HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第135回-[中国×景気]
春節、中国からの日本インバウンド現象は景気が原因なのか

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第135回-[中国×景気]
春節、中国からの日本インバウンド現象は景気が原因なのか

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

春節の休みが終わった。日本では中国からのインバウンド観光客が少なかったという類いの報道がされていたり、メディアのコメンテーターも発言したりしている。日本のインバウンド自体はかなり好調だ。2月20日時点では、まだ2024年に入ってからの公式統計はでていないが、日本政府観光局(JNTO)が発表している最も新しいデータである2023年12月は、273万4千人を記録し、かつ、コロナ禍後の単月で最高、そして12月としても過去最高という状況だった。

筆者のインバウンド関係者の知人たちも、非常に忙しくしているし、時折交わす会話でも、「ほぼコロナ禍前」、「同水準」、「ものによってはコロナ禍前を越えている」といった前向きな発言が多い。

そうしたなかで中国本土からの訪日客は以前に比べると、確かに目立たなくなっている。この原因については、一部では中国の景気減速が影響しているという解説を聞くことがある。本当にそうだろうか。

今年の春節の国内旅行客は4億7千万人であり、コロナ禍前から19%増と中国の文化旅行省は発表している。金額でみても約12兆6千億円で2019年と比較して7.7%増である。これに対して、海外旅行者数は360万人だった。2019年の春節では631万人が海外に出ているため、回復はまだまだ先というイメージだ。こうしたデータをみて、国内にシフトしたという見方をする人や、「日本に行くのをやめた」といったタイトルのついた記事、ビザが不要になったシンガポール、タイ、マレーシアへのシフトが起こっている、といった分析などを目にしている。

ただ、単純な理由としては日本への渡航は、まだビザの取得が必要ということが大きいのではないかとみられる。パッケージツアーは大幅緩和されたが、個人で来日するには、まだ手続き上のハードルがある。先日、中国専門家と議論することがあったが、景気よりもビザの問題が大きいという見方が大勢だった。

中国景気について楽観する意見はなかったが、日本インバウンドと結びつけることまでもできない。もし、国内景気が悪いことが原因であれば他国のインバウンド観光客にも同様の傾向がみられなければいけないが、必ずしもそうとは言えない。来日して一定金額を消費できるような層は、一定の所得や資産をもち、短期的な景気にはあまり左右されないとみる方が自然ではないだろうか。

*2024年2月21日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
SNSリンクはこちら

バックナンバーはこちらから
【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】

チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ