HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第113回- [米国×中国] 緊張関係が高まる米中関係。貿易データは何を語るのか。

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第113回- [米国×中国] 緊張関係が高まる米中関係。貿易データは何を語るのか。

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

ここ数年、米中関係は国際情勢で最も注目されている要素である。世界1位と2位の経済規模であるから、当然とも言えるが、特定の工業製品やソフトウエアの貿易制限などを通じて対立が先鋭化しているようにみえ、米中デカップリングという言葉まで生まれている。

そして、台湾をめぐる米中の牽制や人権問題など、政治や安全保障問題が両国の対立に拍車をかけている。しかしながら、データをみると米中が切っても切れない関係にあることがはっきりとわかる。様々な視点があるが、わかりやすいところで貿易を見てみたいと思う。

両国関係が緊張化しており、一部の貿易制限も行っていることから、貿易が減少しているのではないかと思ってしまうだろう。しかし、実態をみれば、2022年には両国間の貿易総額は5,815億6,471万米ドルと過去最高を記録を記録した。しかも、微増ではあるものの、3年連続の前年比で増加となった。

3年前といえば、米国のトランプ政権が対中貿易赤字を減らすために、中国に対する貿易制限を強化していた時期と重なる。2017年にトランプ政権が発足してから、米国は中国に対して厳しい姿勢をとるようになり、2018年には関税強化、そして2019年には通信機器製造大手ファーウェイなどの中国ハイテク企業の製品には、安全保障上の懸念があるとしてエンティティリストに掲載した。

その後も、様々な措置がとられ、緩和された場面はほぼない。貿易赤字という経済的な視点と安全保障上の理由から、両国の妥協点は、なかなか見いだせない。

米国の貿易相手国をみると、輸出先は1位カナダ17%、2位メキシコ16%と地続きの隣国が並び、3位に中国が7%であり、輸入先は1位が中国18%、2位メキシコ15%、3位カナダ13%となっている。

一方で中国からみると輸出先の1位は米国17%、香港10%、日本6%であり、輸入先は1位は韓国9%、2位日本8%であり、ついで7%で微妙な差で豪州、ドイツ、米国となっている。(CIA The World Factbook掲載の2019年データ)

このように、米国と中国は貿易面では切っても切れない関係となっており、米中摩擦と言われながらも、貿易額が過去最高を更新している。そして、両国間の首脳や閣僚レベルといったハイレベル会談は、厳しい内容ながらも、途絶えることなく実施されている。イメージだけでみると読み取ることができない側面をデータや事実は語ってくれる。

出所) Statista/US Census Bureau;US Department of Commerce

*2023年5月24日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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