【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第126回-[日本の歌謡曲×シンガポール]故・谷村新司さんが歌った「シンガポール・スリング」の情景と日本人歌手たちが愛したシンガポール
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
10月8日、歌手の谷村新司さんが74歳の生涯を閉じた。1948年生まれの谷村さんは、日本の昭和、平成、令和と日本の歌謡シーンを彩った。
中国では「昴」が多くの人々に親しまれたほか、上海音楽学院で中国の学生に音楽を教えた功績もあり、非常に知名度が高い。2017年の日中国交正常化45周年記念コンサートや2010年の上海万博でも歌い、日中友好のシンボルでもあった人物だ。中国のSNSでは悲しみの声が広がり、10月16日には中国外交部の毛宁報道官は、日本プレスの質問に対して「哀悼の意を表します」と応じた。
谷村さんは1981年、アリスのメンバーとして中国で初めてコンサートをした。2023年10月22日付けスポニチアネックスは、谷村さんの盟友である歌手ばんばひろふみ氏に取材し、この公演のとき、谷村さんは鄧小平国家主席に近づき、目の前でギターを弾いたというエピソードを掲載した。
谷村さんはシンガポールの情景も歌に遺している。1993年にリリースされたアルバム「バサラ」の6曲目に「シンガポール・スリング」という曲が収められている。
歌詞では友人関係にあった女性に対して恋心を抱く様子が歌われている。「古いホテル」と表現されたラッフルズホテルで女性がシンガポールスリングを飲んでいるシーンもある。ラッフルズホテルの様子は、「そこに時はない」、「プールサイドの木陰で小説をめくる」といった描写が出てきており、雰囲気がよく伝わってくる。当時は、ロングバーがまだプールサイドの元の場所にあった。
日本の歌謡曲にはシンガポールが登場する曲が結構ある。Uta-Netの歌詞検索で「シンガポール」と入れると51曲がヒットする。さらにタイトルにシンガポールを冠した曲は9曲ある。
谷村さんの「シンガポール・スリング」のほかに、クレイジーケンバンドが同曲名のタイトル、タイトル表記が若干異なるTUBE「シンガポール スリング」があり、庄野真代「シンガポール航海」、橋幸夫「シンガポールの夜は更けて」、山内惠介による同名曲、麻生真美子&キャプテン「シンガポール・スリリング」、武藤昭平 with ウエノコウジ「シンガポール急行」、NMB48「まさかシンガポール」だ。
このうち、シンガポールスリングが主題となっているのは3曲もあり、スリ「リ」ングというパロディも入れれば4曲になる。日本人の心に、シンガポールスリングの印象がしっかりと刻まれているようだ。
アジアの情景を歌詞に込め、友好関係に貢献した谷村さんの功績は大きい。彼の曲を聴きながら、哀悼の意を示したい。
シンガポールをタイトルに冠した日本の歌謡曲
出所)各アーティストの公式サイト、音楽データベースサイトから筆者作成。原則、CDやレコードとしてリリースされた年を採用した。
*2023年10月24日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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