HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第123回- [アジア×地政学]ベトナムとインドに注がれる「熱視線」

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第123回- [アジア×地政学]ベトナムとインドに注がれる「熱視線」

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

ここ数ヶ月間、アジア大洋州における力学が変わりつつあることが読み取れるイベントが多く発生した。すでに、中国から南、西へのシフトは話題となっているが、そういった動きが加速するイメージの動きであり、国際社会は、ベトナムとインドにフォーカスしている。

ある意味では、この流れは、両国の市場規模、産業発展、テクノロジー人材などを考えれば、当然のことでもある。それを踏まえても、なお、ここ数ヶ月は特に目立つ動きがあったことが見逃せない。

まず、ベトナムへの主要国の首脳や閣僚級の訪問が多く、ベトナムへの関心の高さがうかがえた。9月10日〜11日にはバイデン米国大統領が訪問し、包括的戦略パートナーと位置づけることが発表された。米国は、パートナーシップを「包括的」、「戦略的」、「包括的戦略」と3段階で捉えている。

ベトナムはこれまで「包括的」であったため、今回は「戦略的」を飛び級して「包括的戦略パートナーシップ」と最上位の位置づけとなった。米国に先立って、6月には豪州のアルバニージー外相、韓国の尹錫悦大統領、8月にはシンガポールのリー・シェンロン首相も訪問した。

次に、インドについては、様々な報道でも大きく取り上げられており、明らかに露出が高まっている。今年は年明け早々となる1月12日〜13日にインドが「グローバルサウスの声サミット」を開催し、最近では9月9日〜10日に開催されたG20での議長采配が話題となった。

こうした外交上の存在感はもとより、経済誌などがインド特集を組み、政治経済や投資環境、日本企業の進出事例などを報じていたり、急成長スタートアップに注目したりしている。日本語メディアで、これだけインドの扱われる頻度が高いのは、初めての事ではないだろうか。

わずか四半世紀前には中国が「世界の工場」として注目され始め、2001年のWTO(世界貿易機関)に加盟したことで、中国の世紀を予感させた。また、新型コロナウイルスのパンデミックの数年前には、深圳ブームや中国テック企業への関心が高まった。そこから今度は、インドとベトナムへの熱視線の時代に入った。

ただ、ベトナムとインドがサプライチェーンで中国に代替できる状況では無い。一部の補完、あるいは、新市場のマーケット性という着目の段階だ。そうしたなか、やはり、中国は経済規模や国際政治における存在感から、バイアスなくしっかりとみておかなければならないことも確かだろう。

ベトナムの最高指導者グエン・フーチョン書記長(右)と米国バイデン大統領(左)

(出所:The Executive Office of the President of the United States/Wikimedia Commons)

インドのモディ首相

(出所:Prime Minister’s Office, Government of India/Wikimedia Commons)


*2023年9月13日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
SNSリンクはこちら

バックナンバーはこちらから
【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】

チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ