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-第133回-[シンガポール×政治]38年ぶりに汚職疑いで現職閣僚が辞任、シンガポールの腐敗対策のゆくえを注視

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第133回-[シンガポール×政治]38年ぶりに汚職疑いで現職閣僚が辞任、シンガポールの腐敗対策のゆくえを注視

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

1月17日、シンガポールのイスワラン運輸相が閣僚および議員辞職した。ブルームバーグの報道によれば、現職閣僚が汚職疑いで辞任するのは1986年以来とのことである。シンガポールはクリーンなイメージが強い。政治家や公務員に対する汚職退職だけでなく、汚職対策の中心的な法律である腐敗防止法では、私人間の不正利益提供、いわゆる商業賄賂も処罰の対象となる厳しさだ。

イスワラン氏が逮捕されたのは2023年7月11日である。今回の辞職は1月18日の当局による起訴を受けての対応となった。イスワラン氏は、実業家でオン・ベンセン氏から38万シンガポールドル相当の賄賂を受け取ったとして、27の容疑がかけられている。

オン氏は、ホテル・不動産大手の上場企業ホテル・プロパティーズ社の社長だ。関連会社のシンガポールGP社は、その名前の通り、F1のシンガポールグランプリを主催する会社だ。F1開催を巡っての賄賂とみられている。イスワラン氏は全ての容疑に対して否認している。今後、司法の場で実態が明らかになっていくだろう。

シンガポールのクリーンさは、暮らしていれば実感する事である。また、政府はGovTechを推進してデジタル化を進めているため、「曖昧さ」が介在する余地が狭まっている。金融でも電子決済が進み、現金経済を脱していくと、汚職は難しい。汚職において、多額の金銭のやりとりは伝統的には現金で行われていた。銀行口座の送金などをすれば、不審なカネの動きとして検知されやすく、また、税務当局も目を光らせている。

クリーンさについて客観的な指標はないが、よく参考にされるものとして、国際NGOのトランスペランシーインターナショナルが作成している腐敗認識指数がある。この指数については賛否両論があるものの、他に数値化している有力な指標がほとんどないため、クリーンさを示す手がかりとしてよく利用される。

1995年から公表されているが、シンガポールは一貫して上位を保っている。1995年のデータを振り返ると、シンガポールは1位ニュージーランド、2位デンマークに次いで3位となっており、直近の2022年ではデンマーク、ニュージーランド、フィンランド、ノルウェーについで5位である。27年間、ほぼ世界5位以内、低めでも10位以内を維持してきた。

こうした状況であるからこそ、今回の汚職事件はシンガポール社会に与えたインパクトは大きい。今後、司法による裁きを待ちつつ、当局が腐敗防止をどのように強化していくのか、注視していきたい。  

2022年腐敗認識指数(上位10か国、日本、ASEAN6)

出所) Corruption Perceptions Index by  Transparency International より筆者作成

*2024年1月24日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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