HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第124回- [日本外交×脱ODA]日本とマレーシアの二酸化炭素地下貯留事業から考える、ODA卒業国に対する外交リソースのあり方

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第124回- [日本外交×脱ODA]日本とマレーシアの二酸化炭素地下貯留事業から考える、ODA卒業国に対する外交リソースのあり方

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

日本は国際舞台で長らく政府開発援助(ODA)を重要な外交政策の一つとして活用してきた。現在も各地で行われているが、開発途上国に対して行われる支援のため、一定程度、経済発展が進んだ国は対象外となる。

開発途上国から成長著しい新興国となる国々が多くなるなか、ODAの対称から外れていく国が増えるのは必然だ。対象国からはずれると、いわゆるODA外交はできなくなるため、他の打ち手が必要となってくる。

ODAの受け取りができる国は、経済開発協力機構(OECD)基準でリストが作成され、3年ごとに改訂される。このリストに掲載されるかどうかの基準は二つある。

第一に、世界銀行の「高所得国」の基準を下回る国である。高所得国とは、国民総所得(GNI)で1万3846米ドル以上の国を指す。第二に、国連によって後発開発途上国(Least Developed Countries)に分類される国々(一人当たり国民所得(GNI)、人的資源指数(HAI)、経済脆弱性指数(EVI)によって判断される)である。

第二の要素はあるとしても、まずは、1万3486米ドルという基準が目安となろう。アジアで言えば、かつてのシンガポールを除くと、現在、この基準を超えつつある筆頭格がマレーシアであり、ひとり当たりGNI1万1780米ドルにまで到達している。OECD基準に到達するのは時間の問題である。実際、日本政府の国別援助計画をみても、残されている計画は研修などに限られ、大型インフラを作るなど大規模な案件はなくなっている。

そうしたなか、興味深いニュースが入ってきた。西村経済産業相が9月25日、脱炭素社会の実現に向けて、回収した二酸化炭素をマレーシアに輸送して地下に貯留する事業を検討していることを明らかにした。2028年の実施を目指すと日本政府から発表されている。

この技術はCCSと呼ばれ、海外で行う取り組みは日本としては初めてである。こうした環境分野などの先進的な対応が必要なとき、高所得国に入りつつあり、技術水準や社会的な意識も高まっているマレーシアが選ばれたことは興味深い。

今後、脱ODA諸国は必然的に増えていくため、対等な関係でより先進的、高度な分野で協力していくことが求められる。従来の枠だけでは達成できないため、政策立案をして実行するには苦労も多いだろう。ただ、そうであるからこそ、相手国との関係や両国経済の成長に貢献する意義がたかまり、存在感を示すことにつながるだろう。


*2023年9月27日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
SNSリンクはこちら

バックナンバーはこちらから
【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】

チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ