【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第118回-[シンガポール×インバウンド]シンガポール、年末には10人に1人が日本への訪問を経験する見込み
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
第114回で日本のインバウンド復活をテーマとして、東南アジアから日本への旅行客数について取り上げた。統計データをよく見ていくとシンガポールについて特徴的なことに気が付いた。
日本政府観光局(JNTO)は、6月21に最新の訪日外客数の推計統計を発表している。今年の1月から5月が対象だ。5月までの累計でみると、今年は863万人であり、コロナ禍前(2019年)は1375万人からはマイナス37%で、500万人ほど少ない状況だ。
大きな原因は、まだ回復が遅い中国だ。コロナ前の365万人から38万人にとどまっている。つまり、500万人ほど少ない状況のうち、6割近くが中国からの外客の落ち込みなのである。中国以外の国・地域のなかには、コロナ前水準には近づいてきていたり、単月ではコロナ前を上回ったりする国が出ている。
そうしたなか、コロナ禍前以上に日本への観光が最も盛り上がっている国は、シンガポールである。シンガポールは5月までの累計で、コロナ禍前に比較して18.8%とプラスの伸びを示している。人数でみれば19万8100人で第10位だ。今後、コロナ禍前水準に回復すれば、おそらくトップ10からは滑り落ちてしまうだろう。
しかし、よく考えれば、シンガポールの人口は564 万人と分母が小さい国だ。5月だけをみれば、シンガポールから日本には4万9700人の外客があった。仮に、今後もこのぐらいの水準が続くとすれば、年末までには50万人から60万人ぐらいまで到達してもおかしくない。つまり、シンガポールの人口比でみれば、10人に1人が1年間に1度は日本にいったという計算になる。
他国の人口はシンガポールよりもはるかに大きい。かつ、シンガポールの所得水準を考えれば、絶対数こそ、中国・香港・台湾、韓国といった東アジアの国・地域に比べるとはるかに少ないが、人口比や「財布の厚さ」を考えれば、日本にとって重要な外客である。
訪日外客統計には「駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客数に含まれる」という注意書きがあり、日本人の往来も一定数影響しているとみられる。そうした日本人の往来も含め、シンガポールの人口比で1割が日本に来訪していることは、両国間の関係形成において重要な事実だろう。
訪日外客数(2023年5月推計値)
出所)日本政府観光局「訪日外客数(2023年5月推計値)」(2023年6月21日発表)より筆者作成
※注:訪日外客数とは、法務省集計による出入国管理統計に基づき、算出したものである。訪日外客は、外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のことである。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。なお、上記の訪日外客には乗員は含まれない。
*2023年7月19日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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