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-第131回-[アジア×人口]急速に低下するアジア新興国の出生率、成長のカギは技術革新に

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第131回-[アジア×人口]急速に低下するアジア新興国の出生率、成長のカギは技術革新に

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

韓国統計庁は12月16日、合計特殊出生率(以下「出生率」)を0.78と発表し、改めてその低さに注目が集まった。日本も少子化と言われるものの1.26である。ただ、日本も韓国も先進国である。少子化は先進国の課題というイメージが強いが、新興アジアでも日本並みの少子化が進んでいる。

新興国は人口増と若い人口というイメージがある。だが、出生率は低下傾向だ。生産性の違いを度外視して単純化すれば、人口は経済成長の源でもある。政府や企業が資本を投下して、大きな人口で生産活動を行い、賃金を得た労働者が消費者として消費活動を行い、経済成長が実現していく。人口が減少すれば、この循環に影響がでることが分かるだろう。

具体的に、いくつかのアジア新興国のデータをみてみよう。国立人口研究所の資料によれば、人口の維持には2.07以上が必要とされ、人口置換水準と呼ばれる。この水準を下回る、つまり人口減少を迎えた新興国としては、タイ1.3、マレーシア1.8、ベトナム1.9などがある。このうち、タイは超少子化の基準とされる1.5を下回り、さらに深刻とされる1.3の水準にまで落ちこんでいる。

経済発展の水準を考えるために、ひとり当たり名目GDPを参考とする。先進アジア諸国をみると、日本は1981年に1万ドルに到達して1995年に4万ドルへ、韓国の場合は1994年に1万ドルに到達して2017年には3万ドルへ、シンガポールは1989年に1万ドルに到達して2022年には8万ドルへと成長した。

一方で、すでに人口減少局面を迎えた新興アジアについてみてみる。ベトナムは右肩上がりで成長著しいが、2022年で4163ドルである。タイは2019年に7628ドルまで到達したが、その後、コロナ禍の影響を受けて2022年は6908ドルまで低下した。マレーシアは2011年に1万ドルを突破したが、人口置換水準は下回っている。間もなく高所得国化するマレーシアはまだしもとして、その他の国はまだ先進国水準に到達するにはまだ時間を要する。そこに人口減少という課題も生じているのだ。

人口減を補うには技術革新で生産効率を上げていく必要がある。新興アジアでは「リープフロッグ現象」が起きており、今後、人口減少をカバーするほど変革するのか、重大な注目点だ。

出所)世界銀行、UN Populationより筆者作成

*2023年12月19日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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