HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第112回- 「シンガポール×不動産市場」データでみるシンガポールの家賃。実際はどのぐらい高くなったのか

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第112回- 「シンガポール×不動産市場」データでみるシンガポールの家賃。実際はどのぐらい高くなったのか

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

シンガポールの賃貸相場が上昇していることは、当地に暮らしている人々の重大な悩みだろう。高騰の背景としては様々な指摘がされているが、筆者が複数のマクロ経済専門家や不動産業界関係者と議論したところ、コロナ禍で屋外活動に制限がかかった上に外国人労働者が不足したために建築計画が遅れたことと、国際商品価格の高騰を背景とした資材の値上がりが特に重要だとみられる。

筆者の場合、最後に住んだ家は2020年4月に入居し、2023年3月に退去。つまり、コロナ禍の期間と一致していた。幸いだったのは、家賃上昇は3割ほどの上昇にとどまったことだ。後の入居者はさらに家賃が引き上げられたが、それでも、同じ物件内では少し安めだった。

推測するに、オーナーは値段を上げすぎて入居者が躊躇して家賃収入の期間に空白が生じるのであれば、多少安くしても絶え間なく入居して欲しい、という気持ちがあるのかもしれない。こうした家賃高騰の波は、民営のコンドミニアムやアパートメントに比べれば緩やかではあるが、住宅開発公社(HDB)の物件にも及んでいる。

では、数字で客観的にみたマクロ感はどうなのか。それを知るために、データが入手しやすくて見やすく、かつ手法面でも合理的なSingapore Real Estate ExchangeのSRX Property Price Index Singaporeというデータを使ってみたい。このデータはHDB、民間コンドミニアム等、土地付き物件の販売と賃貸、地域、部屋数といった分類があるが、ここでは民間物件の賃貸全体、かつ、シンガポール全域を取り上げる。

コロナ禍の足音が聞こえ始め、もしかしたらとんでもないことになるのではないかと言われ始めた2020年1月は93.5だった。しばらくはほぼ横ばいが続いていたが、2021年に入ると上昇し始め、8月には100.3となり、2014年11月以来の100ポイント越えとなった。

ここからは図の通り急カーブを描き続け、2023年2月には145.0に到達した後、3月には僅かながら下がって144.6となった。したがって、コロナ禍から現在まで概ね1.5倍強になったことが分かる。なお、HDBの賃貸で同時期をみると2020年1月の86.8から2023年3月は127.5へと上昇しており、こちらもほぼ同じ割合で上昇したと言える。

人伝で言われている1.5倍ぐらいという肌感は、マクロデータとほぼ合致している。2倍になったという人もいるから、個別事情の影響もあるだろう。こうした状況も、建設の再開といった供給状況の改善や政府の各種政策を背景として、ピークアウトをいつ迎えるのかが注目されるところだ。

出所)Singapore Real Estate Exchangeより転載

*2023年5月16日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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