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-第143回- [米国テック×東南アジア]日本企業も注目すべき、米国テック企業の東南アジア投資の動き

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第143回- [米国テック×東南アジア]日本企業も注目すべき、米国テック企業の東南アジア投資の動き

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

最近の東南アジアに対する米国ビックテック系企業の投資が目立っている。ごく最近の事例だけでも、大きく目を引く事例がある。

まず、東南アジアを訪問したマイクロソフト社のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)が4月30日にインドネシアでは2025年までにAI人材育成などのために17億米ドルの投資、5月1日にタイで東南アジア地域初となるデータセンターの開設、5月2日には今後4年間で人工知能とクラウド分野の強化のためにマレーシアで22億米ドルを投資することを表明した。

そして、アマゾン・ウェブ・サービスは5月7日、2028年までにシンガポールでのクラウド関連の設備投資に120億シンガポールドルの投資することを発表した。東南アジア地域のデータ需要に対応するための設備投資や、新しいテクノロジーとしてAIの普及を見込んだ現地人材の育成を念頭に置いた投資といった動きである。

こうした動きは日本企業にとってもプラス面が大きいだろう。今後、中長期的には東南アジア各国においても、欧米諸国などのようにプライバシー保護の観点からデータの扱いについての規制が強化されて地元にデータセンターが必要になるケースも出てくるかもしれない。特に、AIに精通した人材が現地で雇用できることは、今後の東南アジア戦略において重要性が増すだろう。

これまで東南アジアではテック人材の雇用は、総じて見れば容易なものではなかった。もちろん、全く雇用できないわけではなく、シンガポールは優位性があり、マレーシアやベトナムなどでも優秀なテック人材は存在する。ただ、一定水準を超えるハイレベル人材となれば各社での争奪戦となってしまう。

加えて、今後、AIを扱うことは特にハイレベル人材でなくても必要になってくる。ChatGPTなど生成AIの基本操作は一般的なビジネススキルになるであろうし、一定以上使いこなし、自社のビジネスに実装化する、あるいは実装課程で外部コンサルタントを上手に活用するといった応用スキルを持つ人材の存在は、ごくごく当たり前になるだろう。

このように米国テック企業による投資でクラウド設備やデータセンターが強化され、一定水準の人材が育成されていく動きは、日本企業の東南アジアにおける中長期的な人材採用や組織強化といった視点から、今後、要注目だと言えよう。

*2024年5月8日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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