グローバル×ダイバーシティ]LGBTに対する認識調査、一般的なイメージでは捉えきれない実態

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第149回 [グローバル×ダイバーシティ]LGBTに対する認識調査、一般的なイメージでは捉えきれない実態

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

調査会社イプソスが23か国のLGBT+についての意識調査レポートを発表した。東南アジアではタイは寛容な社会だろう、シンガポールはやや保守的というイメージが一般的だろう。そうした印象についてデータでみてみたい。項目は多岐にわたり興味深い内容のため“IPSOS LGBT+ PRIDE REPORT 2024 A 26-Country Ipsos Global Advisor Survey” で検索してオリジナルも見て欲しい。

まず、LGBT+の人々が自らの習性上の性や性的自認を周囲に明らかにすることについて、世界平均は賛成50%、反対15%だった(以下、%省略)。最もタイは賛成が世界で最も多く68、反対はわずか7。これに対して、シンガポールは賛成45対反対15でほぼ世界平均値となった。日本は支持29に対して反対25となり、どちらでもないという立場が半数近くとなった。

この設問でタイはイメージ通りだが、婚姻となるとやや異なる結果が出た。世界平均は賛成が55で反対が16に対して、タイは賛成が58で反対が9と世界平均に近づき、どちらでもないという人たちの割合が多めとなった。婚姻関係となるとやや保守的な姿勢になる。

シンガポールは賛成33、反対25であり、婚姻に対しては一段と慎重な姿勢が読み取れる。2022年に同性愛行為が刑法上の罰則対象から外れたものの、リー・シェンロン首相が同性婚についてはまだ認める段階ではないと発言した流れも影響しているかもしれない。日本は42対6と、再び、どちらでもないという立場が目立った。

一方で、養子縁組についてはタイでは賛成は82%と世界一高い割合となり、異性婚と同性婚を問わず養子縁組が広く行われている欧米諸国よりも高い数字になった。シンガポールは賛成57、反対30となり、世界平均の63対29よりも若干消極的な数字となった。

興味深いのは日本の回答で多くの設問で「どちらでもない」が多めだった事に対して、賛成は64と世界平均を上回り、反対も18で世界平均を下回るという結果になり、同性婚カップルの養子縁組に対する許容度が高めだ。

LGBT+の人々に対する認識は各国の社会情勢や文化、習慣が大きく影響しやすい。イプソスの調査をみると項目によって考え方が異なり、シチュエーションによって考え方が変わり、一概にイメージが当てはまらないことが分かる。今後の社会変化を受けて、どのように認識が変わるのか見守っていきたいところだ。

*2024年7月3日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
SNSリンクはこちら

バックナンバーはこちらから
【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】

チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ